スカート姿で固定観念の解体に挑む。「日本障がい者ファッション協会」代表理事・平林景さんインタビュー|Diverstyle Book
「日本障がい者ファッション協会」の代表理事であり、年齢や性別、障害の有無を越えてすべての人がアクセスできる服を提案するブランド「bottom’all(ボトモール)」の代表でもある平林景さん。スカートを穿いた姿を自らSNSで発信し、「男らしさ」の解体に挑む平林さんに、話を訊きました。
スカートは世の偏見に切り込むための戦闘服
——平林さんは2019年の秋頃から、スカートを取り入れたコーディネート写真をSNSに投稿されています。いいね!の数が2万を超えるときもあり、好意的なコメントも複数寄せられていますが、スカートは以前から穿いていたのでしょうか?
平林:ヨウジヤマモトやコムデギャルソンといった、ジェンダー・ステレオタイプに囚われない製品を多く手掛けるモード系ブランドが好きだったので、そういった服を着るときは、スカートもよく合わせていました。高校在学中から美容室でアルバイトをしていたこともあって、ファッションへの関心は日々高くなっていた記憶があります。
——平林さんがモードを好むのはなぜでしょう?
平林:単純に、スタイリッシュでクールな印象が好きだからですかね。ただ、スカートを穿くならモードでないと絶対に許せない、というわけではないです。例えば、ロックテイストにスカートを合わせる男性がいてもおもしろいと思いますし、誰でも思い思いに好きなスカートを穿ける日が来たら、それが理想だと思います。
——他者の視線を意識してスカートを穿くことに抵抗を感じている人もいると思います。平林さんが「らしさ」に縛られずに服を選んだり作ったりするために、ロールモデルにしている人や影響を受けたものはありますか?
平林:学生時代からデヴィッド・ボウイをはじめとするグラムロックをよく聴いていたので、男性がきらびやかな衣装を着たりメイクしたりすることを、当時から好意的に見ていたんです。ウィメンズの服を着ることに違和感がないのは、そういった音楽の影響もあると思います。あとは、坂本龍馬の影響を強く受けています。坂本龍馬の写真を見ると、足元はブーツを履いているんです。あの時代にブーツなんて誰も履いていなかったはずですし、写真を撮るとわかっていて履いたということは、ブーツを履くことが彼のなかで一番イケているスタイルだったはずなんですよ。周りに何を言われても、自分の好きなもの、自分が良いと思うものを身につけていいんだと、坂本龍馬から教わった気がします。
——スカート姿を積極的に発信していこうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
平林:2019年の11月に「日本障がい者ファッション協会」を設立したのですが、その目的が、「『福祉』×『オシャレ』で世の中を変えること」にあります。「世の中を変える!」と言っている人が身近な偏見すら変えられなかったら説得力がないと思い、まずは「男性がスカートを穿くのは変だ」という偏見を取り払うために、発信を始めました。今の僕にとって、スカートは世の中の偏見に切り込むための戦闘服です。最近は、周りがスカート姿に慣れてしまったのか、パンツ姿でいるときの方が驚かれます。(笑)
「福祉」と「オシャレ」を掛け合わせて世界を変える
——「『福祉』×『オシャレ』で世の中を変える」というコンセプトはどのような経緯で生まれましたか?
平林:美容師として働いていたとき、「オシャレ」が人の心にポジティブな影響を与える瞬間をたくさん見てきたんです。例えば、上京してきたばかりの大学生にヘアカラーとカットをしたら、髪に合わせて服装もどんどん華やかになっていく。「今までモテなくて自分に自信もなかったけど、変われました!」と喜んでくれる姿を見るたび、「オシャレ」には無限のエネルギーが秘められていると実感していました。
一方で、福祉の分野は「華やかであってはいけない」という呪いにかかったように、ファッション要素が排除されています。僕は身近な人に発達障害があることを知って福祉の世界に入りましたが、どの施設を訪れても、建物の中は薄暗い印象しかなかった。「日陰にいなきゃだめ、目立っちゃだめ」と言われているように感じたんです。「おしゃれな施設にしたいんですよ」と熱弁しても「そんなことにこだわっている余裕があるなら、もっと療育の内容にこだわってください」と言われてしまう。それって本来は衝突しないまったく別の話で、別々に扱うべきテーマですよね。だったら自分で華やかで明るい福祉施設を建ててしまおうと起業したことが、きっかけになっています。それ以降、「福祉」に「オシャレ」を掛け合わせて、世の中の障害や福祉に対するイメージを明るく華やかにすることが、生涯をかけたミッションになっています。
——元々が美容業界にいたからこそ、気付けた偏見なのかもしれませんね。
平林:そうだと思います。起業以降、自分たちで新設した福祉施設は「明るい未来を感じられる場所」というテーマをブレさせないようにしています。障害があるから仕方なく通う場所ではなく、障害があるからこそ通える場所。優越感すら覚えるような場所にすることを心掛けています。まだ誰も見たことがない放課後等デイサービス、福祉施設を作っているので、既存のイメージとはまったく異なると思います。
——平林さんが代表を務めるJPFA(一般社団法人日本障がい者ファッション協会)がプロデュースする「bottom'all」には、車椅子に乗ってもシワにならないショート丈のジャケットなどがあり、まさに「福祉」と「オシャレ」の掛け算を体現していますよね。
平林:障害を持つ人でも着られる服はすでに世の中にありますが、機能を優先するあまり、デザインが疎かになっているんです。障害を持たない人もそれを着たいかというと、そこまで洗練された「オシャレ」には至っていない。機能もありつつ、デザインも飛び抜けて優れたものを作ってこそ、全ての人が着たいと思える服になると思っています。だから、僕は「障がい者のための服」を作っている気はまったくない。全員がアクセスできる服を作ればいいだけの話じゃないですか。
——平林さんが考える「オシャレ」の定義はどういったものでしょうか。
平林:僕の中に「オシャレ」の5大定義があります。1つ目は明るいこと。2つ目は華やかなこと。3つ目が憧れられること。4つ目が自分らしいこと。5つ目が未来を感じられること。それを追求した先にどんな服ができるのかを考えるのが、今はとても楽しいんです。たとえば「障がい者でも普通の人と同じように着られるよ」と謳う服があったとしても、それはマイナスを0にするまでなんですよね。そうではなくて、マイナスからプラスまで届くように「障害があるからこそかっこいい」と思わせないと、世界は変わらない。例えば「bottom’all」のスカートは、座ったときに一番綺麗なシルエットが出るようにしています。その先に、車椅子に座ることがかっこいいと思われる世界があると信じているからです。
否定的な声を受けても、発信を続ける理由
——日常的にスカートを穿いて情報発信を続けることへの怖さはなかったですか?
平林:もちろんありました。でも、最初の一歩を踏み出すと、いろんなことに気付けるんです。思ったよりも好意的に受け止めてくれる人が多いんだな、とか、男性もスカートを穿いていいと思ってはいたけど、これまで発信はできなかった人もけっこういるんだな、とか。あとは、「自分は穿きたくないけど、穿いている人がいてもいいと思う」という声もあって、間違っていなかったんだなと思えました。
——平林さんの発信を受け取った人が、「スカートを穿く男性」も多様性の一つと認識したということなんでしょうね。
平林:「男がスカートなんて格好悪いと思っていましたけど、意外とアリですね」っていう人、多いんですよ。本来はコーディネートの仕方次第で十分オシャレになるはずのものを「男がスカートなんて」と食わず嫌いしているだけ、みたいなことなんだと思います。これはきっとファッションだけでなく、いろんなところで存在している偏見の形なんですよね。だから、僕が実際に着用して、発信して、タブーを崩していきたいんです。ファッションなんかは特に理屈がいらなくて、第一印象で「いいじゃん!」と思ってもらえれば、固定観念を崩していける世界だと思っているので。
——平林さんは、偏見によって蓋をされている多様性について、どのように考えていますか?
平林:「私は嫌だけど、でも好きな人もいるよね」という認識が大事だと思っていて、全員が全員積極的に発信する必要はないと思います。ただ、受け入れてくれる人の割合が大切です。最初は「1:9」と圧倒的に少数だったものが、活動を続けることで「2:8」になり、「3:7」になっていくとしますよね。僕はこの「3:7」くらいまで割合が変われば、世の中全体が変わる可能性が見えてくると思うんです。肌感覚でしかないですけど、世の中の3割が応援してくれるようになったら、もっと生きやすくなるはず。そう思って活動を続けています。
——発信を続けていると、「不快だ」とわざわざ声に出す人も現れると思います。自分の好きなものを着たいという素直な気持ちを潰さないために、どんなスタンスでいるのが大事だと思いますか?
平林:僕がこうしてメディアに出ているのは、まさにその課題に立ち向かうためです。例えば、僕の発信するメッセージを見て「男性がスカートを穿くのもアリだね」と思う人が1万人、10万人と増えていけば、きっとどこかにいる「スカートを穿きたい」と思っていた人たちが、行動しやすくなってくると思うんです。「これだけ世の中に受け入れられていたら、自分もスカートを穿いていいかな?」と思うタイミングは人それぞれだと思いますが、ゆくゆくはスカートを穿きたい人が当たり前に穿けるようになるまで、まずは地道に偏見を減らしていけるように、多くの人と接点を作っていきたいです。僕自身に直接、反対意見を述べる人もいますが、それこそ、全員に肯定されるようになったら、やりがいもないというか、そういう人がいるからこそ活動を続けているところがあります。もし全肯定されるときが来たら、発信する必要がなくなった証拠。そのときこそ、僕の目的が達成されるときだと思うんですよね。
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福祉や障害という言葉が持つイメージを覆すため、まずは自らスカートを穿いて「男らしさ」の解体に切り込んでいく平林さんの姿は勇しく、人々に勇気を与えるものです。そうした活動を裏付けるものが、まずは身の回りの偏見そのものに気付く視座の高さ。日々の暮らしや働いている環境に染み付いた偏見に気付くのは難しいですが、小さな違和感に目を凝らし、近しい人の声に耳を澄ませることが、私たちを包んでいる偏見を取り除く一歩になるのではないでしょうか。
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Diverstyle Book by IIQUAL
ジェンダーバイアスにとらわれず多様な生き方をする人々にフォーカスしたDiverstyle Book。IIQUALの服やスタイリングの参考になるだけでなく、その人の価値観や生き方といったストーリーを追った"ライフスタイルブック"です。
IIQUALが目指すのは、誰かが決めたららしさを脱げる服。自分のらしさを着られる服。「誰かが決めたらしさを脱ぐ服」というコンセプトで、メンズ・ウィメンズという概念のない服づくりに挑戦しています。詳しくは下記リンク先をご参照ください。