うしろ姿

 月曜日は大雨。風邪も強かったので、どう歩いてもびしょ濡れになった。ショートブーツを履いても、指先が濡れる。
 新宿まで打ち合わせに行った帰り道、デイパック・カバンだったので徒歩で帰った。
 いつぞや泥酔して、自販機やブロック塀に激突しながら帰ったルートである。
 濡れるし寒いが、シラフなので何とでもなった。靴と靴下はびしょ濡れになったが、他はそれほどでも無かった。
 玄関ですべての水分をふき取り、脱いだものを洗濯機に放り込み、即座にバスタブに湯を溜めた。
 家の風呂に入るのは3か月ぶりくらいである。もう銭湯に行くのもイヤなので、湯船にじっくりと浸かった。
 冷やしたカラダを温めてさえおけば、風邪などひかない。炎症以外はカラダを冷やして良いことはない。風呂から上がると、ラム一杯で眠りに落ちた。
 火曜の今朝は、打って変わって晴天である。物干しざおの水滴をふき取って、掛布団を干してから出勤。
 しかし思いの外寒いし、風が強くて自転車が進まない。仕事途中に、スーパーに買い物に出掛けた。
 駅前の交差点は赤信号。立って待つ人々の中に、グンと際立つ女性が居た。
 スカートから下に延びる足が長いだけでなく、美しい。ダンサーでも、こんな足は珍しい。ソバージュ風の黒髪も凛々しい。
 「大雨の翌日は良いことがある」と何の根拠も無いことばを口ずさみながら、彼女を追い越した。
 右斜め前から見ることができた。
 全然、期待とは異なっていた。うしろ姿からは想像できない容貌だった。年齢もかなりいっていた。表情もなんか緩んでいる。
 後ろ姿をことごとく裏切る前姿であった。
 期待した分、途轍もない損害を被った気分になる。彼女はなにひとつ悪くない。
 こちらが法外な期待をしただけである。
 しかし、だがしかし、大雨に濡れた翌日に、こんな出来事に出会うなんて、「雨上がりの、朝空に」なんてこった。

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