−卵色− 半ゆで卵同盟
ぼくは、ゆで卵が嫌いだ。
あの、モサモサした黄身と、モチョモチョした白身。嫌いだ。
生卵なら食べられるのに。
黄身と白身をかき混ぜて、卵焼きにしてもおいしいのに。
なんで茹でるの???
嫌いなものは他にもある。
貝。
小学生だったある日、給食で、貝の佃煮が出た。
「嫌いなものも一口は食べるように」という、迷惑この上ない決まりがあったので、素直なぼくは貝を一粒だけ食べた。
その日の夕方。家に帰ったぼくは、3次会後のサラリーマンのごとく、さめざめと吐いた。
それ以来、貝は一粒も食べていない。
あと、粒あんのたぐいも嫌い。
これまた給食で、ぜんざいが出た。
その時のクラスは、担任の先生に扇動されて「給食を完食しようキャンペーン」をやっていた。
ぜんざいが出た日。ぜんざい嫌いな人が多すぎて、クラスの完食記録が100日くらいで止まった。
担任の先生はキレた。
ぼくは、その理不尽さに、担任の先生とぜんざいに向かって、心の中で盛大にキレた。
嫌いな食べ物には、嫌な思い出がつきものだ。
でも、ゆで卵だけには、あったかい思い出がある。
保育園に通っていた頃。毎日3時ごろになると、おやつが出た。
ふかしいも、ウエハース、おせんべい......
1ヶ月に1回くらい、アイツが出てくる。ゆで卵。1人1個。
モサモサ黄身とモチョモチョ白身をまるまる1個なんて、まっぴらごめんだ!
保育園の先生は、「嫌いなものは誰かと半分こしてもいいよ」と言った。
ぼくは、ゆで卵の取引相手を探した。
偶然、当時いちばん仲が良かった友達も、ゆで卵が嫌いだった。
ぼくらは、反......いや、半ゆで卵同盟を結成した。
そして、おやつにゆで卵が出るたびに、1個のゆで卵を半分こして食べた。
「悲しみは2人で半分に」というやつを体現していた。
「モサモサ」は「モサ」に、「モチョモチョ」は「モチョ」に。
ぼくらは、大人になった。
ぼくはまだ、ゆで卵が嫌いだ。
あの子は、ゆで卵が食べられるようになったんだろうか。
同盟を結んだ君へ。
また、ゆで卵、半分こしたいな。
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【卵色】たまごいろ
卵の黄身の色。
半ゆで卵同盟を彷彿とさせる。
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