見出し画像

“切りおろし”でふわふわの食感。食材の細胞を潰さない、大矢製作所の純銅おろし金

ー 作り手

大矢製作所さんはもうすぐ 100 周年。昭和 3 年に創業し、純銅のおろし金の製造・販売を行っています。

画像11

力を入れなくとも滑らかにおろすことができ、素材の持ち味を引き出してくれるこのおろし金ですが、プロの料理人にも愛用者が多く、直しをしながら10年20年と使い続ける方も少なくないそうです。その評価の高さから、テレビや雑誌などの各種メディアで度々取り上げられています。

例えば大根ですが、大矢製作所さんのおろし金でおろしたものはふわふわと口当たりがよく、口に含むと水分がジュワッと染み出し、そのまま食べても十分美味しいです。繊維が硬く、べちゃっと水っぽい大根おろしとは全く別物です。その味の違いは、一体どこから来るのでしょうか?

画像12

まず、一口におろし金といっても、ワサビ、ショウガ、大根など、食材によって、適した目が違うのはご存知でしょうか?

画像12

ワサビは細胞をつぶす方が美味しく、ユズ・ニンニクは細かくおろす方が風味も引き立ち美味しくなります。しかし、ショウガは鋭い刃で繊維を細かく切りおろす方が、きめ細かく舌触り良く仕上がります。

大矢製作所さんの代表的作品である羽子板型・両面の銅製おろし金は、表裏で目の粗さが変えてあり、一枚で二通りのおろし方が可能です。表(粗目)は大根、りんごなど、裏(細目)はわさび、しょうが、ゆず、にんにく、山芋などをおろすのに最適です。素材によって一番美味しいおろし方ができる目が用意されているのは嬉しい限りです。

また、他にも美味しさの秘訣がありました。

画像1

叩き締めて固くした銅板に、ひと目ひと目、鋭い刃(は)を立てて作って行きます。こうすることにより食材を細かく“切りおろす”事ができ、細胞が潰れず水と繊維が分離しないので時間を置いても水分をたっぷり含んだふわっとしたおろしができます。繊維を細かく切るため、口当たりがまろやかで、風味を損ないません。

アルミや陶器などの切れ味の悪いおろし器ですと、食材の細胞をすり潰し、水分が抜けてパサパサになってしまうところ、大矢製作所さんのおろし金では、細胞を潰さずに切り離す“切りおろし”ができるため、水分が外に逃げてしまうことがないそうです。

また、縦や横に整然と刃が並んでいる一般的なおろし金と違い、ひと目ひと目立てる事により微妙にばらついた刃の配置になります。
これにより、食材を上下に動かすだけで不揃いに並んだどこかの刃に食材が当たることになり、食材を回転させる必要がなく楽におろせます。

食材の性質を知り尽くし、そこに適した目を立てる確かな技術が合わさることで、あの美味しさを生み出すおろし金が作れるのですね。

ー ものがたり

大矢製作所さんの中のご様子を少し伺わせて頂きました。

画像6

画像9

元々は一枚の銅板だったところから、こんなにも多彩な道具が出来上がっていくことに驚きます。

画像9

こちらは職人さんが目を立てていく作業場です。

画像7

画像4

目立て作業の様子はこちらの動画でご覧頂けますが、スピード速く次々と目を打ち込んでいく正確無比な手際に、思わず見惚れてしまいます!

使い込まれた道具たちにも風格が滲みます。

画像12


銅には抗菌効果があり調理器具の素材として用いられる事も多いですが、そのおろし金は歴史が大変古く、江戸時代の百科事典にも載っていると教えて頂きました。拝見すると、現在のおろし金とほとんど形が変わりません!

画像13

聞けばこの羽子板型のおろし金は300年前以上前から受け継がれてきていたとのこと。そんな昔から現在も変わらない形で残っているというのはすごいですね。

ー 想い

昭和初期に鍋などの銅製品を作る職人をしていた先々代が、おろし金職人が徐々に減っていく状況を見かね、1950 年代からおろし金に集約しはじめたことが、今のような形になるきっかけだったそうです。おろし金の製造は面倒な作業が多く、敬遠されがちだったため、専門の職人は珍しかったそう。

そこから現在まで素晴らしい製作を続けて来られた大矢製作所さんですが、実は最近はおろし金を製作するための道具を作る職人さん自体が減ってきてしまっているとのことでした。

大根おろし、すりショウガ、ワサビにとろろ芋・・・「おろし」は日本の料理には欠かせないものです。この文化が10年後、20年後も私たちの食卓を楽しませ続けていてくれるように、何かできないか、考えてみたいです。

画像11

ー 作り手情報

銅おろし金の大矢製作所




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?