2004年5月9日(日) 雨
6月2日は祝日で学校も休み。それは横浜で暮らす俺たちにとってはあたりまえのことだ。開港記念日として横浜市が定めている。その日は山下公園で花火が上がったり、平日に堂々とディズニーランドに行けたり、他の休日とは少し違う特別感があった。全国で唯一の休みを与えられた俺たち。まして他に祝日のない憂鬱な6月。もしかしたら横浜市民特有の地元愛は、この開港記念日に裏付けされているのかもしれない。
しかし、高校最後の開港記念日を迎える一か月前に、17歳の俺にとってもっと特別な日がやってくることとなった。
2004年5月9日(日)
横浜赤レンガ倉庫イベント広場 特設ステージ
「ニューTVK開局記念 Live TOMATO 2004」
出演:cune/CHARCOAL FILTER/奥田民生/THE MODS/THE HIGH‐LOW
横浜にザ・ハイロウズがやってくる。チケットは買っていなかったけれど野外ライヴだし音漏れだけでも聴きに行こうと、同じ高校の友人を誘って出かけることにした。考えることはみんな同じで、別の高校の友人とも会場でばったり会った。うっすらと雨が降るなかで5人は興奮していた。白い幕で覆われた四角形の中からバンドサウンドが聴こえてくる。奥田民生「マシマロ」が聴こえてくる。いざその音を耳にすると、今度は目でも確かめたくなってくる。もどかしくってヒマな俺たちは、出演者を間近で目撃しようと企んで、楽屋とステージの通路を突き止めた。そして演奏を終えて楽屋に戻って行く奥田民生を数メートルの距離で見ることができた。
同じ手段を使って憧れのザ・ハイロウズを間近で見ることができたが、ステージに向かう彼らを見送って俺たちはその場に取り残されたままだった。そして白い幕の向こうでザ・ハイロウズの演奏が始まったときに、「どうしても観たい」という気持ちが高まってがまんできなくなった。俺たちは恥も外聞も捨てることにした。
このイベントはどうやら再入場可らしかった。目当てのバンドの演奏が終わって、会場を後にする人に声をかけて、チケットの半券を譲ってもらおうと考えた。そして俺たちは人の流れを見極め、革ジャンを着たちょっとコワモテのお兄さん2人組に声をかけた。彼らがTHE MODSだけを見に来てもう帰るところなのだということは一目でわかった。なりふりかまわず事情を説明すると、彼らは快く半券を譲ってくれた。しかし半券は2枚しかない。戸惑っている俺たちの様子を見て、お兄さんはこう言った。「2人でまず入って、1人が半券を2枚とも持って外に出てくればいいじゃん。それをくり返せば全員入れるんじゃない?」
そのアイデアを聞いた瞬間、雨が止んで雲の切れ間から太陽の光が降り注いだ。5人の高校生たちが至上の幸福に包まれた。それからあとのことはあんまり覚えていない。ザ・ハイロウズのライヴも楽しかったけれど、ゲートをくぐり抜けた瞬間に興奮の針が振り切れていた。お兄さんたちにもちゃんとお礼を言えなかったような気がする。THE MODSファンのお兄さん、あのときはありがとうございました。
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