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〜服と綿をつくる〜 「yohaku」渡辺さんと「KITEN」酒井さん対談 【前編】


綿の種まきをする渡辺さん(左)と酒井さん(右後ろ)

自然素材と再生を大事にした服作りを続ける「yohaku」代表の渡辺展行さんと、全国でも珍しい、国内で和綿を生産している「KITEN」代表の酒井悠太さんのお二人に、服をつくること、綿をつくることについてお話を伺いました。

服と綿をつくる2人が出会ったきっかけ

酒井:渡辺さんに初めてお会いしたのは、共通の知人からの紹介でした。僕はyohakuのことも前から存じ上げていたので、「あの渡辺さんですか??」と、ちょっとした芸能人に会うくらいの気持ちで、うちに興味を持っていただいてるというのもすごく光栄でした。
お会いしてみたら想像通りですごく真面目。寡黙な人だなと思ってたら、綿の話になった途端にすごく饒舌になって、そこでシンパシーを感じました。少しお話しただけで、服作りに信念や哲学を持ってらっしゃる方だなとわかりました。

yohakuの綿のTシャツ

渡辺:酒井さんの話が出たきっかけは、たしかその知人と「いわき市の古着のリサイクル率がすごく高い」という話をしていた時だったと記憶しています。服の廃棄問題はずっと自分の向き合ってるテーマでもあるのですごく興味があったんです。

酒井:いわき市には古着のリサイクル事業を行なっている「ザ・ピープル」というNPO法人があるんです。役所や公民館やホームセンターなどに古着の回収ボックスがあって、捨てるのではなく、ピープルに預けるという慣習があります。この状況を見た他県の産廃事業者さんが、民間主導でこれだけの古着回収率を保っているところは他にないですよと話していました。同じ市内にいるとそれが当たり前だったので気づかなかったです。


日本のアパレル業界でいま起こっている問題

渡辺:今の日本には、海外から大量に服が入って来て、ろくに着られないまま毎年かなりの量が廃棄されているんです。購入された服も、その内の10-20%はクローゼットにしまわれたままだとか。明らかに供給が過多になっているため、最近は規制が入り始めたらしいですが。また、服になる前で工場に残ってしまった布や糸、いわゆる残反や残糸もものすごく余っています。

どうしてこうなってしまうかというと、単純に海外で服を作った方が格段に安いからなんです。例えば国内で100枚作ると30万かかるところを、海外なら同じ値段で1000枚できる。1000枚のうち100枚売れれば元が取れるので、とりあえず沢山作って売れ残ったら廃棄しちゃえば良いと。「作る」と「売る」と「着る」のバランスが悪すぎるんですね。

酒井:僕にもそういう経験があります。ある商談で中国の生地価格と比較されたことがあって、同じ金額で中国なら倍以上作れる、と言われました。値段の差の付加価値を僕たちが示せていないというのも痛感したのですが、いろんなバランスが崩れているのを感じています。

信念を持って事業を継続していくために、理念として譲れないことと、会社として運営していくことの両立の難しさを日々感じています。

渡辺:いびつな状態が悪いからやめさせたいという訳ではなくて、買う人が選択肢を増やせると良いなと思っています。以前は残反の整理や古着の回収をやっていたのですが、それは海に流れてくるペットボトルを拾うようなもので、それだけやっていても解決にならない。ペットボトル自体を考え直さないといけない。 

じゃあなんで昔は、着尺幅といって裁断物を減らしたような服作りをしてたんだろうとか、染め返しでリメイクしたり、穴が空いたら塞ぐとか、要は服を大事にしていた。そっちの世界があるということを知るのがすごく大事なのに、それをみんなが知らない。大切に着倒して着倒して、ボロボロになったらやっと終わり。毎年、何十枚も買わない服の世界もある。その選択肢が消費者の人の間に広がってほしいです。


服は、一年に一度しかつくれない農作物

渡辺:自然のペースに合わせた服作りをしてみたいと、前に酒井さんから綿を30キロほど分けてもらったんです。種も分けてもらって、自分で畑を作って蒔いてるんですが、そこで気付いたのが「服って農作物なんだ」という実感です。春に種を蒔いて秋に収穫して、手で紡いで糸にして編んで、とやっていると、Tシャツ一枚作るにしても来年の夏ぐらいまでかかる。畑に綿が実るのは一年に一度だけだから、服を作れるチャンスも本来は一年に一度しかないんですよ。野菜とかと一緒ですよね。でも今は、輸入によってそこの制限がなくなっちゃってるから、供給量がおかしくなっちゃってるんだと思います。

服は農作物だから、もし服を作る量を増やしたいなら、畑をつくる土地を増やさなきゃいけない。さらに種まきや収穫のタイミングや、温暖化や雨が多すぎて収穫量が減るというリスクもある。結果、一枚の服を作るにも、きちんと環境問題を向き合わざるを得なくなる。それって結構すごいことだなと思っています。

酒井:実は、今年は蒔いた種の半分しか芽が出なかったんです。種に問題があったのか、肥料が足りないのか、もしくは土壌が固すぎたのかなど、要因は無数に考えられてしまう。たまたま地温データを取っていたので、それが原因じゃないかとなりましたが、正解かどうかを確かめるチャンスも一年に一回しかないんです。少しでも時間が経つと環境条件は変わってしまうので。

以前、綿花栽培の作業マニュアルのようなものを作ろうとして、地元の農家さんに相談したのですが、「一律のものは作れないよ」と一蹴されました。その年によって気候も違うし、土の条件も違う。何月の何日頃に水を何mlあげる、肥料は何kg投入するっていう単純な仕事じゃないよ、と。もちろん知識の蓄積はあるけれど、これだけやっとけばokっていうものは作れない。最終的には経験と勘だよと。あれはシビれましたね(笑)

渡辺:最終的に勘ってすごいですよね(笑)


自然界は“均質じゃないこと”が完璧な状態

渡辺:今のを聞いて思ったんですが、みんな自然物に均質を求めているんだなあと。自然界はそれぞれが違う状態、均質じゃない状態が完璧なのに、どこかで勘違いが起こっちゃってる。そういえば、種のすごい話も聞きました。同じ土地で何代か蒔き続けていくと、発芽率が上がるそうですね。種の方がソフトウェアみたいに、土地に合わせてアップデートしていくらしいです。

酒井:種には生命があるので、遺伝子の中に記憶していくと聞いたことがあります。生き物として循環し続けているので、毎年繰り返し植えた方が発芽率も良くなるし、長い間寝かせすぎると発芽率が落ちてしまうということが起こります。

渡辺:自分でも綿を収穫するようになって、種がどんどん増えていくのを見ると、繁殖を目的とした生命なんだなあと感じます。戦略的に周りの環境に合わせていっているんですね。

酒井:土地に合わせるという話だと、和綿は綿が下向きに弾けるんですが、これは雨が多い日本の気候に適合したものと言われています。海外の綿花は天に向かって弾けています。

渡辺;人類の人種の変化と同じですね。食べ物とかもその土地の環境に合ったものになるというし。


後編に続く




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