2024.8 舞台感想 ナイロン100℃「江戸時代の思い出」
ナイロン100℃ 「江戸時代の思い出」
@兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
とりとめない覚え書き。
なので私がどれだけナイロン100℃や(その時代に出てきた)小劇場演劇が好きかとか、細かい説明は省きます。
観劇も、ナイロン100℃も、大変久しぶりでした。
ナイロン100℃の49th session「江戸時代の思い出」は、完全ナンセンスコメディ。
伏線回収なし!(笑)
とにかくKERAさん流の「気持ち悪さ」「コミュニケーションのすれ違い」などなどがぶっこまれていた。
照明でも音響でも遊びまくってて、いたずら小僧みたいな舞台だった。
あれは、ぽっと出の若手劇団がやっても全く面白くない。
これまでの歴史があればこそできることである。
今回は「軽さ」に力点が置かれていたと思う。
言葉遊びからの時空移動などもあるが、「百年の秘密」のような重厚、シリアス脚本ではない。
兵庫の地方公演なので、関西のお客さんがほとんどだったと思うが、よく笑っていた。さすがー。
ですが、自分の中で変化を感じました。
これは自分の「老化」なのだろう。
KERAさんは変わってないと思う。
「埋める/掘り出す」、バラバラ死体、すれ違った会話はKERAさんのモチーフである。
今回は(なつかしの!)客席での芝居もあった!
最近演劇見ていなかったのだが、とにかく、なつかしかった。
まあそれも面白くはあったのですが、
いまいちノリきれない自分がいた。
一言でいうと、ポリコレ(PC)が自分の中に強く入ってきているなと思う。
自分が年を取ったから死体を軽く扱うことに抵抗が生まれたのか。
自分がコロナ禍を経て、自分の中の「疫病」に対する取扱いに変化が生まれたのか。
もちろん、何でもかんでもPCによって表現の自由を狩ることは、絶対違うと思う。それくらいは分かっているつもりである。
KERAさんは何十年も一線を突っ走っている。
KERAさんは全部わかって、あえてやっているに決まっている。
私たちを揺すぶっているのである。
でも自分の中で一番違和感があったのは・・・
兵庫県知事への揶揄のシーンだった。
(これはKERAさんやお芝居への批判ではなく、そんなことできるほど演劇の見方も分かってないので、ただ、個人的に「えー…」と思っただけです。ただの個人の感想です)
そのシーンは客席での芝居から始まった。
あまりにナンセンスな芝居に辟易し、帰ろうとする観客夫婦(俳優)。
そこへ唐突に落ち武者(俳優)が現れて「ワタシは兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールの者です(※という芝居です)。帰ってはいけません。芝居はこれからですよ!!」などと言う。
しかしやり取粋が進んで、落ち武者が言う。
「私たちの事務室には机と椅子があるんです!」
観客夫婦が言う。「そりゃあるでしょうね」
落ち武者が言う。「ただの机と椅子じゃないんですよ! 県知事がおねだりをしてもらったものなんです!」
ここで観客がドーンと笑う。
いやあ…。やられた。
KERAさんのTwitterも時々見ているし、政治にどういう考えを持っているのかもなんとなくは分かる。
政治風刺に本気で目くじらなんて立ててはいけない。
中世ヨーロッパでは、ある種の演劇には風刺の要素もあったと聞いている。
(ホントかどうかわからないけど)時の権力者が、自らを戒めるために、わざわざ道化を置いて自分を風刺させた…というような話も聞く(だから「リア王」には道化が帯同している)。
日本でだって、歌舞伎や人形浄瑠璃は、表立ってはできないものの政治批判の要素もあっただろう。
「河原乞食」とは役者が自らを誇って言った言葉だ。何も持たない者だからこそ、お上に物申し、庶民は拍手喝采する…。
それら歴史を知っていて、ナイロンとKERAさんが大好きで尊敬していて、
私はノレなかった。
私は「名古屋人」だ。名古屋と言えば河村市長。「金メダルをかじった」事件は大阪人にも笑われた。愛知県知事との仲の悪さも恰好のネタだ。
ほんとうに恥ずかしい。
それがさらに移住した兵庫県でも味わうことになるとは…。。
KERAさんにどうこうは思わない。表現の自由である。
私は「笑い」が全然わからない人間なので、ダサいことを言っているだけなのかもしれない。
でもまず観客に違和感があった。
勘違いだったら申し訳ないが、KERAさんは東京生まれの人で、ナイロン100℃は東京の劇団である。
もしかしたら、東京の本多劇場でやったときは、小池都知事への風刺もあったのだろうか。
東京の劇団が自分たちの居住地を風刺して、東京都民がそれを笑うのはありだと思う。
でも東京の劇団が、地方に来て、おそらく報道されていることをもとに兵庫県知事を風刺して、それを関西の人が喜んで笑うというのは、なんかちょっとわからなかった。
いやあんたたちが選んだんやん(県知事選挙のとき、私は移住したばかりで投票権がなかった。ただし、現知事に投票した可能性はある)。
私は名古屋生まれ・名古屋育ちで、自分を「名古屋人」だと思っているので、関西(兵庫県)の人の気持ちは分かっていない。
少なくとも兵庫県の人たちが笑っているなら、今回の一連の事件は、そういう種類の出来事なのかもしれない。
しかし、この件は上演時、まだ全く決着がついていなかった。
少なくとも県職員が二人亡くなっているが、まだ百条委員会の最中で知事は報道されている内容について委員会で証言をしていなかった。
うーん。
よそから来た私が(そして兵庫県に骨をうずめる覚悟もない人間が)何を、と言われそうだが、私はちょっとノレなかったんです。
もう1点、この演劇を上演していたのは、「兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール」である。
HPによれば、運営主体は「公益財団法人 兵庫県芸術文化協会」であるから、直接兵庫県が運営しているとはいえない。
だから働いているスタッフ・職員さんも県職員とはいえないと思う。
でも「兵庫県立」と名がつく以上、スタッフさんは、「兵庫県のため」に働いているのではないだろうか。
この風刺を見て私がスタッフだったら、どう思うだろう。
「よくぞ言ってくれた!」と思うのだろうか。
どうなんだろう。それまでの兵庫県との関係によるかもしれないし、特に何も思わないのかもしれない。
落ち武者が本当にホールスタッフがやっていたら、それはめちゃくちゃ面白かったのかもしれない。
もやもや。
ただ、声を大にして言いますが、
芝居自体は、円熟の俳優陣、盤石のスタッフさんで、大変いい体験でありました。
相棒ファンの私は「暇か?」の課長こと、山西惇さんも見られて大満足!
そして、実は、何回も何回も落ち武者が「兵庫県立芸術文化センター」と連呼したおかげか、初めて行ったこの「芸文(兵芸)」に愛着がわいてきました(笑)
芸術監督は2005年の開館当時から佐渡裕さんだそうで、びっくり!
クラシック音楽に大変力を入れているホールであるとうかがいしれた。
演劇にちょうどいいホールなので(座席も見やすいし補助椅子でもお尻にやさしい)、面白そうな舞台が来たらまたぜひ行きたいと思った。
私も演劇を見る作法を少し忘れかけているのかもしれない。
KERAさんにもナイロンにも、ぜひまた「兵庫県芸術文化センター 阪急中ホール」に来てほしいと思っている。
そして本当に少しでも早く、兵庫県政が安定してほしいと思っている。県民として。