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田亀源五郎さんが好きという話



前置き


 自分自身がゲイでなくても、そもそも女性であってもとりあえず
細かいことは知らないけれど、名前は聞いたことがある
 という認知度日本代表の方ではないかなあと個人的に思う人。
 
 ゲイ・エロティック・アーティスト。
 田亀源五郎さん。

 この言い方はあまり好きではないのですが、敢えて用いるなら『時代が追いついて』、氏の一般誌の作品『弟の夫』がアイズナー賞のアジア部門で最優秀賞を獲ったし、佐藤隆太さん、把瑠都さん主演で映像化もされました。

 私は原作が漫画であれば漫画を読むし、小説であれば小説を読みます。
 映像化されたものは滅多に観ません。ですから『弟の夫』もドラマは観ておらず、原作の漫画だけを読みました。
 それで十分だと思いますし、原作を読んだ方が、多分こういった系統のお話については最適解なように思います。細かいニュアンスや様々な価値観、セリフの雰囲気やシーン、書き手の気持ちは書いた本人しかわかりません。映像化が行われるにあたって多数の人が配慮に配慮を重ねながら作り上げているとは思いますが、だからこそ、一回原作を読んだ方がいい。
 それで、ちゃんと自分の中で解釈しておいた方がいい。
 そう思います。
 なので以下に原作のリンクを貼っておきますね。それ、ぺたり🐹🌟

 

 さて今回なぜ田亀源五郎さんのお名前を出して記事にしているか。
 別段、ゲイセクシャルやホモフォビアやLGBTQ云々かんぬんの難しい話をしたいわけではありません。
 本題は、氏の『R18作品』の方。
 でもちょっとだけ前置きが必要ですから、本題まで少々お付き合いください。


私の立場


 ご本人が公にされている通り、田亀源五郎さんは『ゲイの人』です。
 男性を好きになる男性。
 現在は60歳くらいになるかと存じますが、非常に頭の良い人だという印象が強くあります。言葉遣い、話し方、書き方、どこをとっても品がある『おじさん』で、こう言ってはなんですが『みるからにゲイの人』。すなわち、自分自身をきちんとブランディングされていて、格好もいいし品もいい。

 なによりもこの人、お顔が優しいんです。
 どのメディアの写真を見ても、お顔が優しいので個人的に安心します。

 私の今回の人生は女性のため、残念ながら田亀さんが公にしている性的嗜好からは全く対象外になってしまうけれど、私の方は、たとえば同じ会社に勤めていたらきっと好きになっちゃって、自然と目で追いかけたり、エレベーターで一緒にならないかな、とかそういう期待をしてしまうだろうな、と思います。
 そういう優しいお顔に見えます。

 それから、こういった種類の話題を取り扱う以上、自分の立場も明らかにしなくてはフェアでありません。
 私について記載するとこんな感じ。

ミズノさんはどっからどうみても『分かりやすく女性』です

 肝心な部分をざっくりまとめますと
『同性愛者? へーそうなんだいいんじゃないの愛はそれぞれだし。でも不妊治療とか養子とかは男女の組み合わせの人たちが先だと思うよ』
 です。

 誤解のないように追記致しますと、既に養子を迎えられている同性カップルとその養子について、批判や攻撃の意図は全くありません。個人的には否定的な『意見を持っている』けれど、でも、実際にそういう事情ならそれならそれでいいんじゃないの、くらいの距離感。
 近所にその家族が住んでいても、別にどうとも思わない。

 子どもが関わってくる時に最も重要なことは、その子自身が健やかで食事にも教育にも生育にも不自由しないことであって、養育者の性別は、できれば両性いたほうがよい(雌雄の別があり有性生殖を前提とする生物であるため)とは思いますが、正直なところ後回しです。引き取ったんなら性については特に偏見なく差別なく教育できるということでしょうから、そこさえ外さなければ、いいと思います。

 ちょっと脱線いたしました。この辺りのことはデリケートですから、もし何か細かく書くとしても、別記事で、よくよく考えながら書きます。


別世界への入り口


 さあ続きです。
 私についての前述の情報を踏まえた上で、こちらの表をご覧ください。

無愛想な表ですね

 こちらの表は、セックスについて『私の性別に関係あるかないか』を表した表です。前述の通り私は女性ですから、このパターンの中では『男性 × 男性』が無関係ということになります。
 心の性別まで含めてしまうと扱いきれないため、遺伝学上の男女で分けました。

 男性と女性の場合は最も関係があります。
 私は夫と結婚していて、お互いに性欲もあり、スキンシップも必要で、その延長でセックスもいたしますから、無関係ということにはできません。
 女性と男性、この記事内のこの順序では女性上位のセックスとなりますが、私の性的嗜好とは関係ありません。ですが私が女性の体である以上、無関係ではない。
 女性と女性は、まあ関係ないといえばないのですが、体は女性なので無関係ではないという意味で( + )。

 無関係、とは何か。
 あっさり申し上げると『想像できない』のです。

 身体構造が異なる男性同士のやりとりは私にとって全く別の世界の話であって、感情移入もできなければ身体感覚の想像もできない。

 いつだか他の記事にも書きましたが、私はBL(ボーイズラブ、ボーイズとはいうけど多分年齢は関係なく男性同士のお話)に興味はありません。
 友だちが貸してくれたら読むし否定もしないし、面白いとも思うけど、自分からお金を出して書籍を購入したりはしないよ、という意味の興味がない。

 なぜか。

 どうも、絵柄や心理描写をうまく受け入れられないようです。
 作品がダメだとか絵がダメだとか、そういうことを言っているのではなくて、『これ、男性同士なのか……?』と一回脳の方が受け入れ停止をしてしまう。
 受け入れてくれよ。一気に行けよ。

 しかし一気に行っても、どうしても受け側の男性が女性に見えてしまうのです。
 セックスのシーンにおいても『男女がアナルセックスをしている』と捉えてします。うわあえっちだなあ、とは思うのですが、やっぱり脳が『これは男女のアナルセックスですね!☺️✏️📑』と処理しようとする。

 違うんだって。
 よく見ろって。
 ついてるじゃないか、モノが、どっちにも。

 よく見たところでやっぱりうまく処理できず、私には一体何が足りないんだろうと考え込んでしまう。
 
 骨格が華奢?
 お顔の感じが女性的?
 体毛が無い?
 筋肉がない?
 腕が弱々しい?
 首が細い?
 綺麗なところだけ見せてくれている?

 諸々悩んでいると安田モデルくんが気を利かせて『じゃあ田亀源五郎作品なんかどうなのアンタ。ヒゲクマ調教師大丈夫だったじゃないの』と教えてくれたのが、


『奴隷調教合宿』


 お前はバカか。


一回どついた


女性が関わらない世界


 タイトル初手ハードモードでしたが、勧められた本は読む主義です。
 残念ながら安田モデル氏は紙媒体を持っていなかったため電子書籍で購入いたしました。紙の本が大好きなのですが、こういうとき電子書籍は便利でいいですね。

 2017年に出た長・短編。
 件の『奴隷調教合宿』がメインで、後半の短編が『金曜の夜は四つん這いで』。
 なんとなくこのタイトルだけで『ああ、言葉の使い方がとても上手な人なんだな』と直感したこともあってその日のうちに読み始めました。

 圧倒とはこのこと。

 とにかく上手い。
 誰にも真似ができない種類の『絵が上手い』で、まずその時点で引き込まれる。それでいて『物語が上手い』。非常にシネマティック、描き慣れています。起承転結が完璧で、設定に破綻もなく、相当慣れていなくてはこうは運べません。
 経験値の桁が違う。

 それから『男性を男性が』描いている。

 先にリンクを貼った『弟の夫』で田亀氏の絵柄の雰囲気は十分唯一無二であることは伝わるかと思うのですが、あちらは一般誌向け。

 最初からアクセル全開でR18のこちらはもうとにかく、SM、ハードコア、暴力のオンパレードですから男の裸という裸、性器という性器、肛門という肛門、それから『排泄物の描写』がバリバリに行われています。

 知らなくては描けない、当事者ならではの描写が多いように思いました。
 もちろんR18の漫画ですから性的商品であって、ゲイ男性から見たら『いやいや、あんなんじゃないから』と思うシーンもあるかもしれませんが、女性の体で生きている私からすると、とんでもない衝撃だったのです。 

 今まで自分が借りて読んでいた漫画にはない描写が多かった。
 女性が女性向けに描いたBL漫画のように耽美な雰囲気、綺麗な肌、すっきりした顔立ち、なんてことはないのです。

 特に男性の腕から指先にかけての描き方が正確で、皮膚の下の骨の太さや頑丈さまでが良くわかる。体温が伝わってくる。
 がっちりした体格の男性の近くにいると、あったかいですね。
 その『あったかい』が絵から伝わってくる。

 先に田亀源五郎氏のお写真について触れました。
 身長は分かりませんが、彼は骨格に優れて筋肉質です。ムキムキのバキバキとは言い難いのですが、腕は太く、みっちりしていました。女性の骨格や筋肉ではありません。男性の体です。

 田亀氏にとっては自分の体のことだから、感覚を伴って描くことができる。
 私の性別とは異なる体だから、私には感覚を想像できない。
 だからどんなハードな内容でも読むことができた。
 女性が女性に向けて描くBL漫画はどこかで『女性』を感じてしまって、辛い気持ちになることがあるけれど、田亀源五郎さんの作品なら大丈夫。


『だって、私、ゲイの男じゃないし。』



地雷


 女性が出てくる性的商品について、私は購入もするし閲覧もしますが、いわゆる『地雷』は持っています。
 妊娠の強要を含む強姦、いわゆる『孕め』系の表現が完全にアウトです。
 罪のない女性がなぜそんな目に? なぜ暴力を振るわれた挙句妊娠の心配までしなくてはならないんだ? と思ってしまう内容は片っ端からダメ。

 なぜか。
 他人事ではないからです。
 私は子どもを産めませんが、男性から性暴力を振るわれる恐怖を想像すると怖くてたまらない。勝てるわけがないからです。私の体格は全く華奢ではありませんが、そういう問題ではない。いつ『自分ごと』になるか分からない。だから憤りも感じるし恐怖も感じるし、性器や乳房に苛烈な暴力を振るう描写を見てしまうと、自分の体を想像してしまって気分が悪くなる。

 でも嗜好として持つ人もいます。
 あくまでもフィクション、ストーリーに必要であったり、その描写が目的であるなら容赦無く描かれるべきだし、私が自分の意思で『読む』と決めて読んでいる場合は大丈夫。むしろそういう時は読みたくて読んでいる。
 そもそも私のために世界があるわけではないしと思って避けて検索をかけるなどもしております。大人だし。

 暴力的な内容が好きな人は、好きでよいのです。
 何度も言いますが、それはそれ、これはこれ。
 私だってスパンキングという痛みを伴う性的嗜好をもっているし、『マゾかよ気持ち悪』と思われることだってあります。マゾじゃねえよすっこんでろ。

 それはそれとして、男性と男性なら、強姦や性病はありますが妊娠はない。
 個体差は考慮しないとして、女性と男性のような極端な腕力さもない。
 但書きをする必要もないと思いますが、大前提として強姦は性別を問わず一切ダメだし、男だからいいだろ、という意見を主張しているわけでもありません


田亀作品は私の『凶相男性』参考書


 『奴隷調教合宿』は主人公の拉致から始まり、3人のガチムチ男が好き放題主人公の人権と尊厳を踏みにじって性的凌辱とハードSMプレイの限りを尽くし人生を狂わせる、というどうしようもない内容です。
 たとえばこのお話の主人公が女性であれば、私は主義を曲げたとしても絶対に読まないし、安田モデル氏もどう間違えても勧めてきません。

 でも男性しか出てこないから読める。
 自分の体にない器官を責められているシーンを読んでも、自分にない器官の痛みは分からない。
 純粋に『暴力表現』を抽出して楽しむ(というのも妙ですが)ことができる。

 さらに言えば、男性が描いた男性の全裸をじっくり観察できる。
 私にとって一番の『うまみ』はここ。
 自分の絵柄に全く欠けているものが田亀源五郎さんの漫画には全部ある。

 なるほど、ここに筋肉がつくのか、とか。
 ふーん、男の人の脇の下ってこんな感じか、とか。
 ここに毛が生えるのか、すごいな、とか。
 肩をこれくらい分厚く描くなら、首はこれくらい太くなるのか、そうなると頭の骨はこんな感じになって、そうなると中心に来る鼻の大きさはこうなって、目つきはこうなるんだね、とか。
 拳を握り込んだときの筋の浮かび方はこうか、とか。

 実際の、いわゆるガタイのいい男性の骨格を直接知りたいのであれば夫がいますから、体温や骨の重さの感じなどはいくらでもサンプルとして集められます。そっちは小説を書く場合に大変役に立つ。
 男の人の背中の広さや、男の人のいい匂い、それらの頼もしい感じを知っている女性に読んでもらった時に『ふふふ、そうそう、あったかいんだよね』と思ってもらえるための表現の材料としてはぴったり。

 しかし私が欲しいのは『漫画として描かれたゴツゴツの男性』の情報。

 どこをどう描けば、ゴツゴツの男性だと人間の目は判断するのか。
 そこが知りたい。
 教えて田亀源五郎先生、状態で頼っている。


◇ ◆ ◇


 自分の小説の中によく体格の良い男性を登場させます。
 葵ちゃんの鳴川嶺二さん、ロミ子の吉岡健一くん。
 この二人はガタイがいい。嶺二さんの方はちょっと周りの人たちが困っちゃうくらい端正な容貌でお顔立ちもお洒落な男前ですから、海外の俳優さんの名前を出したりできますが、吉岡くんは『タッパがあってガタイがよくて目つきがキツくて人相が悪い』という設定ですから、なかなかうまく表現できません。
 
 新日本プロレスの悪役レスラー、とすれば分かりやすいかと思っておりましたが、それもなあ。

 と、困っていたところに思いついたのが、田亀源五郎作品の『攻め手』の男性たち。揃って凶相でムキムキのバキバキのサディストたちで、でも、仲間内で談笑しているときの表情は『あら』と思うくらい優しい。ちょっと『ときめく』くらい。

 これだ。

 吉岡くんは、この人たちを例にとればかなり近い。
 怖い見た目の男の人が、いつでも常に中身まで怖いわけではないことを表現する手腕において、田亀氏よりうまい人はおそらくいない。

 自分の体の感覚を根拠にして体格の良い男性を描く男性で、人柄の良さがどの写真にも表れてしまう人。
 どんな強烈な性癖を持っていても人間の優しいところは手を抜かずに描ける人。
 そんな異性の作品を、参考書にしない手はありません。

 短編の『金曜の夜は四つん這いで』も良かった。私はどんどんのめり込んで田亀作品を読みついには『禁断』にも手を出して『闘技場【アリーナ】』を繰り返し読みました。暴力や凌辱表現を取り入れたい場合は、『禁断』に収録されているお話を全部読んでおいた方がいいと思うくらいのダイレクトに効く濃さです。

 私には書けない、知らない内容がてんこ盛り。
 幅が広がったことがよく分かりました。

 さらに自分の中ではっきりと顔貌が見えてこなかった男性たちが、突然明確な輪郭をもって頭の中に現れてくれるようにもなった。
 特に吉岡くんと『蜻蛉の首』の辰真さんは、田亀源五郎タッチで。


女性の目で田亀作品を読むことができる


 私がもし男性に生まれていて、女性を好きになるとしたら、田亀源五郎さんのことをどう思っただろう?
 気持ち悪い、と思うのかもしれません。

 それはおそらく自分の体が拒否する感覚があるからでしょう。生殖の相手として『目で』見られない場合、男性は受け入れられないとよく聞きます。本当かどうかは分かりませんが、どうなのでしょう。

 夫に『田亀源五郎さんってご存知ですか?』と聞いてみたところ『ホモの?』と返ってきました。

 もうそれだけで答えになっている気がしてなりません。
 作品名を出すのでもなく、受賞歴を出すのでもなく、『ホモの?』と最初に出てくる。夫は性差別者でもなく同性愛差別者でもありませんが、男性同士の絡み合いについては『俺とおっさんが絡んでいたら気持ち悪いでしょうよ』といった表現をします。

 私の実際の友人たちには文章なれコミックなれ絵画なれ、職業としている人が多いのですが、中にはBL作家もおります。
 夫は私の友人ということで、応援の意味で作品を読んでいたようですが、やはりセックス・シーンはキツかったようで、そこは『無理だった』とのこと。

 BL漫画をエッチなシーン目的で男性が読むことは少ないでしょう。
 女性が『ファンタジーとして』楽しんでいる作品であることがほとんどですし、それで良いと思います。男女の精神構造は根本から異なります。

 私がもし男性に生まれていたら、田亀源五郎氏の作品は読まなかったでしょう。せいぜい『弟の夫』を異性の友人か妻から勧められて観るくらいだったかも。それで氏については『ホモの?』という捉え方をするでしょう。

 そう考えると、私は今回の人生、女性に生まれてラッキーでした。
 先の表で示しました通り、(+)と(ー)こそあれ、作品を読めないわけではありません。現状、全種類いける。
 おいしいところをいただきなわけです。

 私は自分の創作作品をどこかに出して名を馳せて……とは思いません(気にしい病がひどすぎて向いてない)から、自分の趣味を突き詰める材料として、これからも田亀源五郎作品を怯まず読んでいきたい。
 なにせ、このボディにはちんちんがありませんから、勃起した性器をいたぶるSM表現があっても『ヒュン』とならずにすむ。これは結構な強みでは?


 女性に生まれて唯一残念だとするなら、氏と結ばれる可能性が全く潰えてしまったことでしょう。
 
 すこぶる残念ではありますが、でも、女性に生まれたからこそ、今回の人生ではまさしく田亀源五郎作品に出てきそうなゴツゴツの『私の夫』が、私が生まれるまで気長に待って、お嫁さんにしてくれたわけだし、人間わかりませんね。

 田亀源五郎さんのことも好き、夫のことも好き。
 うーん、我ながら欲張りミズノさんですが、好きな人の共通項ははっきりしている感じがします。これはこれで、まあいっか。

 でも、来世はせっかくですから、男性がいいですね。
 ちんちんをぶつけたときの痛みがどの程度なのか、男性として同性を好きになるとはどういう気持ちなのか、こればっかりは、生まれ直さなくては分かりません。






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