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どこまで評価を下げられる?相続税・贈与税の土地建物評価の概略

はじめに

 現金や預金、上場株式の金額はわかるけど、土地とか建物の金額はどうやって計算するの?と疑問に思った方もいるのではないでしょうか? 
 この記事は、相続税額・贈与税額のざっくりとした見込額を算定するための足掛かりとなることを目的としています。相続手続きの大きな関門である相続財産の金額評価ですが、相続財産の大部分を占めることの多い不動産の評価方法をざっくりと理解することで、必要に応じて事前対策を講じることも可能となります。

1.評価の基本原則

評価時点はいつなのか?

 相続財産の評価は、被相続人が亡くなった日「課税時期」を基準に行われます。この点は非常に重要で。特に不動産市場の変動が激しい時期においては、評価の時点が相続税額に大きな影響を与える可能性があります。

 例えば、被相続人の死亡後に不動産価格が急落した場合でも、相続税の評価額は死亡時点の価格で行われます。逆に、死亡後に価格が上昇した場合も同様です。事前に見積もっていたとしても、評価額は変動しているものとして再計算が必要です。
 なお、贈与財産の課税時期は「贈与があった日」となりますが、基本的な評価の考え方は相続税の場合と同様です。

2. 土地の評価方法

2-1. 路線価方式

 都市部の土地評価によく用いられる方法です。

  - 国税庁が毎年7月に発表する「路線価」を使用
  - 評価額の算出方法:路線価 × 土地の面積
  - 土地の形状や立地条件により補正係数を適用

例:道路に面した100㎡の土地で、路線価が1㎡あたり50万円の場合
  評価額 = 50万円 × 100㎡ = 5,000万円

2-2. 倍率方式

主に郊外の土地評価に使用される方法です。

  - 固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる
  - 倍率は地域ごとに設定されている

例:固定資産税評価額が1,000万円で、倍率が1.2倍の地域の場合
  評価額 = 1,000万円 × 1.2 = 1,200万円

2-3. その他の評価方法

 特殊なケースでは、以下の方法が適用されることがあります。

  - 不動産鑑定士による鑑定評価
  - 売却価額による評価(特定の条件下)

2-4. 評価額の減額要件

 土地の形状や立地条件によっては、評価額が減額されることがあります。

  - 不整形地
  - 間口狭小地、奥行長大地
  - 鉄道線路や踏切に隣接する土地

 他にもたくさんの評価減の要素はありますが、こうした条件に該当する場合、評価額が減額される可能性があります。

2-5. 地積規模の大きな宅地等の規定

 一定規模以上の大きな宅地については、「地積規模の大きな宅地等」の規定が適用される場合があります。

  - 目的:広大な土地の評価額を適正に算定し、相続税負担を軽減
  - 方法:地積規模補正率を用いて評価額を計算
  - 注意点:
   1. 適用要件が厳格であり、慎重な確認が必要
   2. 補正率の算出には専門的知識が必要
   3. 最新の税制に基づく正確な評価が重要

 この規定は非常に複雑なため、検討を要する場合は早めに税理士等の専門家にご相談ください。

3. 建物の評価方法

3-1. 固定資産税評価額の適用

 建物の評価は、原則として固定資産税評価額がベースとなります。固定資産税課税明細書(納税通知書)に記載されている金額を使用します。

3-2. 賃貸物件の評価

 賃貸物件の場合、借家権割合を考慮した計算が必要です。

  - 評価額の算出方法:固定資産税評価額 ×(1 - 借家権割合)
  - 借家権割合は全国一律で30%

例:固定資産税評価額が2,000万円の賃貸アパートの場合
  評価額 = 2,000万円 ×(1 - 0.3)= 1,400万円

3-3. リフォーム済み建物の評価

 リフォームや増改築が行われた建物は、追加の計算が必要です。

  - リフォーム費用の70%を評価額に加算

例:固定資産税評価額1,000万円の家屋を500万円でリフォームした場合
  新評価額 = 1,000万円 +(500万円 × 0.7)= 1,350万円

3-4. 建物以外の構築物の評価

 相続税の対象となるのは建物だけではありません。庭園、塀、物置などの構築物も評価の対象となります。これらは通常、固定資産税評価額や取得価額をベースに評価されます。漏れのない相続財産評価のためには、これらの構築物も忘れずに計上することが重要です。

4. 評価額の調整と特例

4-1. 固定資産税評価額の見直し

 固定資産税評価額が実際の価値と比べて高いと感じる場合、見直しや再評価を申請することで減額を図れる場合があります。この手続きは自治体によって異なりますが、一般的には以下のステップで行います。

  1. 固定資産評価証明書を取得
  2. 不動産鑑定士による鑑定評価を依頼
  3. 自治体の固定資産評価審査委員会に審査の申し出を行う

 相続税申告の前に固定資産税評価額の見直しを検討することで、結果的に相続税評価額の減額につながる可能性があります。

4-2. 小規模宅地等の特例

 被相続人が居住していた宅地や事業用宅地について、最大80%の評価額減額が可能です。ただし、適用要件が非常に複雑なため別記事にて整理します。

4-3. 空き家の特別控除

 被相続人の空き家を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から3,000万円の特別控除が適用される可能性があります。これについても別記事で整理します。

5. 負債の取り扱い

住宅ローンが残っている場合

 相続する不動産に住宅ローンが残っている場合、その負債は遺産総額から控除されます。これにより、実質的な相続財産の価値が減少し、結果として相続税額が低くなる可能性があります。

例:評価額5,000万円の家屋に2,000万円の住宅ローンが残っている場合
  実質的な相続財産価値 = 5,000万円 - 2,000万円 = 3,000万円

6. 相続税申告の手続きと納税

 相続税の申告と納付は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。期限内申告が要件となる特例も多くあります。相続人間の調整や書類の収集など、期限を意識した準備が必要です。

まとめ

・評価時点(被相続人の死亡日)が重要
・土地評価:主に路線価方式と倍率方式を使用
・建物評価:原則として固定資産税評価額を適用
・賃貸物件:借家権割合を考慮して減額
・リフォーム済み建物:費用の70%を評価額に加算
・建物以外の構築物も評価対象
・大きな土地の評価の特例による減額の可能性
・固定資産税評価額の見直しによる評価額調整
・小規模宅地等の特例や空き家特別控除による税負担軽減の可能性あり
・住宅ローンなどの負債は控除対象
・多くの評価減特例が期限内申告が要件となるため調整と準備に注意が必要

おわりに

 相続税申告における土地と建物の評価方法について概略を解説しました。計算方法をざっくり把握することで、相続税額・贈与税額の概算を把握し、必要に応じた対策を講じる足掛かりとなれば幸いです。ただし、実際の申告においては個別の状況に応じた詳細な財産評価が必要ですのでご注意ください。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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