ニセモノの共感と、わかり合わずにわかり合うこと。
さて、弊社アクシスのメンバー紹介は定期的に行うとして、不定期ですが私個人が人材斡旋の仕事をしている中で、感じた事、考えたことを吐露して行こうかなとも思います。
もしご興味があれば、お読みいただければ。そして、何かを考えたり感じたりのヒントになればと。
①関係の土台構築と共感
今日の話は、「ニセモノの共感」の話です。
エージェントの仕事は対個人・対企業の二面性を持っていますが、特に個人に対しての仕事の大半は「話を聞く事」に終始します。
人材というサービス業のほか、接客販売や営業、はたまた、教員や医師など、相手が存在する仕事において「話を聞く」と言う事が非常に大切になるのはわかっていただけると思います。
特に、相手の納得感を醸造する事が重要な仕事においては、
「何を言うのか」ではなく「誰が言うのか」が非常に大切になってきますが、
その関係の土台である、「この人から言われるなら納得できる」を構築する前に正論をぶつけるのは、あまり賢い行為とは言い難いと思います。
関係の土台構築の一つの手法として、「相手への共感を示す事」が非常に有効だと、私がリクルート新人時代に飽きるほど言われました。「面談では共感が大切!」「一緒に頑張ろう!って言う事が大事!」「伴走する事が大切!」という具合です。
ただ、それにいつも少し疑問を感じていました。
どちらかと言うと、
【一体感 < 自律】
【感情 < 論理】
というタイプである私。人材に飛び込む前からずっと接客をしていたので普通に伴走型の対応はできるものの、
リクルートでは、共感=「優しく相手に寄り添って頷く事である」と言うようなニュアンスで使われていたために、
寄り添われたくない人(自分のような人w)もいるんじゃ…と言う気持ちもあり、モヤッとしていました。
②共感できない悪循環
キャリアアドバイザーであれば(もしくは人であれば)誰しもが思った事があるのでは無いでしょうか。
・あの人はなぜそんな考えになるのかわからない
・あの人とは当たり前の基準が違って話が理解できない
・あのタイプの人とは自分はそもそも合わない etc…
このように、人は誰しも、自分の考えや感じ方とは違う人に対して「わからない」と言う言葉で、距離を置こうとします。私も新人時代によく「あの人のことはわからないわ…」という愚痴をこぼしていました。
とはいえ、わからないなりになんとか仕事をしないといけないので、うわべの理解で身を覆い、しかし本音では愚痴をこぼし、ストレスを増幅させていく悪循環でした。
③共感は単なる自己投影である
私がよく様々な学びの参考にしている、名越康文さんという有名な精神科医がおられます。TVにもよく出られているのでご存知の方も多いと思います。
その方がおっしゃっていたことで非常に納得したのがこちらの内容です。
(参照)https://townwork.net/magazine/life/15460/
私たちの耳から入った「相手の話」はほとんどの場合、無意識のうちに脳内に作り出した自己実現の肥として消費されてしまっているのです。
「かわいそう!」「わかる!そういうことってあるよね!」という瞬間的な共感のほとんどは、相手の境遇に感情移入したものというよりは、自分の弱さや、抱えている問題を相手にそのまま投影している(=自己投影)だけなんです。
つまり、私たちがよく言う「共感」とは、単なる「自己投影」であり、もっと言うと「自分の感情の昇華の手段」としてしまっている、ということです。
例えば私たちは、自分の理解の枠組みを超えた情熱を持つ人を目の前にすると、奇異に感じるか、あえて軽んじようとしがちです。なぜそうなるかといえば、結局のところ、自己投影しづらいからです。次第に、私たちは自己投影しづらい相手や言葉(本)を遠ざけるようになります。
人の話を、本当の意味で「聞く」ためには、私たちは自己投影をやめ、感情移入(異質なものへの共感)の段階に進むことが必要です。しかし、それができる人は本当に稀です。人はそれだけ、眼前の事実を、事実として認めることができないのです。
自己投影できないから、奇異なものであるから本能的に排除しようとしてしまう。遠ざけてしまう。
自己投影できないから、思ったようにならないから、数字につながらないから、「理解できない」と切り捨ててしまう。
これって、つまり、「最近の若いモンはおっさん」が、みんなの心の中にいると言うことです。
④本質的な共感って何?
参照元の文章においては、
自己投影を卒業し、感情移入(異質なものへの共感)の段階に進むことが求められるのです。それだけが、自分を超える、唯一の道なのです。
とあります。
では、異質なものへの共感とはなんだろう?異質なものを受け入れる、つまり、それこそ仏の境地で全てを受け入れることなのか?など、色々と考えている中で、だんだんと明確になっていった事があります。
本質的な共感とは
「その人の生まれた時代や地域、家庭環境、家族構成、交友関係、性格特徴などをつぶさに知り、その人が日常的にどう考え行動しているのかに想いを馳せる事である」
と言う事です。
私は今38歳で、関西の田舎育ちで美大出身、自営業の親のもとで育ち、10代後半はサブカルに傾斜し、就活をあまりちゃんとせずにフリーターを経て、アパレルでなんとか仕事をし、リクルートに運よく入れて、なんとか食らいついてきた叩き上げの人間です(めちゃくちゃやん)。
そんな私が、例えば世田谷生まれで幼い頃からネットが身近な環境で育ち、私立の中高にいき、お父さんは毎日スーツで出社する家庭で、早稲田出身で大手ナショナル企業に新卒入社した方の気持ちを本当にわかると思いますか?
そう、わからなくて当たり前なのです。
みなさん、候補者(もしくは仕事相手)との面談の前に、相手のことを調べて準備をしますよね。
その時に、どのくらいその人のペルソナを考えているでしょうか?
家族の中で何番目に生まれ、お父さんやお母さんはどんなお仕事で、その子にどんな期待をし育てていて、子供の頃はどんな遊びが好きで、お小遣いはどのくらいで、通った学校はどんな風土で、学校帰りにはどんなところで遊んでいて、何歳くらいからスマホを持っていて、友人とはどのくらいの頻度で何をして遊んでいて、どんなアルバイトをしていて、友人はどんな会社に勤めていて、SNSを日常的にどう使っていて、なんの漫画を読んでいて、普段よく見るメディアは何で…。
そういった人が考える「普通」「当たり前」「価値観」ってなんだろう?
ここまで考えているでしょうか?
これが、私が考える「本質的な共感」です。
⑤共感をして初めて認める事ができる
感情ベースで、人間同士が全ての人と完全に理解し合うことは不可能に近いのではと思っています。
しかし、前項目で述べたように、相手の状況を深く理解することで「そういった考えに至る経緯は理解できる」状況にはなれるはずです。
例えば、現在の日本全体での平均年収は約430万前後ほどと言われていますが、
たまに、20代前半で「キャリアチェンジ転職をして、年収は普通に600万くらいもらいたい」とご希望される方がおられます。
転職市場のことやスキルと給与の考え方、人件費の算出方法などを理解している側からすると、
「…は?」
と思い、すぐに「そんなのは無理です」とつい言いたくはなりますが、
そこで思いを馳せてみて欲しいのが、相手はどうしてそういう希望を言ったのか、です。
周囲のみんな裕福でそれが相手の当たり前なのかもしれない、ご両親からそれくらいもらわないとと言い聞かせられてきたのかもしれない、友人がそのくらいもらっていると自慢したのかもしれない、そういった内容の煽るようなブログを読んだのかもしれない…
そう考えていれば、「そういった考えに至る経緯は理解できる」という状況になり
であれば、「そういった考えに至る方には、どのように理解を示した上で、どのように伝えれば良いのか」という解決策を探ることができます。
そうすると、相手との信頼関係の土台が構築され、共通言語で会話をし、物事を建設的な方向に進めていくことができると思っています。
これは結果的に、極論として、相手のことを「わからなくていい」と思っているということです。
⑥認める=わかる、ではないという認識が多様性を担保する
わからなくていい、「存在を認める」ことさえできればいいのですが、わかろうとするから苦しくなるのです。
仕事相手、社内の人間、友人など…みなさん、人と分かり合えなくて苦しむことは多いと思います。
しかし、いつ誰から「わからなければならない」と命令されたのでしょうか?
・きちんと仕事をしなければならない
・相手のことを理解しなければならない
・売り上げを上げなければいけないのに思うようにいかない
という、いろんなことに挟まれ、いつの間にか自分が作り上げたルールに縛られて、
「わからない私が悪い」「わからないからあの人が悪い」と思ってはいないでしょうか?
おそらく、分かり合えない人とは一生分かり合えないとは思うのですが、
ただ、「存在を認める」ことはできると思います。
そうすると、すこし、気持ちが、仕事が、楽になります。
(補足)
もちろん、相手との関係の中でなんらかの実害がある場合は一定の距離を保ち、関連性をなくすことの方が心身ともに健康でありうるので、そういった場合は別です笑。
■まとめ
長くなってしまいましたが…
今日お伝えしたかったのは、
・あなたの思う共感は自己投影ではないですか?
・わかり合わずに認めることはできる
ということです。
とはいえ、感情をコントロールすることは論理で説明されても難しいことではあるかとは思います。しかしながら、何かしら、誰かしらの新しい視点の一助になれば、と思います。
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