What is happiness to ''THE HAPPIEST PRINCE" ?

舞台の幕が上がる寸前。観客の期待と出演者の緊張が混じりあって、少しずつ静寂が訪れるあの瞬間が好きだ。世界が一旦無になって、そこからグラデーションがかかったように、徐々に舞台の世界に入り込んでいく、あの感じ。それをまた体験出来るようになった事が、まずは何より嬉しかった。

初めて目にした彼らは、やはりまだ未熟なように見えました。…なんて、偉そうな口がきけるほど観劇した経験がある訳では無いけれど(笑)、舞台の上から流れてくる緊迫した空気を実際に肌で感じられて、こっちも真剣に観なきゃな、という気持ちになった事は確か。

舞台中央にそびえ立つ''幸福王子''の像が、これから始まる物語の奥深さを表していたように思う。

本髙克樹の力強いセリフで物語は始まる。堂々とした立ち振る舞いはまさに王子そのもので、 煌びやかな見た目とは裏腹に長年抱えてきた苦悩が滲み出ていた。少し高圧的な態度が嫌味に見えないのは、本髙自身から放たれるカリスマ性が関係していると思った。観客の視線を一瞬で己に集中させる主役力の強さに驚いた。
一方、くるくると回る演技から始まる今野大輝は、事前に発表されていた男らしいビジュアルのツバメ、ではなく、自分勝手で愛くるしいツバメをキュートに演じていたところが魅力的だった。どこを切り取っても可愛くて、見ているうちにどんどん愛おしくなってくる。あの第一声で骨抜きにされた観客は多いと思う。私がその1人です。
物語が進むごとに緊張感は溶け始め、2人の演技も伸びやかになり、観客を着実に幸福王子の世界へと惹き込んでいった。物語の途中で挟まれる歌声には、耳をすませる、というよりも、心を傾ける、と表現した方が相応しいような、そんなパワーを感じた。
また、物語の進み方や王子のキャラクター設定から、私が知っているオチにならないような気がしていたので、最後のあの演出は納得だった。最後、あの空気の中で気迫のある演技を魅せた本髙には今後も舞台のお仕事がたくさん舞い込んできたら良いのにな、と思う。
一方、今回のROCK READINGで新たな才能を開花させたのは小川優のように思える。彼の演技も初見だったのだが、ナレーションが本当に上手かった。男声にしては高めで少し甘さも感じられる声。その声で紡がれていく物語を聴くのはとても心地が良かった。さらに得意分野のギターを使って、ROCK READINGに欠かせない音楽をも紡ぎ出す。ジャニーズの中でもロックに振り切ってる彼だからこそ、開拓出来るジャンルのように思えた。小川優、めちゃくちゃ良かったです、本当に。


幸福とは何か。とても哲学的で非常に難しいテーマだと思う。幸福とは、自らの物差しでしか測りえないものだからだ。私の幸福が他人の幸福とは限らない。だから幸福を巡って対立が生まれてしまう。その対立が幸福をさらに遠ざける。この負のループは、もはやどうしようも無いものだと私は思っている。
しかし、それを打破しようと試みたのが幸福王子だった。例えその行動が一時的なものだったとしても、独善的だったとしても、自分の信念に素直に従い、幸福を皆に平等に分け与えようとした。
そんな王子の姿に賛同したツバメもまた、心の優しい存在だった。王子の自己犠牲に疑問を持ち、「それは自己中心的だ」と非難した時は驚いた。何故なら、ツバメが自己中心的なキャラクターだったから。ツバメは難しく考えることが出来ない。だからきっと気づいていなかったのかもしれないけれど、彼は王子と出会って自分の中の「幸福の尺度」が変わったのだと思う。自分さえ良ければ幸せだったツバメが、王子の幸せや街の人々の幸せも考えられるようになったところがとても印象的だった。舞台のセリフを借りるのであれば、「尊い」なと思った。
作中には経済や現代社会に関する単語も次々と登場し、どこかの国のおとぎ話というよりも、現実的で考えさせられるリアリティショーのように思えた。この物語を演じていたのが、これからの現代社会を担っていく若者2人(本髙今野)だったことにも深い意義があるように思う。

作中で王子とツバメにとっての「幸福」について言及されることは無い。私たちの幸福が彼らの幸福に繋がるのだとしたら、やはり私たち自身が「幸福」について考える必要があるのだろう。
幸福とは何か。答えの無い問いを追い求め続けることは難しい。けれど、世界情勢が一変し、「幸福」が変わりつつある今だからこそ、それに挑むことが大切なのではないだろうか。

2020年11月7日。今夜の京都の天気は雨。天国で幸福王子が涙を流し、それが雨となってここに降り続いているような気がしてならない。

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