⑤ごまかし
好きだけど大嫌いな父
父親は「公衆電話に財布を忘れて来た」ということをよく言っていた。
今思えば、容易に「嘘だ」と思えるのだけれど、
子どもの頃の私はそう思わない。父親と母親が慌てているのを、私もソワソワしながら見ているしかなかった。
額の大きな「着物」を販売していたので、
営業の上手な父親の口車に乗せられて購入し、後になって我に返ってキャンセルを申し出るお客様も多かったらしい。
そうなると、自分の売り上げが減ってしまうので、自腹で売り上げを死守するということを始める。
見栄っ張りで負けず嫌いの父親らしい展開。
とはいえ、サラリーマンとしての通常のお給料は支払われるので、その中でやりくりしていくのだけれど、そのうち自分の支払いが増えていく。
また、父は短気で頭に血が上ると喧嘩をしてしまう。自分の想い通りにならないと気がすまない部分が表に出てしまうと、より悪循環になっていく。
そしてまた、
「公衆電話に財布を忘れた」「車をぶつけて修理代がかかった」と
困った顔をして帰宅する。