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Padron™ 10 exibition

去る23年9月末日〜10月初めに神託が下った。「展示をしろ」と。今の今まで「展示したいな〜」とぶよぶよしていた自分にとってそれは天啓であり、そうか。と展示をしようと思った。その記録である。

・状況の説明

先ほども書いた通り自分は展示がしたかった。最後に展示らしい展示を行ったのは22年の2月ごろ、そこから一年半以上うだうだしていた理由は、去年に関して言えば、「フリーランスになる前だったので引き継ぎや貯金などで色々と準備しなければならなかった」今年で言えば「フリーランスになったのだから今年いっぱいは仕事に本腰入れて土台を安定させないと」ということで持てる時間が仕事に置き換わったのである。作家としては不遇の時代である。

しかしながら合間に作品を制作した、そもそもが制作するための時間を捻出するためにフリーランスになったのだから、その矛盾を抱えながら不得手ながらも歩んでいる。ただどうやら自分は仕事と制作、両方をバランスよく進めるということが苦手で、納期も要件もふんわりしている制作よりも、期限が決まっている仕事の方が焦るのでそちらばかりやり、しかし制作できていないという不安が常にぼんやりとある。解決しなければならない現状である。

制作で言うとWeb空間に展示すればいいじゃないとwebGLを使った作品も出してはいたが、結局は「それはそれ」である。やはり人間が制作し、そこに人間が来るということで生まれる電力は良いものである。

そんな時にこのお題が出た。数あるお題の中でまさか「展示」になるとは...フランスの革命家オーギュストブランキの名言「革命は彼方より電撃的に到来する」のように雷鳴のごとく、UFOのごとく、夜に鳴くカラスのごとくそれは現れたのである。


Photo By : Takumi Abe

・噛み砕く

「展示をしろ」と言うお題が出た。期日までは1ヶ月あるもののこのお題に対してどうリアクションすればいいか。これは天啓が下ったと思った後も悩んだことである。素直になりきれない時期である。
時間的、物理的に可能なのか、その間仕事はどうすれば良いのか?告知は?フライヤーは?など、手持ちのカードを探ってゆく。webで展示すれば良いじゃないとも思ったが、それはあまり満足いくとは言えない。1週間、2週間と悩んだところ、できる範囲で展示をしてみようと決した。自分は最速でどのような展示ができるのか?これは実験である。今までPadronで発表された9回は、お題と自らを照らし合わせ、どれも今まで気になっていたけど、やってみる機会がなかったと言うものを実験として発表していたように見えていたからである。みなさんがやってこられたことに乗ることにした。


・場所決め

これは大切である。場所が決まれば展示準備の半分は終わったようなもので、展示に関する緻密なコンセプト・作品を組み上げた発表したいという欲望があっても、場所が決まらなければ暖簾に腕押し、絵に描いた餅である。しかしながら広くて都心に近ければ値段が高く、そうでなければ行きづらい。その間を探るちょうど良いものはないか、、と探したのがこれである。
https://www.instabase.jp/

各地のレンタルスペースを条件検索で絞り込むことができるため、こちらを利用し場所を探し始めた。しかしながら会議室のような場所、商業施設の通路みたいな場所、ヨガやヒップホップダンスをするために巨大な鏡が設置されている場所など、展示はできるけど使いづらい場所や、1時間いくらではなく1日単位でしか貸すことができない場所もあり、金額と場所とで釣り合うところを探した結果、今回の展示スペースを見つけたのである。

立地はまあまあ、雰囲気は綺麗、値段は特に素晴らしい。しかしながらここで展示をしたと言う情報は少ないし、どんな備品を使うことができるのか記載されていない、そこで問い合わせてみれば、「当レンタルスペースの備品について把握していない」と言う返信が。自分で運営しているスペースの備品を把握していないってどう言うこと..?だったらしれっと備品を増やしてもいいの?信楽焼の狸とか置いちゃうよいきなり8体くらい…そんな不安に駆られる返答や、担当者さんとの微妙に噛み合わないやりとりに手軽に借りれるスペースの負の部分を感じ取りつつ、時間単位で予約ができるので、1時間だけ借りて施設見学をしてみたところ、通常のギャラリーよりも良い感じの備品を使えることがわかり満足…しかし

マンションの一階にそのスペースはあるのだが、その場所がマンションの玄関の横、そしてドアを挟んでエントランスと展示空間が繋がれていて、どこかにお出かけする家族に横目で遭遇する場所なのであった。まるでマンションの待合場所にちょっとすいませんよ…と展示をするようなものでその点なんともやりづらいところではあったが、えいやと展示する分には良い感じではあったのでこちらを予約することにした。


・制作

何を展示するか。ここで考えたことは、「新作を作るのは難しそう」というところであった。これに対しては不甲斐なさもあるが、前年2月の展示から自分のスタイルもふらふらと変わっていった。自分のある種一貫性の無さというのは弱点でもあり、製作を続けるためのスタンスでもあるのだが、それも含め現状の自分を俯瞰するための展示にしようと考えた。

それを踏まえてここからかかるべき作業は、画面内で画像のみで表現していた作品をどう現実に表出させるかというところで、ちょっと味気なさがある光沢紙にプリントというよりは、より物感が出てくる布にプリントすることにした。

またwebgl作品についても、スマホなどのデバイスを置くのだとちょっと財布がきついと思っていたところ、ふと冷やかしに入ったリサイクルショップにナイスで文化的な写真たてがあったため、そこに作品写真を入れつつQRコードを貼る。ということにした。

自分にとって展示とは、普段画像で、SNS上でしか見ることの出来ない作品たちの鬱憤を晴らす場でもあった。SNS上に作品を発表するというのは、スワイプ・スクロールをすれば一瞬で流されてしまうし、そもそも人の目につかないことがほとんどで、そもそも雑多な情報を淡々と消費していくプラットフォームに作品を置くということは、その作品が自動的に商品のように変換され、いいねという01の価値観に晒され勝手に散ってしまうというなかなか成仏しきれないもので、その消費からいかに解放するかというところが展示を考える上で楽しみなところであった。
そうするとどういう見せ方になるかと考えたところ、空間に溶け込んでいるインテリアを志向するようになったりもした。これは今回展示してあったハギレも一緒である。

普段画像での作品は、いつでもポスターに印刷できるようA何サイズで作っていたのだが、今回入稿する布の規定サイズはB0であり、下に15cm少々余白ができてしまうことがわかり、どうすればいいかと考えたところ、自分がいつも描いているグラフィックについて服の柄にしたらどうかと何度か言われたことがあったため、服とまでは言わないもののハンカチぐらいのサイズ感で、プロダクトとして感じさせるようにしたらどうかと考え、空いた余白にそのグラフィックを敷き詰め、切断し、よりハンカチぽく見せるために、物干しハンガーをオリンピックで買い、吊るすことにした。

テーブルにひいていた大きめの布の作品は、2019年に展示した物であり、個人的にこれ一回だけ展示で終わらせるのは惜しいなと考えていたところ4年越しに今回テーブルクロスとして展示することにした。

真ん中に鎮座するブラウン管テレビ、そこにはオープンワールド的VJ空間が広がり、音の強弱で世界の光量が変化しつつ、その世界を歩き回ることができる。当初5月にあるイベントでVJを頼まれた際に、自分がいなくてもVJができるように作り、さらにそれを、ライブ会場でありながら、家でゲームをやっているような逆転したノスタルジーを思わせるためにブラウン管テレビに映し出すと面白いんじゃないかと考えたものだったが、テレビのサイズと会場のサイズを鑑みてお蔵になったアイデアを成仏させたものである。

かように、ここ数年で溜まっていたアイデアをやってみるという場としても展示をしつらえたのであった。


・設営

実体のない過去作を物理化するという特殊な展示のため、展示作品を作る際は、7:3の割合で「作品が成立するためにどう作るか」と「その作品の設営をどのようにするか」ということを同時で並行しながら考えながら制作を進めた。純粋な美を表現するための芸術と、それとは別に設営をすることを織り込んで製作する芸術、それぞれどのような制約があるか…翻ってみれば画像というものは理論上何兆ピクセルでも出力できるのだが、鑑賞にあたってはそれを人間スケールに落とし込まないと認知できない…という本質的な捻れを感じ取りながらもそれは置いときつつ搬入へ向かう。

会場は自宅から徒歩40分、自転車だと20分弱であるが、流石にブラウン管テレビを持っての移動は困難(テレビのパーツの中で一番重いガラスの表示面が構造上前面についているため重心が前に偏っており、ちょっと手の位置を変えるとハイハイしたての赤ちゃんのようにすぐ転んでしまう。少しかわいくも見える)なためタクシーで向かった。

1時間半ほどで設営を行う。色々足りないものもあったが、やはり両面テープ、カッター、結束バンドがあれば大抵のことはできるのでは?と改めて思った。


・展示

スペースの立地はマンションの玄関かつバス停の目の前なので常に人は溜まっている状態ではあるが、それぞれに違う目的があるため、こちらの展示にはほぼ気づいておらず、気付いたとしても遠巻きに見るだけであった。なんだか透明になった気分ではあったが、こちらに気づき、かつ何も知らないのに観に入ってくれる人というのは宇宙人よりも珍しいし、かといってバスに並んでいる人に会場に入ってもらうにはもっと前提というかコンセプトから変えていくような形になるので、それはそれである。そんな中で展示に来てくださった皆様、本当にありがとうございます…やってよかった…


・総括

どんなに腰が重いことでも最初に3分やればすんなりと進むという根源的なtipsがあるが、まさにその通り!というPadronであった。そしてこのくらいの「長期間ではなく土日の2日間だけ行う展示」というのはフットワーク軽くできるということがわかったので、3ヶ月に一回発表の場として行うのはアリだなと思ったものの、思っただけでは月日の経過とともにまた腰がどんどんと重くなっていくため、また動き出す必要がある、彼方より機会が電撃的にやってくるのをただ待つには人生は短すぎる…

またもちろんのことではあったが、SNSに作品を発表するよりかは、現実世界に出力し、そして人と出会い観て話すという流れというのはとても大事だなと思った。ただ定期的に作品をアップし、いくばくかのいいねをもらい、さてまた作るかとなると、だんだんと自分の作品に価値があるのかわからなくなってゆき、夕飯ぐらいのプライオリティになってしまうが、実際作品を見た人とコミュニケーションを取ると、自分では気づかない価値を見出すことができ、生きる実感というか、モチベーションに繋がっていける。悪し良し関係なく感想は貴重なものだ。

ただ、とにかく今回の展示はいくつかアイデアと作品のストックがあったから成立したものではあるので、これからも多く豊かに作っていくというのが自分の変わらぬ確信である。これからもよろしくお願いします。

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