もらいタバコ
禁煙。それは苦行である。
喫煙者の方なら分かると思うが、喫煙が既に習慣になっている状態から、いきなりスパッと断ち切るのは至難の業だ。かくいう私も禁煙に5年間成功したが、他人からのある行動によって破綻することとなった。
まだ私が現場で働いていた時の話だ。私がいた環境がアレなのかもしれないが、現場の喫煙者率は80%を超えていた。昼休みはモクモクと煙が上がっているのが日常の風景で、禁煙者としてはたまったものじゃなかった。
そんな折に私が禁煙中だと知った野口さん(仮名)がタバコを勧めてくるようになったのである。毎日だ。毎日白いマルボロを一本どうだと勧めてくるのである。最初のうちは禁煙をしてる身なので断っていた。だが就業環境から来るストレスやプライベートの問題により、とてつもなくフラストレーションが溜まっていた私はつい野口さんの執拗な誘いを受けてしまったのだ。
一本くらいいいかと思った。それがいけなかった。久しぶりに吸うタバコは私の頭をクラクラとさせたが、とにかく美味かった。食後ということもあり特に美味しく感じたのだ。悪魔的なまでに美味かった。今でもあの寒空の下吸ったタバコを忘れない。
そこからの野口さんは更に執拗に私をタバコへと誘ってきた。もはやこの人が悪魔である。毎日タバコを勧められていくうちに、もらってばかりでは悪いと思い、自分で用意するまでになってしまっていた。ただ、自分の中では、私は断固として喫煙者ではないと線引きをしているつもりだった。つもりだったのだが、側から見たらいつの間にかモクモク集団の一員になっていたのだ。私の禁煙はもらいタバコを受けた時点で瓦解し、自分でタバコを用意した段階で完璧に崩壊したのだった。
禁煙してますという方は絶対にもらいタバコはしないようにした方がいい。もらって一本吸った時点であなたの禁煙は崩壊の音を立て始めるのだから。