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海に眠るニッケルは我が国の救世主となるのか?

中国勢の青山集団(Tsingshan)が自動車メーカーに安価でクリーンなニッケルを供給するという計画を公表した(参考)。

(図表:ニッケル)

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(出典:Wikipedia)

ニッケルは電気自動車(EV)に使われるリチウム電池の原料であり、EV車の普及に向けニッケルの需要が高まっている。これに伴いニッケル鉱山の周辺では廃棄物の流出といった環境悪化が懸念されている。

こうした状況を受け米系“越境する自動車事業主体”の雄であるテスラ社は昨年(2020年)、環境への影響を抑え、かつ効率的にニッケルを採掘する企業と「巨大な契約」を結ぶと発表した。上述の中国勢の青山集団による計画はこうした動きを受けたものであった。

これにより投資家が追加供給を織り込んだためニッケル価格は過去10年間で最大の低迷となった。

(図表:LME(ロンドン金属取引所)3か月先物価格/ニッケル)

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(出典:LME)

ニッケルは産出国が偏在しており、主たる鉱石産出国はフィリピン勢、ロシア勢、カナダ勢、オーストラリア勢、ニューカレドニア勢、インドネシア勢、中国勢である(参考)。

しかし実は産出されるすべてのニッケルがリチウム電池に使われるわけではない。世界で生産されるニッケルのうち半分を占めるフェロニッケルやニッケル銑鉄といった低品位ニッケルはリチウム電池には適さない(参考)。

中国勢に次ぐニッケル消費量でありニッケルを含むレアアースのほとんどを輸入に頼る我が国にとってニッケルの確保は今後の自動車産業を占う急務である。

ここで注目したいのが海洋鉱物資源である。

海洋鉱物資源は大きく4つに分けられ(海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、レアアース泥)、このうちコバルトリッチクラスト及びマンガン団塊にはニッケルが含まれる(参考)。

マンガン団塊についてはすでに1970年代ごろには我が国を含む国際団体及びフランス勢と我が国の私企業により採掘及びそこからのニッケル抽出に成功していた。当時はニッケルの産出量が十分であったことからこれまで商業化されていない技術であるが、住友金属鉱山(5713)は当該研究を継続してきている。

更に昨年(2020年)7月には独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が世界で初めてコバルトリッチクラストの採掘試験に成功した(参考)。

南鳥島南方の排他的経済水域に位置する拓洋第5海山平頂部にはニッケルが我が国の年間消費量の約12年分存在することが同機構の調査により推測されている。

我が国は世界第6位の領海・排他的経済水域を持つことから、同地域以外にも海洋鉱物資源が存在すると見られている。

我が国の資源が通常の鉱山資源ではなく海洋鉱物資源として存在することから、“世界に遅れて”これを採掘していくことになると考えられる。

ニッケル獲得競争がますます激化する中でこうした採掘の遅れがむしろ価格等の面で有利になる可能性を中心に、引き続き注視していきたい。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

佐藤 奈桜 記す