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救済法案の与野党協議がスタックしている今こそ、知恵を絞ろう!

救済法案について与野党協議がスタック状態。自民党・公明党からは期限を切らない先送り案が出ています。なぜスタックしているのか、どうすれば溝を埋めて救済できるのか、進め方に知恵はないのか。私なりに考えました。

Q:消費者契約法だけ今国会で先につくることはできるの?

A:本来は、消費者契約法と献金規制法とはセットで検討されるべきでしょう。そもそも、「壺から献金へ」という規制逃れの傾向をもとに、「契約」であれ「献金」であれ救済できる法律をつくるというのが最初の問題意識でした。そうであれば、契約形式を救済する消費者契約法も、献金形式を救済する献金規制法も、救済範囲を基本的に一致させるような両輪での議論が必要なはずです。
 今国会で消費者契約法だけ先につくることは可能ではあります。ただ、後からつくられた献金規制法と比較したとき、結局契約だと救済できるけれど献金だと救済できないというような溝がまた出来てしまう懸念があります。あわせて、結局蓋を開けてみたら献金規制法はやらずじまいというリスクもあるかもしれません。

Q:だとすると、両法案とも今国会断念でも仕方ないのでしょうか・・・

A:未解決の複数の論点が残っていて、とりわけ家族による救済の論点など財産権(憲法29条)に関わる憲法上の論点でもあります。違憲の疑いを残す法案をつくると、対象団体から違憲訴訟が起こされて救済が遅れるなど「使えない法律」になってしまうかもしれません。ここからは私の意見になりますが、法案作成の努力をぎりぎりまで継続しつつ、今国会が無理であれば、「来年の通常国会の再優先法案として両方とも成立させる」という期限を切るべきです。むしろ期限を切らない先送り提案は「やらない宣言」と受け取られても仕方ないのではないでしょうか。

Q:とすると公明党が「憲法の議論も必要」と言っているのは正しいのでしょうか?創価学会が支援する政党でもあり、宗教規制の先延ばし策にも見えてしまいます。

A:公明党のホームページを見てみました。「公明党は、1964年11月17日に、池田大作創価学会会長(当時)の発意によって結成された政党」であり、「創価学会と公明党との関係は、あくまでも支持団体と支持を受ける政党という関係であり」、「公明党は国民全体に奉仕する国民政党です」(公明党HP「公明党の素朴な疑問」より)と書いてありました。たしかに、「憲法の議論も必要」であることは確かです。他方で、議論の必要性を訴える以上、迅速にその議論をスタートし憲法上の論点を解消する提案をすべきでしょう。
特定の宗教団体から強い支援を受ける公明党と、その政党との選挙協力なしに議席を維持できない自民党。この2党が政権与党を構成する日本の政治体制で、適切な宗教規制は可能なのか、政策形成が歪むことはないのか、国民の求めに応じる立法措置ができるのか。公明党は真に国民政党なのか。今、ここが問われていると思います。

Q:マインドコントロールの定義づけは可能なのでしょうか?

A:両法案とも、マインドコントロール規制こそが本丸なので、この定義は難しいけれど避けて通れません。その際、マインドコントロールされているかどうかという信者の心理状態ではなく、マインドコントロール状態の作出・利用という団体側の行為に着目することで、定義づけは可能になると思います。
このとき、マインドコントロールの行為規制の内容について、マインドコントロール状態を作出する行為だけでなく、既に作出されたマインドコントロール状態を利用する行為も規制することがポイントです。正体隠しの伝道や因縁トークによる不安や恐怖の植えつけ行為(作出行為)と、それによって自由な意思決定ができない状態になっていることにつけこむ行為(利用行為)は、別の人により別の時期になされることも多く、どちらの行為も不当な献金要求というべきで、だからこそどちらの場合も救済することが必要不可欠だからです。

Q:収入の4分の1というような献金の上限規制は分かりやすいと思うけど?

A:収入全体に対する割合で規制する方法については、宗教法人による信者の収入把握の正当化根拠として利用される懸念が払拭できません。また、そうした収入把握は適切でないと考える宗教法人にも、事実上把握を迫ることにもなりかねません。数値規制は魅力的ですが、それによって被害のリスクを増やすのは本末転倒。やはり献金要求行為に着目した規制にすべきではないでしょうか。

Q:不当な献金要求を返金させるだけではなく、刑事罰とした方がより抑止できるのでは?

A:たしかに、刑事罰とした方が抑止効果は期待できるかもしれません。ただ、「返金させる」「損害賠償させる」という民事的な効果をもたらす法律であれば許される抽象性も、「犯罪として処罰する」という刑事的な効果をもたらす法律については「明確性の原則」に抵触し許されない可能性があります。つまり、「マインドコントロール状態を作出したり利用する行為」という要件は、民事的な効果をもたらす場面設定としては許されても、刑事的な効果をもたらす場面設定としては解釈の範囲が広すぎて、「事前に何が犯罪となるかは法律で明確に書かれていなければならない」という大原則に反するリスクがあると考えられます。仮に処罰の前に是正命令を置いたとしても同様のリスクがあると思います。

Q:本人ではなく家族による返金を可能にすることは大事、ですよね?

A:大事、です。奨学金やバイト代の搾取、借金・破産してまでの高額献金など、多くの被害事例は何らか家族に対する損害が生じており、ここを救済することが大事です。そうした不当献金による家族の損害について、損害賠償請求の特則をつくり、できるかぎり請求が認められやすくなるような法改正が考えられます。たとえば、法人側の故意・過失を推定したり、献金額を損害額と推定するというような特則を設けて、立証責任を被害者から法人側に転換し、家族の救済を現実的に可能にするのは一案です。
この点、家族がいつでも取り消せるというような取消権まで認めると、家族になんら損害がない場合ですら家族による取消返金を認めることとなり、財産に対する自己決定権の観点から憲法上の問題も生じうるので、慎重に考えた方がよいと思います。過去の民法改正のとき、「浪費者」を準禁治産者として財産権を制限する法律を変更し、財産に対する自己決定権を強化したこととも矛盾します。お金の使い方に対して、何が有益で何が無駄かと考えるかは本来は個人の自由。ただし家族に損害を与えるのはその範疇を超えるので、救済を可能にする、という方向性がよいように私は思います。

Q:献金規制法案はカルト規制法と考えてよいの?

A:献金規制法案については、本来はまず宗教法人を対象に宗教法人法を改正するのが筋だと私自身は考えています。公益法人はすでに法規制済みである一方、公益法人なのに規制対象外だった宗教法人こそが今回の問題の中核で、立法事実そのものだからです。寄附文化一般に水をささないためにも、税優遇を受けず特段の社会的問題がない団体にまで同様の網をかけるのは慎重にすべきではないでしょうか。そう考えると、まずは税優遇を受けているのに規制がないまま今問題が起きている宗教法人にこそ、宗教法人法の改正で適切な規制をかけるべきだと思います。また、もちろん、「カルト」は宗教に限らないわけですし、カルト自体の一般規制も重要な検討事項です。ただし、この問題については、幅広い本格的な年単位の検討が必須であり、こちらは時間軸を分けて考えないと、今必要な規制がいつまでも先送りになりかねません。

とりいそぎ、ここ数日様々な方から頂いている疑問に対して、私なりにまとめてみました。
明日からの議論に少しでも役に立ち、効果的な法律ができますように。


弁護士・一般社団法人国際人道プラットフォーム代表
菅野 志桜里

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