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73.価値がないもの



 絶対に『あいつ』より自分の方が上手い。

 自分の方が上手いし、作品に時間をかけているし、なにより真摯に向き合っている。
 ひたむきに努力して勉強して、頭を使って、有名作品を見て読んで聴いて勉強もしている。

 それなのに、フォロワーは増えない。
 フォローした分が返ってくるだけ。
 『いいね』はつくが、追ってみれば、誰にでも『いいね』を押して回るような中身のないアカウント、あるいは宗教アカウント。それか、妙ちきりんな恋愛アカウントがほとんどで、同好の士からのアクションはほとんどない。
 時々、同じように創作活動をしているアカウントから『いいね』が飛んでくることがある。まあまあの作品を作っているなと思ってフォローすれば、フォローバックされる。少なくとも前者のビジネスアカウントよりは遥かに価値があるが、正直、もっと『強い』アカウントからの反応が欲しい。少なくともフォロワーが3、4桁いるだとか、且つフォロー数が極端に少ないアカウントだとか、そういう層からの『いいね』が欲しい。出来れば『いいね』だけではなく、拡散もされたい。『あのアカウントが勧めるなら』というきっかけに繋げたい。

 贅沢は言わない。
 自分の作品に対する、『いいね』以外が欲しい。
 長い感想が欲しい。
 自分の努力に相応しい、具体的な、上限いっぱいの感想が欲しい。
 満たされるべき水が枯渇しかけて焦る心、底が見えつつある。なぜ認められないと苦しみ足掻く音ばかりが空っぽの一斗缶を打ち鳴らすように響いて、重なり合って、心を内側から砕こうとのしかかってくる。

 価値を知りたい。
 自分の作品の、自分の価値を教えて欲しい。
 一言書くだけでもいいじゃないか。
 どうして教えてくれない。
 知っているはずだ。
 思ったはずだ。
 何も響かなかったなんてことはないだろう。
 だってこんなに真面目に作った作品なのに。

 『あいつ』より、自分の方が絶対に上手いのに。
 基礎もきちんとしているし、読みやすいはずなのに。見やすいはずなのに。聴きやすいはずなのに。
 どうして、なにもかもいい加減なあいつの作品の方が賑わうのだろう。
 『いいね』の数は自分の方が多いこともある。
 それなのに、賑わいがない。
 
 心がからから・・・・することに耐えかねて、ついに『あいつ』の作品を批評してやった。飛び抜けていいところもあるが、そもそも基本的なことができていないのではないか、と指摘して、一緒に切磋琢磨していこうと声をかけてやった。
 密度の高い感想、短くとも親しげな声掛け、軽い冗談のやり取りで賑わっていたコメント欄の中で、自分のそれは一番真面目で真剣だから、きっと見る。それで、一目置くはず。よりよい作品になるよう、同好の士として気を遣った、これは価値のある批評だから。

 返信があった。
 飛びついて読んだ。
 極めて簡単に『ご自身の作品に活かしてください。』とあった。

 


73.価値がないもの




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