−若草色− ドアノブ損壊・幽閉事件
中学生の時。ある日の掃除時間。
ぼくはトイレ掃除担当だった。
予備のトイレットペーパーが少なくなっていたから、「保健室行って、もらってくるわー」と、トイレを出ようとした。
(※個室から、という意味ではなくてトイレ全体を指す)
ドアノブを回して、ドアを引こうとした、その時!!
ドアノブだけが引っこ抜けた。
!!??
生まれて初めて見る、単体のドアノブである。
みんなで笑い転げた。
まあヒョイっとまた取り付ければいいんでしょ、と、そのときのぼくらは甘く見ていた。
原状復帰、証拠隠滅を図ろうとしたのだけど、ドアノブは元の位置におさまらない。主犯のぼくを筆頭に、みんな焦り始める。
ドアノブは、どうやっても直らない。
次第に、ドアノブの損壊そのものよりも大きな問題に直面していることに気づき始める。
「あれ、ぼくら、閉じ込められてない……?」
そう、ドアは、ドアノブがないと開かないのだ。
ぼくらは、トイレに幽閉された。
トイレから脱出するには、外側からドアを開けてもらうしかない。
トイレのドアは結構分厚いし、廊下もガヤガヤしているから、声は届かない。
ぼくらは、トイレの前の廊下を通る人に、ドアのガラス部分越しに手を振って必死でアピールした。(今思い出すと非常に滑稽なシーンである)
救世主は現れた。
救世主本人は、自分が救世主であるとは微塵も思ってなかっただろう。だって、ぼくらが幽閉されていることは外からは分からないから、友人がなぜかトイレから全力で手を振っている、ぐらいにしか思わないだろう。
ともかく、無事にぼくらはトイレから脱出できた。
本題はここから。
ぼくはこの事件により、「信頼」がいかに大事かを思い知ることになる。
突然何を?と思うかもしれないが、まあ続きを読んでほしい。
ぼくの中学校は田舎の公立中で、非常に荒れていた。
短いスカートや腰パンは序の口。
ケンカは日常茶飯事だし、窓ガラスは週に1回は割れる。
さらに一時期、「電気のスイッチを押し込んで壊す」というイタズラが流行した。(は??と思ったアナタ、ほんとに、は??ですよね。当時のぼくも意味がわかりませんでした。)
校内の至る所のスイッチが壊され、直しては壊されが1ヶ月くらい続いた。緊急学年集会が開かれて、「電気のスイッチを押し込んで壊してはいけません」という説教を聞かされた。は???
そんな荒れた中学校において、真面目に過ごしていたぼくは大変な優等生だったわけだ。
だから、ぼくが先生に「トイレのドア開けようとしたら、ドアノブだけ引っこ抜けちゃったんですけど……」って報告しに行ったら、一瞬「え??」と言われたけど、すぐに「分かった、直しとくねー」と無罪放免された。
きっと、ヤンチャなやつらが同じことをしていたら、問いただされていただろう。
そして「ドアノブを引っこ抜いて壊してはいけません」という学年集会が開かれたかもしれない。
日頃からの信頼の蓄積が大事だと学んだ、ドアノブ損壊・幽閉事件でした。
【若草色】わかくさいろ
芽吹いたばかりの若草の色。
うちの中学校の校誌の名前は「わかくさ」だったが、生徒の実態は良くも悪くも「ざっそう」の方が似合っていた。