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映画「プラットフォーム」を観たよ。感想(ネタバレになるかもしれない)

最上層でこの作品に盛りつけられた期待感は、僕らの元に来る頃にはほとんど残っていない。この作品は「自分を善人と思い込んだ狂人が歪んだ信仰の為に暴力を振りまいていくスプラッターマッドネススリラー」だ。

ある日、僕の数少ない友人の一人がこの作品を観て「言い表せないモヤモヤ」を感じたとの事で、どうにも気になった僕はトレイラーを観てみた。

陰鬱な雰囲気、不可解なシチュエーション、豪華な食事とみずぼらしい人物との悪趣味な対比、何かを決意し行動に出る主人公。
予告編の印象から「格差をうみだす社会構造の風刺」「SF的な施設を運営する謎の上位者との戦い」「CUBEやSAWの様な不気味な謎」を期待された方。

この作品はそういった期待を持って見ると大きく損をする。

けして映画として面白くないという事ではない。この映画の見るべきところはその他の部分にあるという事だ。不快表現とか、スプラッタ描写とか。登場人物のトチ狂いっぷりとか。まあ、非常に残念ながらスプラッタ描写は(国内版のみかもしれないが)ぼかしが結構強めにかかっているのでトーチャーポルノ的な楽しみ方をするには少し物足りないけれども。

つまるところ「トレイラーはとても興味深い」「しかしピックアップされた部分については期待する程に作り込まれていない」という感じ。
まぁ良くある事なので仕方ない。どうやら制作陣はほとんどが映画初挑戦みたいだし。制作費がそこそこ多かったことが仇となったのかもしれない。

視聴を検討している方は一度上記のトレイラーは忘れて、スペイン版のオフィシャルトレイラーを観直してから視聴を決められることをおすすめする。

ここから先は、具体的な内容や結末に関する言及があるかもしれません。

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これは特に意味はありませんが、頑張って書いた輿水幸子です。
目の色がよくわからず雰囲気で塗ったので、75点ぐらいですね。
この作品のネタバレは観たくないぞ、という方はここでお戻りください。

売り方が上手すぎたあまり上手ではない映画

繰り返すが動画サブスク企業の資本が入ったからか、宣伝がとても上手だ。
いくつかバージョン違いのトレイラーを観てみたが、スペイン版は暴力描写多めのマッドネススリラーのように。ネトフリ版はより不可解な場面を散りばめる事で、上質なワンシチュエーションホラーを想起させ、国内劇場版は深い風刺的シナリオを期待させる異色スリラーのように切り取られている。
作品の本質的にはスペイン版がもっとも近く、国内劇場版がもっともかけ離れているが、まぁそれ自体はよくある話なので別に良い悪いで判断しない。

色々なレビューでは深遠な設定を読み取ろうと様々なアプローチをしているのだが、僕が読み取ったものは「巨大で無機質なただのシステムに神を幻視した主人公が、妄想で作り出した儀式を狂信的に実行する話」だ。
彼の愛読書がいい具合に皮肉めいていて、そこは結構好きだなと思った。

確実に言えることはこのシナリオに格差だとか資本主義だとかは関係ない。
労働もなく階層の入れ替えもランダムなのだから、これは社会構造を模したものではなく、ただの迂遠な処刑装置だ。
おそらく矯正施設として運営されているテイなのだろうが、もし本当にそうなのであれば最初からシステムが破綻しているので、もはや社会不適合者の処理施設として機能しているのだろう。

実は最下層だとか、そこにあったメッセージだとかは主人公の妄想なのではないかとすら思っている。特にあのメッセージが最下層にあるというのはあまりにも辻褄が合わない。神話めいた暗喩の類いは、発狂した主人公がシステムに神を見出し、ただそこにあるものを神聖なものに幻視しているだけだと思うとむしろスッキリする。

狂人を理解する事は不可能だ。狂人の世界での真実は狂人の中にしかない。
だからこそこの映画は理解しようとせず、ただのはちゃめちゃマッドネススリラーとして楽しむのが一番だと主張したい。
一度観たけどスッキリしなくてモヤモヤしちゃってる人は、視点変えてぜひとももう一度鑑賞しよう。

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