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リサーチでインサイトを得るために必要な「アブダクション」|リサーチをかえりみる(1)
「リサーチをしても、発見がない…」
リサーチャーが気づいてないことに気づくためには、どのような思考が求められるのでしょうか?
そこでキーとなるのが、「アブダクション」です。
演繹、帰納、アブダクション
アブダクションは第3の論理法に位置付けられています。他2つは、演繹法と帰納法です。
これらの論理法について、「科学的な発明には、たいていアブダクションが関与している 仮説を強化し論理を前に進める“仮説的推論”の力 | ログミーBusiness』」でわかりやすく説明されています。
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では、それぞれの推論について、リサーチを例に説明します。
例:とあるECサイトで、「ユーザーが特定の商品ページを何度も訪れるが、購入しない」ことが観察された。
1. 演繹法
一般的なルールから個別の結論を導き出す。
前提1:購入プロセスで障害がある場合、ユーザーは商品ページを何度も訪れるが購入しない(一般的なルール)。
前提2:今回のサイトでは購入プロセスが複雑である(個別の事実)。
結論:したがって、ユーザーが特定の商品ページを何度も訪れるが購入しないのは、購入プロセスに問題があるためだ。
演繹法では、前提が正しければ結論も必ず正しくなります。結論としては、そりゃそうだとなります。
(演繹法は)前提に結論が含まれているので、新しい見解にいたらない
2. 帰納法
観察された具体例から一般的なルールを導き出す。
観察1:他の商品ページでも、訪問回数が多いが購入が発生しない場合があった。
観察2:過去の調査で、訪問回数が多いが購入に至らない商品ページが複数確認された。
観察3:別のサイトでも同様の傾向があった。
結論:ユーザーが商品ページを何度も訪れるが購入しない場合は、購入プロセスや商品情報に問題がある可能性が高い。
帰納法では、これまでの観察に基づいて結論を出します。観察データを集めて、推論の正当性を高めます。
(帰納法は)これまでの経験を確認するだけで、新しい発見にいたらない
3. アブダクション
観察から最も合理的な仮説を作ります。
観察:ユーザーが特定の商品ページを何度も訪れるが購入しない。
仮説:おそらく、商品の価格が高い、説明が不足している、レビューが不十分、または購入プロセスに問題があるからだ。
アブダクションは仮説を立てる方法で、他の可能性がある場合も否定されません。アブダクションを行うことで、新しい気づきを得ることができます。
アブダクションというのは、現象としては現れていない仮説をイマジネーションの中で構築する作業なので、今目の前に見えていないことを新しく発見するってことが大きな違いなんですね。なので、探求の論理学と言われています。
まとめ
演繹法:「ルールが既にある」ときに使う。すでに「購入プロセスが原因」というルールがある場合に、そのルールを当てはめて結論を出します。
帰納法:「多くの観察を基にルールを作る」ために使う。複数の観察例を基に「購入されない理由には共通のパターンがある」と推測します。
アブダクション:「観察を最も合理的に説明する仮説を作る」ために使う。具体的な観察(購入されない)を最も合理的に説明できる仮説を提示します。
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アブダクションは、「あれ?」と思い、背景(前提)を探り、仮説を立てて考えることです。 これがリサーチの時の大事な思考法になります。
すでにある事実だけを見て、客観的な正しさを求めると新しい発見には至りません。
次は、発言や行動を深ぼるためのインタビュー術についてです。気づいていないことに気づくためには、背景を探る必要があります。そこで大事になるのが、言動の背景や文脈を深掘りするインタビューです。
次に続きます!
リサーチをかえりみる
【前書き】リサーチは、主観的で創造的な提案活動だ
【1】リサーチでインサイトを得るために必要な「アブダクション」
【2】インタビュー深掘りのコツ。相手にとっての言葉の意味を聞く
【3】関係者の想いを聞き出して、共創的なリサーチを
本記事シリーズは、2024年6月に行ったCONCENT DESIGN SCHOOL Regular program 「プロジェクトを推進する! 新たなインサイトを生み出す『探索型リサーチ』実践」でお伝えした内容を一部抜粋して、再編しています。