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「かなしくてさみしくて」【ボカコレ2024冬】

ボカコレ2024冬に投稿した自作曲「かなしくてさみしくて」についてあれこれ書いてみようと思います。

こちらの曲です。

きっかけはある訃報

2023年11月17日金曜日。午後から幕張INTERBEEに行く予定の日。昼のニュースで私淑する音楽家のKANさんが亡くなったと知りました。思わず大きな声が出たことをおぼえています。

長く、KANさんの音楽を聴いてきました。恋する気持ちの傍らには必ずKANさんの音楽がありました。上京すること、音響を学びレコーディングエンジニアを志したこと、多摩川のそばに住んだこと。それらにはKANさんの影響があったと考えます。

とにかく、ショックが大きくて。何をしていても考えてしまうし、気持ちの持っていきようによっては簡単に涙がこみ上げてくるような状況。KANさんの曲、歌を口ずさんでも、ピアノでコードを押さえても、姿や話し声を思い出しても、すべて涙のトリガーになる。こんな気持ちになることがあるだなんて知りませんでした。

そんな折、大切な人のことをずっと記憶に刻み、忘れずにいたいと思ったからか、気持ちを書き記しました。それが今作のきっかけです。書き始める時には近いうちに「うた」にするつもりがあったように思います。

趣味の音楽制作、でも、それはすっかり自己表現の手段のひとつであり、生活の何割かを占める大きな存在。2021年以来、自作曲を発表するようになったのだって、シンガーソングライターへの憧れが形になったようなものですから、KANさんの影響あってのことです。

強い気持ちを作品制作に向けようと思ったのだって、そんなにおかしな心の動きではない、かもしれません。そう思うことで悲しみから目をそらし、少しでも心を保とうとしていたのかもしれないと思います。

ファイルの作成日時からすると、11月26日のこと。DAWを立ち上げ、ピアノを鳴らし、いずれ歌詞になるかもしれないメモを見て、口ずさみ、1コーラス、曲の原型ができました。文字列になった気持ちがメロディ、フレーズを連れて来るみたいで、そう時間は掛からなかったと思います。2日後にはフルサイズのデモになっていました。

しかし、記した気持ちを歌詞に落とし込むのには時間が必要でした。曲にするためにことばを削いでいくことが難しかったのかなと思います。12月は歌詞にすることに手を着けられないまま過ぎていき(途中、気持ちを如何ともし難く「KANのChristmas Song」を多重録音でカバーし、YouTubeに投稿しているが)、年末年始の休暇に入りました。

ウチのミクさんに歌を、と思い立ったのが12月30日。いつものことながら、ミクさんに仮歌を歌ってもらうまでに時間が掛かってしまいました。動き始めるまでが大変なのは重いものを動かすのに似ているかもしれませんね。ことばを選んだり、譜割りを整えたり、気持ちを歌詞という器に落とし込む(一部、穴は空いたままだったが)ことに取り組み、仮歌入りフルコーラスのラフミックスが正月にできました。先が見えて安心したのか、1月下旬までそのまま。1月23日からはほぼ毎日のようにDAWを開き、制作が本格化していくのでした。

いぐあなPの音楽制作

近頃、おいらの音楽制作は長期に渡ることが多くなっています。

毎日、少し(寝る前の1~2時間とか)作品に手を加えては最終形をラフミックスしてmp3で書き出す

書き出した音源を翌日の通勤中に聴いて気になった点をメモする

メモを見て修正したり新たなアイディアを試したりする(例えば、コードとメロディのバッティングがあるんじゃないか、とか、楽器の抜き差しや新しいトラックを足すといいかも、とか、サウンドに対するアプローチとか)

ラフを書き出す

自分でやったことに対し客観的にディレクションしているような感じです。こんなことを何日も繰り返して曲を磨いていくのがおいらのやり方になりつつある。通勤中にラフミックスを聴くのが大事な時間。スマホ開いて片道ずっとリピートしていたりします。

最終形ができたのは2月14日。着手から2か月半、訃報からは3か月ほど経ったことになります。

ボカコレ2024冬、どうする

(広義の)ボカロを使う、主にアマチュアの音楽制作者なら「ボカコレ」(The VOCALOID Collection)というイベントのことは知っている人が多いと思います。公式ページには「ネット最大級のボカロ楽曲投稿祭」とあります。

これまで3回ボカコレに参加(投稿)したことがあります。参加すると、とにかく楽しいです。自分の曲をきいてもらえる機会であり、たくさんの新曲に出会う機会でもあり。

楽しい反面、日々の暮らしがある中、イベントに参加するために時間を作り、あるいは切り詰めて音楽制作をすることには違和感を覚える気持ちもあります。無理なく音楽制作を楽しむ、が基本方針だからなんでしょうね。そのため、自作曲が完成する時期とボカコレの実施時期が無理なく合致する時には参加しようと思っていたんです。今回はタイミングがバッチリ合いそうなので参加しようかとの考えが頭をよぎりました。しかし、私的な曲だし、イベントの雰囲気に合わない曲だろうという自覚もあったため、参加を見送るべきではないかという考えに傾いたこともありました。考えたけれど、、、いい感じに曲が仕上がったのだから、できれば多くの人にきいてもらいたいという気持ちも強くて。結局、その気持ちを優先し、参加することに決めました。動画は一枚の写真に歌詞というシンプルなスタイル。それなら少々の時間があれば作れるな、と。

ボカコレ2024冬に投稿することになった経緯、流れはおおよそこんな感じです。少々気が早いのですが、次回以降、ボカコレに出ることがあるとすれば、その時はボカコレ用に作った曲で参加したいと思っています。

「かなしくてさみしくて」曲の解説

つながりやまとまりなく、思いつき書きつける系の解説を。

過去の自作曲を眺めてみると、いぐあなPの曲は構成がわかりにくいことがしばしばあります。アイデアがもったいなくてシンプルにできないんです。今作にしてもそうなってまして、

INTRO→AA'→BB'→C→reINTRO→2A→2BB'→2C→INTER→3C→D→OUTRO

という構成。3Cのあとをなんといったものか、と思っています。思いついたフレーズをなくす努力は今後もやっていくべきことなのだろうと考えています、頑張ります。

イントロ、リイントロ、アウトロではピアノがリードフレーズを鳴らしています。このフレーズも、最初は統一されておらず、箇所箇所で気に入った感じになってました。それでは良くないだろう、と口ずさめそうなフレーズにしたつもり、です。KANさんの「愛は勝つ」のイントロほど明快ではないけれど、意識してわかりやすいフレーズにしたつもりです。タララララン〜タンタン〜、、、

さて。今作「かなしくてさみしくて」にはKANさんを意識した箇所がそこかしこにあります。

楽曲の土台を担うドラムパートの演奏から、実はKANさんを意識しています。曲のイメージに近かったのがアルバム「カンチガイもハナハダしい私の人生」の「ordinary days」。テンポこそ違えど、パターンに近いものが感じられると思います。間奏のシンセソロの音色もordinary daysのイントロ、アウトロのシンセを意識しました。

「あなたの名前を打ち込んで」という冒頭の歌詞。これは「X」の検索のことです。毎日、自宅で時間があると「KANさん」と打ち込んで「最新」でソートし、ポストを眺めていました。急に爬虫類みたいなアカウント(いぐあな)からいいねをつけられて気味の悪い思いをされた方もいらっしゃるかもしれません。ともあれ、身近に自分の喪失感をそれなりの色合いで共有できる人がいなかったため、画面越しに見える多くの人のポストをみては、勝手に共感し、自らを癒そうとしていたと思います。

歌詞、メロディにもKANさんを意識したポイントがあります。2サビ前の「山積みで」というのはKANさんの「指輪」という曲の歌いだしを思い浮かべてのことです。


ラスト付近で歌詞が抜けてピアノだけになる箇所はKANさんの「エキストラ」を意識しています。

歌詞

かなしくてさみしくて
作詞・作曲:いぐあなP

あなたの名前を打ち込んで
検索
最新
何度も繰り返す

あなたの名前を眺めては
追憶
再生
在りし日をイメージ

きっと今だけ
もう少しだけ
しばらく時が流れてくれるまで
涙流れても許してくださいね

かなしくてさみしくて
あなたのいない現実は難しい
頭ではわかってても
あなたのいない世界を受け入れられなくて

あなたの名前の周りには
せつなさと
くるしさと
感謝のことばたち

あの日あなたが
旅立ってからも
それぞれの暮らしは実に切実で
やらなきゃならないことが山積みで

それでも

かなしくてさみしくて
ふと鼻の奥が痛んだりしてます
いつまでもいつまでも
泣いてばかりじゃあね
今日も日々は続いてるんだし

-間奏-

かなしくてさみしくて
ふと鼻の奥が痛んだりしてるけど
悔やむより嘆くより
今を見つめるよ
あなたのいないこのセカイで

さみしくても
旅に出たあなたのこと
思いながら今日も歩く

心に響いてる
あなたの歌声

ありがとう
--


サウンド面もイメージはKANさん。ピアノを演奏する姿を時には思い浮かべたりもして。ピアノが印象的になるようなミックスバランスを心掛けました。シンガーソングライターという言葉が思い浮かんだ、という感想コメントを頂戴し、とてもうれしく思いました。だって、イメージしたのはシンガーソングライターのKANさんなのですから。

その他、アレンジやサウンドについて思うままに記します。

Bメロのリズムには生ドラムを抜いてループがメインになる箇所があります。終始、楽曲のバックに流れるループは誰にも等しく流れる時間のイメージです。生ドラムの音色とリズムマシン、ループを組み合わせるのが好きで、自作曲のアレンジでは多用しています。
生ドラムはSSD5、ループはUJAMのBeatmaker IDOL

ドラム、ループとの整合性を考え、ベースもレイヤーにしてみました。エレキベースの音源にシンセベースをうっすら足してます。
エレベはMODO BASS2、シンベはSpire

Key=Fで制作を始めたため(完パケはEで始まり3サビでFに転調)、白鍵が多く弾きやすかった。それもあって、ピアノのトラックはテンポを落として手弾きしました(もちろんEDITしてます)。EDIT画面でノートを配置していたら作れないトラックができたと思います。リアルタイムでMIDIレコーディングをする時は、何テイクもレコーディングします。そのうちにフレーズが定まってきて、段々と同じことを繰り返し弾けるようになっていきます。20テイクとか30テイクくらい録って多少繋いで、おかしなノートを取り除いたりするなんてやり方をすることが多いです。
ピアノ音源は制作中に導入したIKのPianoverse(FAZIOLI)

2BからエレキギターをLchに入れてます。もう少しミュートがかった音色にしたいと思っていたはずが、こんな感じになりました。3拍目に四分音符のDelayをかけて薄くRchに飛ばす(DelayやReverb、その他空間系のエフェクトを使う時に「飛ばす」という事がある)、ということをやっているので、よく聴くと、4拍目だけ広がった感じがする、はずです。
ギター音源はREAL STRAT

間奏のシンセリードもSpire。
2A以降時々出てくるエフェクティブなグロッケンはSampleTank4から。時々入れている長いFX風シンバルはオーディオサンプルにリバーブやらフランジャーやらかけて作ってます。Bメロ前のフィンガースナップは場面転換のようなイメージで。もっと大きくても良かったかも。

そしてヴォーカル。
ウチのミクさんは初音ミクNT。ボーカロイドではない初音ミク・ニュータイプ。いぐあなの制作ではPiapro Studio NTで打ち込んで、オーディオ化してからMelodyneを使って最終調"声"するのがいつものやり方になってます。リバーブやディレイを厚めに掛けるのはトレンドっぽくはないと思うけれど、今作に関しては思いのままに掛けました。オクターブ上の音を生成してミックスし、キラキラさせようとしたけれど効果のほどはいかがでしょうか。

コーラス、ハモリも試してみたけれど、呼ばれてない感じがしてやめました。自分の生声も当ててみたけどしっくり来ませんでしたね。イメージを具現化できなかっただけかもしれないなぁ、と今も思っています。しかし、曲のテーマからすれば、ひとりで歌うのが合っているかもしれないとも思います。

いくらかキーを下げてセルフカバーをすることなどあれば、その時はハモリやコーラスも試してみたいと考えています。2つくらい下げたらいけそうな気がします。

今回、MVのクレジットにおいて、自分のことを「D.I.Y. Music Creator」と称してみました。作詞、作曲、アレンジ、ミックスを自分でやってるということを言いたいんですけど、その制作過程は工程を行き来し、有機的なものと考えます。制作を進める中でメロを変える、アレンジを変える、歌詞がハマらなければしばらく仮で進めて後で差しかえる、ミックスで上手くいかないことは打ち込みに戻ったり、音源側で調整したりもできる。DAWを用いる音楽制作が主流となっている今は、分業で進める制作(プロの現場っぽい。最近はそうでもないでしょうか?)と、行きつ戻りつが当たり前の制作(かつてはアマチュアの制作、と思っていましたが、最近は垣根なさそう)のどちらもあると思います。

まとまらないまとめ

制作の背景を知ってもらいたい気持ちがあり、長々と書いてみました。音楽のきこえ方は変わらないはずだけど、、、もしかしたら違ってきこえるかもしれません。あるいは、新たな気づきや発見があるかもしれません。

よろしかったらきいてみてください。ボカコレ2024冬、計測期間は終わったけれど、曲は上がったままです。

お読みくださりありがとうございました。

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