1000年の歴史をもつ伝統技術を後世に繋ぐ。使い手と共に時を重ねる、長文堂の”一生もの”の鉄瓶
ー作り手
長文堂さんの工房があるのは、山形県山形市の鋳物町。鋳物町は、戦後、この地に工業団地が集団移転してきたことから名付けられた場所です。
長文堂さんが作られているのも、もちろん鋳物。平安時代の後期から1000年余りの歴史があるといわれている山形鋳物です。
山形市内を流れる川の砂が、鋳物の「型」に適していることが発見されたことから、山形の鋳物づくりが始まります。当時、鉄は貴重だったため、鉄を最大限有効活用できるよう、いかに厚みを薄くできるかの研鑽が積まれたそうです。その結果、型の精度が向上し、他産地と比較して軽量で鋳肌も美しい山形鋳物は「薄肉美麗(うすにくびれい)」と称されるようになりました。
長文堂さんは、その伝統的な技法を用いて、”一生もの”となるものづくりを志しています。鉄瓶というと懸念されるのは重さですが、長文堂さんの鉄瓶は、一品一型の精度の高い鋳型によって薄い鉄瓶に仕上がるため、重さを気にすることなく使えるのが良いところです。
スッキリした無地の鉄瓶は、現代人の生活様式とも馴染みます。使いこむほどに深い色と艶が増し、鋳肌の美しさが際立ちます。じっくりと時間をかけて育てられた道具は、テーブルの上に置くだけで、その場を豊かで穏やかにしてくれる力を持っています。
沸かしたお湯は鉄分たっぷりでまろやかな味わいになり、毎日の飲み物をより一層美味しいものにしてくれます。IHでも使うことができ、サイズは小さめの1Lから、来客時にも嬉しい1.5L以上のものも。1000年の間も引き継がれてきた鉄瓶は、現代の私たちの生活にも寄り添い続けてくれます。
ーものがたり
長文堂さんは、初代 長六さんの「長」と二代目 文雄さんの「文」の一文字ずつを取って名付けられ、1952年に創業しました。「長く愛される鉄瓶づくり」を目指す長文堂さんですが、初代からの意志は現在、三代目の長谷川光昭さんに受け継がれ、日々技に磨きをかけられています。
光昭さんは「長い歴史の中で培われた技術を受け継ぎ、開業して約70年。創業当時から鉄瓶づくりに一番こだわりを持ってきた」と語られます。
家業とての鉄瓶づくりを継ぐことになり、日々製作していく度に「長文堂の鉄瓶」の魅力に気づき、後世にも残していきたいと思いました。
例えば伝統的な技法の一つ、漆着色仕上げですが、この技法により使いこむほどに深い色と艶が増し、愛着のわく「自分の鉄瓶」に育てることを楽しめます。
光昭さんは「職人としての国家資格」と呼ばれる、伝統工芸士の資格もお持ちです。その高い技術力で、一生ものとなる鉄瓶を丁寧に作り、初代が考案した形を守りながら、後世に継ぎ続けています。
ー想い
鉄瓶は、お湯を沸かすだけの道具ではなく、使い手と共に時を重ねることができる道具です。昔は家族代々、その世代の思い出と共に受け継いで愛用されてきました。
その時間の経過が道具への愛着を育み、日々の生活に豊かさをもたらします。昔より使われてきた道具だからこそ持ち得る魅力が鉄瓶にはあります。この鉄瓶の魅力を、代々受け継がれてきた技法を用いて、丁寧に作ることを心がけています。
ものが溢れる現代では、古くなったら買い換えるという考えに慣れてしまいがちです。子どもにまで受け継ぎたい、と感じられるものを手にした経験をどれだけの方がしたことあるでしょうか。
長文堂さんの鉄瓶は、そんな私たちの、ものへのマインドを変えるきっかけを与えてくれる気がします。「おばあちゃんが使っていたものなのよ」なんて言いながら代々使い続け、丁寧に丁寧に家族のストーリーを鉄瓶に上書きできたら、それはとても素敵なことですね。