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Fused Glass あとがき
Fused Glass 全13話にて完結いたしました。
個人的にそこまであとがきに書くことはないかなと思っていたのですが、結局最後まで振り落とせなかった方々がいらっしゃるため、敗北宣言として後書きを書くことにいたしました。悔しいです。
1話掲載時から読んでくださった方、途中から参戦して私の度肝を抜いてくださった方、お読みいただき、ありがとうございます。
とはいうものの、『Fused Glass』は『わだつみの沈黙』や『橘あおいの愛について』と比べるとかなりローカロリーに書き、すなわち私の中でぐるぐるどろどろしている部分がそんなにない、ということでもあります。
それなので、ちょっと自分の中で思っていること、いままでとは違うことを試した部分、やってみたかったことについて少し書きたいと思います。
最後にテーマ曲を紹介しております。
目次もつけてみましたので、よければテーマ曲だけでもお聞きください。
とてもいい曲です。
思っていること
『わだつみ』や『橘』のように、何か自分の中で重たく轟いているテーマを持たせて書いたお話ではないのですが、常々思っていることを織り込んだつもりでおります。
すなわち『普通』についてなのですが、価値観でもあります。
作中で正己は恵まれた(というより本当は全家庭がこうあって欲しい)家庭に生まれ、距離感の取り方が上手い両親と兄と健やかに家族関係を保ち、また金銭的な不自由を一度も経験せず立派な大学を出て、大手に就職し、人生的にはかなり順調に過ごしていた男性です。
性癖で悩む部分はありましたが、多分彼は新菜ではない女性と出会っていたとしてもその内落ち着き、上手いこと折り合いをつけてしれっと生きていったかもしれません。
ただしその場合、結構『無自覚モラハラ予備軍』的部分がどう出るかといったところで、彼にとっての『普通』が相手を傷つけ、あっさり見限られて離婚されて激烈に病んでいた可能性もあります。
正己は非常に責任感が強く、また大きな失敗をしたこともありません。
そのため、誰かから思い切り嫌われたり、思い切り傷つけられた経験もありません。新菜のようなタイプと関わったこともなかったのでしょう。
そしてその『新菜のようなタイプ』の女性というのは、正己の経験値では本来扱いきることができません。だから不用意なことを言い、自分の『普通』を真正面から否定され、それですっかり折れてしまいました。
折れてもなお、良くも悪くも持ち前の責任感から『自分が悪い』の思考に陥り、なんとかして新菜に報いたい一心で生きるようになりました。良いのか悪いのかは彼と新菜が決めることですが、個人的には二人ともほどほどに元気で、いつか服薬も終わって、色々あるかもしれませんが折り合いを上手につけながら家庭を築いてくれたらいいなと思っています。
まあ新菜がしっかり者なので、大丈夫です。
新菜は新菜で、散々な家庭環境に生まれた女性ですが、芯のところは強くできていたようです。
結構気合が入って根性があるタイプで、正己と出会わなかった場合、普通に内定先に就職してバリバリやっていって、気が向いたら結婚したかもしれませんし、一生独身で楽しくやっていたかもしれません。
ただし、自分自身について大切にすることはできずに生きていったでしょうから、どこかで体を壊したり、過去の不遇に心が折れてしまったかもしれません。
彼女は正己を真正面から傷つけましたが、それは彼にとって必要な挫折のきっかけでしたから、なんだかんだ『この二人はこの二人でなくては』なのだろうと思います。
『この二人はこの二人でなくては』というフレーズは、『橘あおいの愛について』の頃から読んでくださっているあるnoter様が、春子さんと安田について贈ってくれたコメントなのですが、すごくお気に入りです。ありがとうございます。
完結後の二人について色々考えたりもしているのですが、多分新菜は加工技術をどんどん上達させていって、アーク溶接とかもするようになると思います。大きな作品にも乗り出していくんじゃないかな多分。
それで、春子さんが新菜の作品をとても気に入って、のちのち個展でコラボしたりでお付き合いが広まって行くかもしれません。多分安田と塩崎が新菜を捕まえる日が来るかもしれません。正己は気が気じゃないでしょうが、そのエピソードも個人的におもしろそうですね。
Fused Glass の中で、私がはっきり『これは書きたい』と思った部分があるとすれば、『親であることを過信している人が嫌い』と『よく考えてから喋れ』ということでしょうか。
新菜の両親はどこに出しても恥ずかしいバカなのですが、離婚するしないの責任を新菜に押し付ける理由として『片親の子は成績が下がる』という非常に失礼極まりないフレーズを出すあたり、救いようがない存在として書きました。
あの統計、本当にあるんです。
統計結果自体についての善悪はありません。数字は数字です。
事実として、片親家庭の場合、子の学業成績は下がる傾向があるのでしょう。
それは結果に過ぎませんから、それはそれでいいんです。
統計とはそういうものです。
ただ問題はここから先で、その結果を受けて『だから子どものために離婚しない』等に持っていくことがよろしくない。
両親の間でのみ、そのやりとりが行われ、子には全く黙っているというのであればまだ良いのですが、子どもに直接言うバカや、婚姻関係に悩んでいる人に言うバカがいることにぞっとした経験があります。
どういうつもりで言うんだろう?
ちょっと立ち止まって考えられやしないもんだろうか。
言ったらまずいと思うこともできないんだろうか。
私自身がむちゃくちゃな家庭環境出身ですが学校は出て、身の回りを見ても片親どころか両親もいない、親戚もカス、でも給付型の奨学金を受けて大学や大学院に行く子も大勢いて、それで、私を含めてその子たちの学業成績に親が関わっているかと言われたら関わっていませんし。
というか今回のお話は正己にも新菜にも、新菜が話す『宇宙の石を見たい子』にも、実在するモデルがおり、許可を得て書きました。個人の特定はできません。
自分が勉強したいからした。あるいは自分置かれた環境から逃げ出すために勉強をした。大学を出て就職すれば選択肢が広がると信じて頑張ってきたのに、そこに『親が……』とでしゃばってくる連中の下品さはなんなのだろう。
親が、と当然に出してくる人たちは、家庭環境が良かったのかもしれません。
正己のように親との関係性が良いのかもしれません。
だから平気で『親が』と言えるのかもしれません。
それか全く逆で、自分が家庭環境において嫌な思いをしたからこそ、家族という存在に並々ならぬ思いを抱いていて、親が、子が、母が、父が、と固定的概念を誰かに良かれと思って押し付けているのかもしれません。
事情が様々なことは言うまでもないし、そんなつもりで言ったんじゃない、とあとから気づくこともきっとあるでしょう。
だからこそ、考えて喋ることが大切なんじゃないか、と思うのです。いつも。
嫌だと思った側の、嫌だと思う気持ちより、『良かれと思って』が優先されることが最も気持ち悪い。
見せかけの善意に騙されてはいけないんです。
本当のことはなんなのか、一瞬立ち止まるだけで見えることもあるはずなのに。
どうにも、多いようです。
私はほとんど他人様のnoteを拝読することがないのですが、たまたまおすすめに出てきた親子関係や夫婦関係の記事を読んで、大体嫌になってしまう。
それはモラハラでは?とか、それは美談ではなく虐待の連鎖では、子どもをなんだと思っているんだろう、本当に自分のことしか考えられないんだな、と思う部分が多く、また片側からの意見にもかかわらず、コメント欄を覗き見てみると、同情的だったり称賛していたりの意見が多い。
記事を書いている人だけが登場人物ではないのに。
親の意見や環境だけが記事にされて、その延長にいるはずの子どもや配偶者の気持ちを慮ることもない。
勝手に『子どもさんも親を大切に思っていると思いますよ』とか『気持ちは届くと思いますよ』とか。
何かがおかしい。
それで、読むのをやめた人も結構いるんです。
私がおかしいだけの可能性も十分あるので、黙って去ることにしました。
何か書き込んだことによって、記事を書いた人が傷つくのも、私は嫌だし。
私みたいな山奥から人里に降りてきた妖怪にどうこう言われたくないだろうし。
言う義理もないし、ここは本当のことなんか何も分からないインターネットなんだから。
でも、親であることを過信しないで欲しい。
言って良いことと悪いことがあることには気付いて欲しい。
考えて考えて言った結果がそれなら、それはそれでいいし。
とかなんとかごちゃごちゃ考えながら書いた二人の話でした。
正己には相当堪えたと思いますが、私はモラハラ野郎が予備軍であれ嫌いなので、まあいいんじゃないのくらいの感覚でいます。
いままでとは違うことを試した部分
決定的に違う部分として『スーパーダーリンを出さなかった』点でしょうか。
私は『生きづらい思いをした女性には必ずハッピーエンドを用意する』教の教祖なのですが、その女性のパートナーにはかなりタフな男性を登場させました。
葵ちゃんに対してであれば嶺二、愛美には木村、ロミ子に対しては鉄人吉岡くん、春子さんには安田、シュリにはウルバノ、八恵子さんには辰真さん、といった感じで。
女性に対して男性を出す、というのはあくまでも私が異性愛者で、そういう関係性が好きだからという価値観に基づいて書いているだけですから、全然、女性に女性、男性に男性、あるいは性別の括りなしでも全然OKです。
ただ当事者として書きやすいのは年下女性と年上男性の組み合わせでした。
前述の男性たちは全員タフガイです。
外見、体力、収入、社会的立場、性格、女性に対する価値観はみんないわゆる『スーパーダーリン』になっています。
もちろん女性陣も養われるだけではなく、それぞれひとりでもやっていけるのですが、盤石の象徴として『どっしりした精神性』の男性を登場させました。ちょっとやそっとのことではまず揺らがない、個体として強い人を、嫌な思いを散々した女性の側に置くとなんだかおさまりがよかった。
その観点で行けば、正己はかなり例外に近い男性です。
普段なら、私は新菜に焦点を当ててお話を書き進めたところなのですが、今回は正己の方に焦点を当てておりました。だから書くのがしんどいパートもあり『なんだよおめえしっかりしろよ!!』と一人でキレ散らかしているあたり救いのない妖怪なのでそっとしておいていただけると幸いです。
新菜は、気質や境遇的に少しロミ子(『わだつみの沈黙』の主人公の路海)に似ています。敢えて被らせた部分もあり、あくまで私一人の実験的内容ではありますが、『もしもロミ子が鉄人吉岡くんとくっつかなかったら』と試した部分でもありました。
正己と新菜が喧嘩をしたシーンですが、もしも、新菜の相手が正己ではなく、スーパーダーリン3人組、鉄人吉岡くん、安田、嶺二さんだったら、こんな感じなんです⬇️
◇ 吉岡
「うるせー! 馬鹿野郎、こういう時は、素直に『吉岡さん助けてください』でいいんだ!」
と言って電話を切る。
新菜を絶対に出て行かせず、食わせてよく寝かせて、次の日一緒に大学に行って色々策を練るでしょうし、本当にまっとうに助けに行くタイプ。新菜にも選択肢や責任を持たせつつ、必ずなんとかしてくれます。
◇ 安田
「ハァ〜〜〜〜?? アンタ、バァッカじゃないの? なんでここに喋るプラダの財布がいるのに使わないのよ、バッカねえ〜〜。そんで? いくら? 貸したげるわよ、カラダで払ってもらうし。あとあんたそれね、親、親じゃないわ。死んでんでしょ? ユーレイからの着信なんか取んじゃないわよ、おっかない。バカね。おいで」
と言ってスマホぶち切り。
新菜のドレスのサイズを測って本当に体で払わせて、大学を出します。
◇ 嶺二
「? なんだ、どうして早く言ってくれないの。じゃあ俺と結婚しよっか。そしたら俺が払ってもおかしくないし。」
嶺二さんは華麗なる一族の三男坊なので、あまり難しく考えずにこういう判断をします。そして全部いい方向に行きます。
まさか嶺二さんをオチに使う日が来るとは思いませんでしたが、こういうストロングスタイルで解決します。新菜はよく分からないままウエディングドレスを着て、よく分からないままハッピーエンドだと思います。
もっとさっくり新菜を助けたかったのですが、今回は正己に焦点を当てていることもあり、彼の挫折のためのシーンとして新菜が出ていってしまいました。
個人的にものすごくストレスでしたが、正己も正己で自分ができる限りのことをして、結婚して、新菜に金銭的負担を負わせたくないためにかなり一生懸命がんばったと思います。なかなかできることではないと思いますが、私はスーパーダーリンを発動させたかった……😞
でも、新しい発見が色々ありました。
たまにはこういう書き方もいいかもしれません。
やってみたかったこと
過去の作品の登場人物を出したかったので、今回は『蜻蛉の首』から八恵子さん、『わだつみの沈黙』から吉岡くんを出しました。
時系列的には⬇️の通りです。
『橘』と『わだつみ』が2020年代の設定なので、Fused Glass はちょっとだけ未来のお話でした。SNSとかも変わっているだろうけど、まあ消滅はしていまいという見込みでLINEとか書きました。
当初は、八恵子さんと正己を同期にしようかとも思っていたのですが、それだとこの世代だいぶ固まってしまうし、『蜻蛉の首』のその後の八恵子さんの様子を書きたいこともあって、10歳くらいの差ということにしました。ちなみに辰真さんはバッチリ老眼が来ています。もうちょっとで還暦ですね。
吉岡くんと正己ですが、二人とも性癖は似ているため、そういう集まりで親しくなったという設定にしました。吉岡くんは家庭を持ってから、もちろん一度もその集まりには参加しておりません。若い頃に会って覚えていてくれたのでしょう。
テーマ曲
なんだかんだ色々と書きましたが、結論として、私は新菜と正己には元気で幸せであって欲しいと思っておりますから、二人はこの先一緒に生きていって、もしかしたら、そのうち赤ちゃんも生まれたりするんじゃないでしょうか。
関係性として、一番フラットな二人だからこその生き方をすると思います。
大丈夫です。
ガラスは割れても、溶けてくっつくと結構きれいなもんなんです。