カカオ・ショック ~チョコレートを巡る甘くない世界バトル~
コートジヴォワールとガーナが世界のチョコレート市場の2大プレーヤーである米ハーシー(Harseys)とマース(Mars)に1トンあたり400ドルの割増金(DRD、Decent Income Differential)を課すことに成功した(参考)。
この西アフリカ2か国だけで世界のカカオ生産量の60%を占めている。
世界のココアおよびチョコレート市場は約443億ドル(2019)と推定されカカオ豆の年間生産量は四半世紀で2倍以上となっている。我が国でもコロナ禍で外出規制が続く中チョコレートの需要が増加している。
(図表:チョコレートを飲むミシュテカ(メソアメリカ先住民)の王たち)
(出典:Wikipedia)
その直前の今年(2020年)11月にはハーシー(Harseys)がもっと安価にカカオを購入する手段として先物取引に参入した。その後カカオの先物価格は一時史上最高値を更新し市場が混乱する事態にまでなる。カカオ生産国とメーカーの間でコストをめぐる緊張関係が国際市場の価格高騰を招いている(参考)。
カカオはその昔、貿易においては「通貨」として使われ、戦闘後には「報酬」として戦士に与えられ、王の饗宴で提供されていたと聞く。
カカオの生産は19世紀半ばに原産地である中米の生産量が激減して以降アフリカに生産の主体が移ったが、近年ではインドネシアも加わり世界第3位の生産量を誇っている。
世界全体のチョコレート消費量が増えている一方で近い将来主原料であるカカオ豆の生産が追いつかなくなるかもしれないとも言われるようになった。ESG(環境・社会・企業統治)投資の流れから特に上場企業はサプライチェーン(供給網)でも人権保護に取り組むことが求められるようになった。
(図表:チョコレート製造)
(出典:Wikipedia)
チョコレートの販売額が9年連続で増え、去る2019年には5,630億円となった日本でもこの問題に取り組む企業が出ている。明治ホールディングス株式会社(TYO: 2269)は世界カカオ財団(WCF、World Cocoa Foundation)を通じて持続可能なカカオ調達の柱としてカカオ豆生産農家を支援する「メイジ・カカオ・サポート」(MCS)を去る2006年に開始している。
チョコレートの原料メーカーである不二製油株式会社(TYO:2607) も児童労働撤廃と森林破壊の防止に向けたコミットメントを発表した。そして同社は企業のESG評価を行う国際NGOのCDP(前身は「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」)から「トリプルA」に選定されている。
今回の西アフリカ2か国による割増金(DRD)モデルは石油輸出国機構(OPEC)のカルテルに倣った仕組みだ。
ということは「カカオ」を巡って中東石油のような対立へと進展する可能性もある。他方で今後アフリカ勢へ一定程度の富の注入が行われる可能性も併せて考慮していく必要がある。
去る2018年に米ワシントン大学(セントルイス)から「カカオとマヤ文明」についての研究が発表された。マヤ文明の絶頂期にはカカオが通貨として扱われその供給が途絶えたことが経済的にマヤ文明没落の要因の1つとなった可能性があるという仮説である(参考)。賛否両論あるもののもし本当であれば一文明の盛衰まで左右した「カカオ」の動向に今後も目が離せない。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮 美樹