The Cult - ELECTRIC ~ ハードロックギターの教科書
ディスクレビューみたいな表題ですけど、そんな大層なもんじゃありません。「私とエレクトリック」的な作文みたいなもんです。
カルトっていうと、Wikipediaを引くとポスト・パンク、ゴシック・ロックのバンドって書いてありますが、私はこの「エレクトリック」でカルトを知ったので、カルトは直球リフものハードロックバンドだと思ってたんです。
普通の順序で聴いた人が突然、ストレートイギリスロックになったカルトに驚いたのと逆に、さかのぼって聴いてなんだこりゃと思ったんですから、真逆の体験ですね。
18歳か19歳のとき、学校の学園祭で演奏するために普段のバンドとは違うメンバーでその時限りのコピー・バンドを組んだんですが、その時のメンバーが演奏しようと持ってきたのがこのアルバムに収録されている「Wild Flower」と「Born To Be Wild」(言わずと知れたステッペン・ウルフのカバー)の2曲でした。それが私のカルト、そしてエレクトリックとの出会いです。
なんと心地の良いハードロックなんでしょう。その印象は初めて聴いたその時も四半世紀経過した今現在も変わりません。そして、これこそが私にとってのカルトだったんです。
「Wild Flower」のイントロ~Aメロのリフ、極限までシンプル。イントロ部分だったら今日始めてギターを持った人でも演奏できそうです。Aメロのところはリズムはイントロと同じですが、開放弦をうまいこと使って案外渋いことをやっています。そして弾いていてとても気持ちがいいです。
なんというか、カッコいいとダサいのけっこうギリギリのラインを攻めていて、一歩間違えばダサいのですが一歩間違えずに超カッコいいことになっている曲です。大げさでケレン味たっぷりのブレイクとか、危ういところで超カッコいいところに着地しています。でも、歌詞はクソダサい(笑)。
私の好きなギタリストのビリー・ダフィーも、静止画で見るとイギリス人のスギちゃんですが、ギターを弾いている姿をムービーで見るとカッコいいんだから不思議なものです。そう言えば、ホワイトファルコンというギター自体がカッコいいとダサいのギリギリラインかも。
選曲からして、このアルバム以前のカルトから聴いている人はおそらく「何やってんだ」と驚いたであろう「Born To Be Wild」はロック史上屈指の名カバーに仕上がっています。何というヘヴィーさでしょう。
ところで、初めて聴いた時から気になっているんですが、この曲ってクラッシュ・シンバルが全編に渡って、普通は「ジャーン」なのに対して「ジャンッ!」って短く切れてるんですよね。それも手でミュートした感じじゃなくて、急激に音量が下がる格好で切れてるんです。
ミックス時に加工したものなのか、シンバルになんか細工して録ったものなのか、詳しい人がいたら教えてください。それはさておき、そのジャンッ!のシンバルが素晴らしく効果的。地味な仕掛けだけどものすごくハマってます。
さて、その学園祭バンド以降このアルバムをえらく気に入り、「Wild Flower」は別のコピーバンドでも何度か演奏しましたし、「King Contrary Man」や「Lil' Devil」も演奏した記憶があります。そして、ライブで演ると安定的にソコソコ盛り上がるというところも良いです。誰の心にも刺さりやすいんですね、こういうハードロックは。
ギターを弾く者としての視点だと、このアルバムはおいしいリフも多いし、ハードロックやロックンロールに応用の効くフレーズやリフが満載ですから、コピーすると後々役立つという点も素晴らしいんです。
そして何より、テクニカルな部分が少ないので素人でも弾きやすい、弾きやすいから楽しい、楽しみながらハードロックギターの引き出しを増やせるという、努力せずしてギターが上達する理想的なアルバムでもあります。
ギターを始めたばかりの人に「ロックギターが上達するにはどうしたらいいの?」と聞かれた場合、ペンタトニックスケールがどうのとか細かいことはいいんです。無言で微笑みつつ「ELECTRIC」のCDを手渡すこと。これ以上何も必要ありません。