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【緊急投稿】誰が何を質問するの?素朴な疑問に答えます

さきほど霊感商法等検討会として提言書を公開し、旧統一教会に対する解散命令請求を視野に入れた質問権等の行使を含む5項目を提起しました。間髪いれずに、岸田総理が文科大臣にこの質問権等行使の実施を指示したようです。物事が動く日というのが時にありますが、今日はそういう1日になりそうです。

 今日、これからの予算委員会や報道などで具体的な議論に入っていくと思うので、基本的な知識を整理させてください。いつものように、私の意見も入っていますが、できるだけ事実と評価を分けています。率直に言って、これまでこの質問権が使われたことはないので、確定的なことを言うのが難しい状況ではあるのですが、でも確定的なことは言えないはずなのに「解散命令請求はできない」というように言い切るような言説があることは社会にとって悪影響です。一定の共通知識のもとで議論した方が、早くよい結論がでます。それは今も苦しんでいる宗教2世など子どもたちの救済にも直結します。なので、できるだけ現時点で伝えられることをお伝えします!急ぎ文章にしているので、もし後で間違いなどがあれば訂正することをご理解ください。

Q:そもそも、質問権という言葉と調査権という言葉が両方出てくるんだけど、正確にはどっち?

A:正確には「質問をしたり、報告を求める権限」のことです。宗教法人法78条の2の頭書きには(報告及び質問)とあります。この質問権と報告徴収権をあわせて「調査権」と事実上呼ぶことがあります。

Q:立ち入り権という言葉も出てきますが、これは別の話?

A:質問と報告に並んで、同じ条文に「立ち入り」という規定があります。前者は宗教法人の同意がなくてもできますが、後者の「立ち入り」は法人側の同意が必要です。

Q:相手の同意がいるならほとんど立ち入りできないし、できないなら結局内部資料の入手などもできないのでは?

A:そもそも「立ち入り」は、質問するためにその法人の施設に行くというものであって、施設内部の資料を強制的に入手できるわけではありません。この「立ち入り」と、刑事ドラマでみるような「がさ入れ」は全く別物。逆にいうと、施設の中に入れるかどうかが調査の核心というわけではないんです。
結局調査の核心は、事前の❶資料集約・❷事実分析・❸法的整理にあります。これを万全にした上で、質問したり報告を求めることで相手の反論や弁解を聞き、疑いが固まれば解散命令請求する、疑いが晴れれば解散命令請求しない。こういう流れをイメージできると思います。

Q:その質問権は一体誰が行使するの?

A:所轄庁である文化庁宗務課が行使することになります。ただ、この宗務課は人員8名、年間予算4700万円程度の小さな組織。一度も質問権等を行使したことがないし、むしろ質問権や調査命令請求についてずっと否定的な見解をとってきた組織でもあります。一方、文化庁宗務課の手元には、宗教法人の財産目録や収支計算書などの会計書類があるはずです(宗教法人法25条2項・4項)。これまで情報公開請求がかかってもほとんど不開示にして手元に抱え込んできた会計書類。これまで明らかになってきたさまざまな違法行為の背景資料として、自ら分析し問題点を明らかにすることが求められます。
調査権行使に踏み切る本気度を測るには、この組織の人員体制強化の具体策にも要注目です(ただし、犯罪捜査になってはいけないので、現職の警察・検察を投入することはNG)。

Q:質問するにあたっては宗教法人審議会に諮問する、という記事をみました。宗教法人審議会って何?

A:文部科学大臣が任命する10名~20名の組織で、宗教団体関係者や法律家などが委員になっています。この質問権等を行使するには、事前にこの審議会に諮って意見を求めるという手続きが必要です。諮る内容としては、「どの法令に基づいて」「どんな疑いで解散命令請求を検討しているのか」「その確認のために質問の必要性があるか」「その質問内容が宗教の自由や政教分離に反していないか」こういう点について意見を聞くことになるのではないかと思います。
そもそもこの質問権は、平成7年宗教法人法改正のとき、この宗教法人審議会が提案して導入されたもの。このときの報告書を意訳すると「文化庁宗務課は解散命令請求の権限を適切に行使すべきなのにできていない。その理由のひとつは、問題のある宗教法人について『一定の事実を確認するための』法的手段がないからである。何のためにどんなことを聞くのかという質問の理由や内容については、信仰への干渉になってないかなど事前に審議会が把握し意見する。そうすれば、政教分離に反することもないので、この際質問権等を導入すべき」こう報告しています。
 今回、はじめて質問権が使われるにあたり、この宗教法人審議会の意見にも注目です。

Q:実際、旧統一教会に対してはどんな質問が想定されるの?

A:なんのために質問するかというと、旧統一教会が「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」あるいは「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をした」という解散命令の要件にあてはまる疑いがあるので、その事実を確認するために質問する、ということになります。
 つまりポイントは、①行為の違法性・反社会性・反道徳性と②組織性ということになります。
 すでに現時点で、この①と②を認める裁判例が相当積み上がり(民事でいえば法人の違法行為を認める28例など)、裁判内外で脱会者や宗教二世の深刻な証言が多数あり、正体隠しの伝道教化や献金要求のマニュアルなど悪質性・組織性を立証する内部資料の流出も多々あり、そして文化庁宗務課には会計書類もあるはずです。
 既に必要な資料は大方そろっている、と言ってもいいかもしれません。さきほど書いた質問権行使前に求められる3つのアクション(❶資料集約・❷事実分析・❸法的整理)でいえば、❶まさに存在している資料を、弁護団やジャーナリストなど関係者の助力を得て一か所に集約することはすぐできます。
 この資料をもとに、❷事実を分析して違法な行為が組織的に行われてきたことを明らかにし、❸法律要件にあてはめて整理する(実際は弁護団の努力でこの作業自体も大方すでに行われ公開されていますが)。その3つのアクションを固めた上で、具体的なファクトに基づき質問権を行使する。内容としては、たとえば①違法・反社会的・反道徳的な行為、あるいは宗教団体とは思えない目的逸脱行為が行われてきた疑いがあることについての法人側の認識②そうした行為がたまたま信者個人により行われてきただけでなく法人として組織的に行われてきた疑いがあることについての法人側の認識などを確認するということがイメージできます。
 質問や報告の求めを拒否したり、嘘をついたりした場合は10万円の過料。これまでの経緯をみても、真摯な答えは期待しがたいです。そもそも、解散命令のために質問権が使われる場面で、相手方法人が正直に答えると期待するべきでもありません。
 だからこそ質問権のポイントは、「疑いを裏付ける新しい資料や証言が出てくるか」ではなく「疑いを払拭できるような説明がされるかされないか」という点だと思います。つまり、犯罪捜査ではないので強制力はない一方、犯罪捜査でないからこそ厳格な意味での推定無罪は働かないのです。

まだ伝えたいことはたくさんありますが、昨日から多数頂いてきた基本的な質問にまずは急いでお答えしました。
 旧統一教会について、政治がなすべきことをせずに放置してきた数十年、当事者や弁護団やジャーナリストの方々がすさまじい努力で調査をし尽くしてきました。あとは、それをまとめ上げるだけ。
万全かつ迅速な調査を解散命令請求につなげたとき、はじめて岸田政権は旧統一教会問題に区切りをつけることができるはずです。

弁護士・一般社団法人国際人道プラットフォーム代表
菅野志桜里

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