「先生、バライタって何ですか?」
綜合写専1年生の暗室実習の時間。
初めて「バライタ印画紙へのプリント」を教わった講習。
一通りの説明の後、ある生徒が質問をした。
「先生!バライタって何ですか?」
そこで教室がどっと湧いたが、私は笑えなかった。
バライタ、って、何?
私もわからない。
実は当時、先生も答えられなかったんです。
今はネットで簡単に検索出来る。
英語なんですね。
baryta
硫酸バリウムのことを、そう呼ぶらしい。
私は登録商標か何かかと思っていましたが、違うらしい。
RCペーパーが登場する前の印画紙は、ベースとなる紙に白色度を高めるための硫酸バリウムを塗布していた。
その後、チタンとポリエチレンでコーティングし、耐水性の高い印画紙が登場した。それがRCペーパー。それと区別する必要が出てきて、あえて「バライタ印画紙」という言葉が使われるようになったのだと思います。
RCは、画像の美しさより利便性を優先していたため、「素早く沢山=RC」「作品づくり=バライタ」みたいな風潮はありましたけど、私、RCで写真展開催したことあります。RC=ダメ、でもなかったですよ。
で、それは銀塩時代の話でして、今はプリンタなので、印画紙そのものに「酸化銀を含む乳剤」を塗布する必要がなく、それとは別に「プリンタヘッドから飛んでいたインクを、滲ませすぎず、適度に吸い込み、しかし吸い込みすぎない」という技術の開発競争になりました。インクも、よりダイナミックレンジを拡げよう、とか、階調性を高めよう、とか。耐久性も。初期の「写真画質」のプリンタって、「これは凄い」という鮮やかさを感じましたが、褪色と言うか、変色が速かった。あと、充分乾燥させずにポリ袋に入れると「画像が滲む」とか。
そのまた昔のプリンタはドットインパクトプリンタが主流で、文字さえ出りゃあいいので、色もへったくれもなかったです。dpiなんて単位を使うメーカーはなかった。ドットインパクトプリンタは「複写が取れる」ので複写伝票や複写葉書(役所の支払い通知書とか)の出力に使われていましたが、それが「24ドット」とかね。仕事でさんざん使いました。インクリボン交換したりね。「リボンて何?」ですが、今では。ドットインパクトプリンタは、事務用品、タイプライターの仲間。写真なにそれ関係ない。
話は飛びまして、今、インクジェットプリンタ用のバライタ紙があります。買ってみました。
EPSONのクリスピアと同じ画像を出してみましたが(iccプロファイルは変更)、微妙に色味が違う。クリスピアの方が白色度が高いほか、光沢もクリスピアの方が強い。バライタの方が、光沢を抑えている分「画像が充分に観察出来てしまう」という恐ろしさはあります。
銀塩のバライタと違って「フラットニングしなくていい」のは楽。
銀塩では、水洗後生乾きまで乾かして、そのあと、プレス機で加熱して伸ばす「フラットニング」が必要でした。
いやでも私、実はプレス機ってほとんど使ったことなかったです。まず、床に新聞紙を重ねます。日経新聞。いやどこでもいいんですけど。その上に画像面を上にして印画紙を乗せ、印画紙にコピー用紙の白紙を乗せる。たいてい印画紙は複数枚ありましたから、その上にまた白紙を乗せ、印画紙を乗せる。印画紙と白紙を交互に積んで、一番上の白紙の上に、また新聞紙を重ねる。その上に板ガラスを載せ、ガラスの上に「交通公社の時刻表」を大量に積んで1週間くらい放置しておく。ガラス板なんでなんで持ってるの?と思うかも知れませんが、モノクロのコンタクトプリントを撮るために5mmガラスを持っていました。それより写真家一般の疑問は「交通公社の時刻表なんてなんで大量に持ってるの?」でしょうか。
プリンタ用のバライタ、銀塩のバライタと違うといえば違いますけれど、カラープリントできますし、フラットニングしなくて済むというのは楽です。