熊本城マラソン2024でフルマラソンに初挑戦!
たくさんの声援のおかげで無事完走できました。熊本の皆様、本当にありがとうございました!
せっかくなのでコラムに残しました。
長文ですので軽ーく読んでいただけたら。
「あと1キロ進んだらリタイアしよう」
さて今回も約束を破るか。
だいたいこの日のために手に入れた物なんてたくさんあるのだ。
まず、毎日会社に履いていく革靴よりもあっさり高価なのに、3ヶ月くらいでへたってしまうマラソン用シューズとか、
締めつけが強すぎて走っているうちに気持ち悪くなって、もう一着買い直した締めつけタイツとか。
音楽を聴いた方がペースが安定するからと勧められるままポチッたBluetoothのイヤホンも。
そして左腕にピカピカ輝くのは慌てて1ヶ月前手に入れたアップルウォッチだ。
スタート前から立ちっぱなしで1時間くらい経ったはずなのに表示は無常にも7.8km。
もう辛い。帰りたい。あと35km近く走り続けるなんて無理だろう。
そうだ私はそもそも学生時代からランニングが趣味なわけでもない。Youは何しに熊本に?
たまたま去年の話。
ふらっと立ち寄った熊本にすごく惹かれた。
駅周辺に2泊だけだったけど。
大きな川が街をゆっくり流れる風情のある街で、地元の方があたたかくて大好きになった。
でもだからといって、なにもマラソンに出なくてもよかっただろう。単に観光でよかったのになぜか歴史めぐりマラソン、それもフルマラソンに応募して当選。
でもおめおめリタイアして帰れない。
なにしろお金がかかってるんだもの。
エントリーフィーも交通費も宿泊費も食費だってかかるし、さっきのシューズとかもそう。
体つくりのためにプロテインなんかも摂ってまあまあ高価だった。
おじさんは趣味に簡単に金を出しがちだけど、そうかと思えばがめつく元を取ろうとする。
いやらしいな私。
そうだよ会社にも有休取ったからマラソン出るのバレてる。
おめおめリタイアして帰れないよ。
福岡までしか飛行機は取れずにレンタカーでやってきた。昨日は宿だって満杯だったから、道の駅でさみしく車中泊もした。
辛い苦しい辞めたい。でもリタイアは嫌だ。
約束も破れないし。
なんとか7分で1キロのペースで練習どおりに足を進めていく。
初出場だから知らなくて、後に他のランナーさんに教えてもらったのだけど、沿道の方々がこんなに一所懸命応援してくれるのは熊本城マラソンだけなんだそう。
声を張り上げ「がんばれ!」「ファイト!」とたくさんの方々から声をかけてもらう。ありがたい、本当に嬉しい。
イヤホンしてるけど全部耳に入ってます。聴こえるイヤホンにしたんです。皆さんひとりひとりにお礼が言いたいけど走るのに必死ですみません。
声援のおかげで前に進む気力が折れてはまたひとつ、折れてはまたひとつと湧き起こり15km地点までまず進んだ。
すこし離れた街に入る。と急に力強い太鼓の響きが沿道から湧き起こる。
サックスやバンドの演奏をしてくれている人もいて、そんな声援を背中に受けて足がまた前に進む。こんなに応援してもらって途中リタイアなんてできないな…なんて思いも芽生えてしまうくらいの大声援だ。
長い直線に差し掛かった。ここで気持ちが折れてしまうのか、次々に他のランナーが給水場に寄った後から歩き始める。
その時、対向車線に半年の練習でまだ経験した事のない30kmのプラカードが迫ってきた。
折り返す事ができたらあそこに辿り着く。そこでリタイヤするかどうか決めよう、とまた足を前へ前へ進めていく。
ずいぶん長いこと真っ直ぐ延々と進んで折り返し地点。
幼稚園くらいの男の子がそっと手を出してくれるてハイタッチをしてもらってまた元気が出る。
25km…26km…と沿道のプラカードの数字はなかなか上がっていかない。一度道路に目を落として沿道を見ないように走り続ける。するとようやく1時間前に見えた給水場が目の前に迫ってきた。
身体は…まだいける!自分でも驚くくらい安定したペースでここまできている。
これならいつも練習していたコース、自宅から4駅往復トレーニングの15kmを残すのみだ。
行くしかない!とそーっと少しだけギヤを上げる。早くゴールしてこの辛さから逃れたいのもあるし。
沿道からの声援が一段と大きく聞こえてきた。身体が辛くなってきたから無意識に耳も敏感になってきているのかもしれない。
沿道からの声援をくれる皆さんとどんどん目が合う。たぶん笑顔が消えてボロボロの顔をしているのだろう、心配されている。
「自分がやりたくてやってる事で辛い顔したくないな」と思うけどでも仕方ない。よく見たら友人やお父さんお母さんの名前、会社の同僚を書いたプラカードもたくさんできっと私への応援ではない。
でもそんなのはどうでもいいから、もう自分への応援と思うことにした。
もう応援されている側じゃないと足が動かない。
声援がどんどん背中を押してくれる。
どんどん日差しもキツくなって身体に熱がこもり犬のように口でヘッヘッヘっ、と息をする。
今年一番の暑さを経験しながらコースは広い幹線道路に入り始め、いよいよ日陰は全く無くなった。
35km地点、幹線道路にかかる2つの大きな橋が容赦なく襲いかかり、周りはほとんど歩いている参加者ばかりになってきた。
「なにをアイツは必死こいてるんだ」と思われてるかもな、と思ったけれど走って登り続ける。自分と決めた約束があった。
「決して最後まで歩かないこと」
深い意味は無くてだってランナーだから、といった屁理屈もあるし、たぶん自分の性格で歩いたらもう諦める、と思ったから。
また視線を下に落とす。日差しが眩しいのと沿道の距離のプラカードが進んでいかないと心が折れそうだったから(のちにこの姿勢が後半のバテにつながったのを後で知った)。
いよいよあと2kmでゴールに差し掛かった時、そういえばゴール地点が熊本城の横にある公園だというのを思い出した。
「昨夜、ライトアップされて静かに佇む熊本城を月とともに見上げたっけな。あそこにゴールするのか…」
そういえば見上げた…。けっこうな高さを。
嫌な予感とともに目の前に迫ってきたのは普段でもけっこうてくてく歩くレベルの坂。
今日ばっかりは40km走ってきた足でこれに挑むのか…とめまいがした。
もちろんここでリタイアなんてできないんだけど。
歩かない、と自分との約束を思い出す。そういえばもう一つ理由があったな。
最初フルマラソンに挑戦しようと決めた時からさまざまなランナーのブログを読み耽って、その中で刺さった言葉が「いかに歩く時間を少なくするかがタイム向上のコツ」とあり、なるほどな、と思っていたのだ。アップルウォッチには4時間と45分の表示。いつもどおりに7分ペースでゴールまで行けたら5時間を切れるかもしれない。
ふいに昔の記憶が甦る。
高校の頃、ドロップアウトしかけた自分を救ってくれた恩師はサイクリングのヒルクライムの大会経験者でよく山道を一緒に走ってくれた。
本気でのめり込み始めた時、キツい急坂が続くコースにチャレンジしたものの、くじけてしまってカッコ悪いわ悔しいわで降りて押してたら叱らず優しく教えてくれたな。
「一度降りて歩く筋肉を使ってしまった瞬間、身体が楽な動きも覚えてしまう。すると頭は身体に楽な方法を優先してしまうから、どんなにペースを落としても脚をペダルから離さないで回し続ける事がキツい坂を登りきるコツ」と。
恩師の顔を思い出して、なんとか走って登り続けよう、とヘロヘロ、ヒョコヒョコと最後の坂に向かう。
曲がり角にいた中学生くらいの男子達が「もうちょいだ!がんばー!」と激励してくれる。
ありがとうね。もうお礼の声も出ないけど。
イヤホンからは何回目の「強風オールバック」だろう。曲に合わせてピッチを刻むなんてずいぶん前から無理だけどとにかく足を前に出す。
二つ目の坂を登っていたらエスカレーターに乗ったランナーが左から右にすーっと上がっていくのが見えていよいよ幻覚が…ではなく3本目の急坂を一定のペースで上がっていくランナーの群れだった。
「あと200m!」急に女性の声が聞こえる。
最後の坂をどう登ったか全然覚えていないけどいきなり目の前にゴールが現れた。
「ゴールする時、感動して涙が溢れるのだろうか?それとも駅伝の選手のようにその場にへたり込むのかな。まあ、なんでもいいけど初体験だ。さあどんな感じなんだろう…」さっき思っていたけどいきなり42.195kmが終了した。
なぜだか力いっぱい何度もガッツポーズをしていた。
完走よりもなによりも、自分との約束を守れた嬉しさが真っ先に込み上げた。
40歳を過ぎ、だんだんと自分との約束を破ることに後ろめたさが薄れてきていた。
食べすぎや深酒。寝不足などの不摂生や、他人にイライラしてキレちゃう、とか。
もし中学生の頃の自分がいたら「このおっさん、いつも約束守んねーな!」と呆れてるんだろうな、と思っていた。
だから守りたかったし謝りたかった。
「いつも約束破ってゴメン」って。
ゴールした後はなんだかフワフワした夢心地。
何人かのランナーの人達と笑顔でお話したり、たまたま同じシューズを履いていたランナーと意気投合して「来年も同じメーカーで参戦するぞ!」と誓い合ったりして。
初めてのフルマラソンが熊本でよかった。
挑戦してみてよかった。
走り切れてよかった。
なによりも自分との約束を守れてよかった。
沿道の皆さんの応援がなかったら完走は絶対に無理だった。ありがとうございました。