スピーカーの箱鳴りを心地よく感じる
私のいい音感は、聴いていて気持ちよくなる音を基本にしているので、データにきちっと裏付けされたことや、コンサートホール等の原音を再生するというテクノロジーをもとにした話ではないのだが...
と言いながら最近少しづつ後追いで真空管アンプの周波数特性や、ダンピングファクターなんていうものも測定する勉強をし始めている。でもできるだけそのデータの先入観に左右されないようにして、あくまでも自身の感性を大事にしようと思う。
ところで、スピーカーも自作しているのだが、非力な真空管アンプにはバックロードホーンが合うという事で、最近私が作って気に入っているのはやはりバックロードホーン。
今日は、FostexのFE103NV(10㎝ほどのコーンを持った小さなスピーカーユニット)で作成中(塗装をすると完成)の無垢材のバックロードホーンを、2A3のシングル無帰還アンプで聴いている。
スピーカー、特にバックロードホーンにおいて、箱鳴りという表現をよく聞く。
バックロードホーンは、ホーンと言うように、スピーカーユニットの裏側(バック)に放射される音をスロート(喉のように細くなったところ)から徐々に広がるホーンを介して音を大きくしていく仕組み。学校で教員がよくメガホンというのを手に持って学生によく聞こえるように話していた記憶があるがあの原理を使い超長いホーンをスピーカーユニットの裏側に仕込んだもの。
ユニットにフルレンジスピーカーを使う事が多いが、スピーカーユニットのあの丸い紙の部分から前方へは、中高域を生成し、裏側のホーン部分では、できるだけ中高域を減衰させて、低音を増幅させる。すると、10cmぐらいの丸いコーンしかないのに、高音から低音まで無理なく綺麗に揃った周波数の音を放出して聴き手に届けるという仕組み。位相のずれを気にする方々もいるようだが、私には全く気にならない。
バックロードホーンの構造の話はさておき、本題の箱なりについて。
その裏側のホーンを経由して出て来た低音は、音圧によってそのホーンである箱自身を振動させて本来の音源ではない音を作り出して出すのが箱なりという事なのだろう。
じゃあ、その箱なりは、音源にはない音だから原音に忠実ではなく、オーディオマニアからは困った音になるのだろうか?
確かに、そのような解釈ができると思うし、箱なりを嫌い、バックロードホーンを嫌う人達もいるようである。
私の場合、この箱なりを伴ってホーンを通って出てくる音が、とても心地よく気に入っている。
ただし、その箱なりという現象にも節度が必要であるという事には、賛成である。
ただ、薄っぺらい板が、振動でバタバタ、もしくは、ボンボン鳴るのでは、心地よくない。
あくまでも、低音の広がりをうまくコントロールして、人の耳に心地よい音に変えてくれるかが大事である。
私の場合、バックロードホーンの躯体は、無垢材で作るので、その低音の広がりを、まるで木管楽器のホーンから奏でてくれるような、ソリッドでありながら、かつ柔らかい音色を生成してくれる。
要するに、このホーン部分が一つの楽器になっていると言う事なのである。
原音忠実主義の諸先輩には、認めてもらえないかもしれないが、私にとって、このバックロードホーンという楽器から奏でられる演奏を聴くという事が、オーディオの楽しみであり、決して、コンサートホールの再現を目指しているわけではないような気がする。
要するに、自宅の限られたスペースの中で、色々な音楽家達が演奏したソースを借りて、自分の気に入った演奏会場を目の前に作り、オーディオという楽器群から出てくる、至福の音楽空間を生成する事が大事なのである。
そういう意味において、バックロードホーンの箱なりは、楽器の一部として、コントロールされた気持ちの良い音であるならば、歓迎である。
このコントロールされたという事が難しいのかもしれないが、Fostexが提供してくれる設計図を元に、無垢材で、ある程度の厚みを持ったホーン構造体を構築してあげれば、自然の恵みの恩恵を受けてきっといい音がしてくれるような気がしている。
少なくとも、同じ構造でも、合板やMDF素材で作るよりも、無垢材で作ってあげる方が、良い結果が得られるように思う。
今の私の実力では、10cm口径(FE103NV)、12cm(FE126NV)までが、無垢材(ブナ)での作成の限界である。やはり、一番大きな側板をはじめとした部材の木の動き(収縮)をコントロールし、将来、割れ、剥がれなどの不具合を生じないように作るには、どうしたらいいかという技術が必要になる。合板自身は、縦横に貼り合わせてあるので、縮みや割れをあまり気遣う必要がない。MDFに至っては木の目などないので動きを予測するまでもない。
うまくコントロールされた無垢材で作ったバックロードホーンで、色々な楽曲を聴いていると、正に、至福のひと時を体感する事ができるので、病みつきになる。
いつか時間を見つけて、16cm、20cm口径のフルレンジを使い、無垢材で箱鳴りをうまくコントロールしたバックロードホーンを作ってみようと思う。その時、また新しい感動の世界が広がるのだろう。楽しみである!