電車に乗らないと分からないこと

 時計のバンドを交換したくて銀座のSWATCHまで行った。久しぶりの銀座だし、電車に乗るのもしばらくぶりだ。
 電車の中はガラガラだが、みんなマスクをしている。中にひとりハンカチで口を覆っている女性がいた。なんか美しく、色っぽい感じすらした。
 神田で乗り換えようとしたら彼女も降車してきた。その時に、顔からハンカチが外れた。
 「おや、なんだろう」という疑問が湧いた。一言で言うと「ハンカチ以外の部分だけが、美しかった」。
 ネット上では「マスク美人が~」などという話題が盛り上がっていた。その逆もあるのか、ということを知った。
 本人には何の罪もない。イーズカが勝手に過大な期待をしただけである。
 とんかつを食べてからSWATCHに着いた。バンド交換なので修理の範疇に入るらしく、「5階です」と案内された。エレベータ前で待っていたら、「もしよろしければ」とマスクを渡された。
 しかしエレベータのスイッチが訳が分からない。常にそうらしく女性社員が押してくれた。デザイン優先で、機能性ゼロの代物だ。ここの職員以外、世界中の誰ひとりとして理解できないスイッチであった。「死んでしまえ」とひとりごちた。
 エレベータに男性客と二人で乗ったので、もらったマスクをした。まあ「優れモノ」で耳も痛くないし、口の前に適度な空間も保たれる。
 5階で降りると、3階吹き抜けの贅沢な空間だった。カルバンクラインの時計なのだが、この手の時計のアフターサービスはすべてSWATCHで引き受けているらしい。
 在庫確認の間、窓際で銀座の通りを眺めていた。向かいにフェラガモがあったが、閉店中で展示商品はゼロながら照明だけは点いていた。Coolな風景である。
 国内に在庫があり、明日には届くとのことだった。直接取りにくれば10分程度で完了し、加工費も掛からないという。届いたら連絡をもらうことにした。
 男性社員と話したが「まったく人が居ませんね。中国人が居ないと、これだけひっそりしてしまうのか、と驚いています」とのことで、まさに銀座はゴーストタウンだった。
 新橋まで戻る途中、5年ぶりくらいで京浜急行の友人に電話してみた。新橋から泉岳寺までは近い。
 電話には出なかったが、すぐにショートメールで返信があった。「現在は葉山マリーナにいますから、ランチでもしましょう」との内容だった。マリーナの支配人になっている、ぜひバイクで出掛けよう。以前は広報課長だったので、部長くらいかな、と思ったが意外な部署にいた。電鉄会社には珍しい柔軟な人間である。再会が楽しみだ。
 昨日発注したヨドバシから「注文品が届きました」と連絡が入っていた。わずか一日である。
 新宿に向かうので銀座線に乗った。社内画面に小島よしおが出ていた。
 「あの頃は、毎日もみくちゃにされてました。
  でも、今の方が幸せかな。」
 クレジットは「オフ・ピーク・通勤 東京メトロ」と出て来た。それで「ピークを過ぎた芸人」を起用している。ブラックというか、当て擦りというか、クールな感覚である。
 新宿で降りてヨドバシでアタッチメントを受け取った。
 外に出掛けた方が良い、とは思った。
 新橋も銀座も新宿も閑散としている。1都3県と北海道は緊急事態宣言が解除されない。経済が死に絶えたような自粛は続いているが、「政府がコロナ対策で何かをした」という情報はまったくない。
 こんなことで状況が変わるとは、まったく思えない。
 政府が何を目指していて、国民が何を受け入れているのか、サッパリ分からない。

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