強みの自覚と共有
■ ベクトル合わせ
「衆知を集め一人で決める」というマネジメントの原理だけを切り取って導入すると、意思決定者がただ単に分散化するだけで、組織の判断がバラバラになってしまいかねません。
判断・意思決定をする人間が多くなればなるほど、組織が混乱する可能性も強くなり、全体としての秩序をなくしてしまう危険をはらんでいます。まったく何も相談せずに勝手にやってしまう部下をもっていたり、報告のない部下をもった悩みをを抱えている人というのは多い。この場合、ただ単に、その人がいい加減なだけの場合もあるし、縛られるのがいやで意図的にそうしているケースもあります。
「一人で決める」という意味は「合議で何となく誰が責任者か不明なまま決めることはしない」ということで、上記のような初歩的な非常識なケースは当てはまりません。一人で決める前に報告したり相談したりするという習慣がまず必要です。
一人ひとりが自分で考え、判断し、意思決定をしながら、なおかつ全体としての秩序をもつにはどうすればいいか。
”個々が自律的に行動しながら全体としては秩序をもっている” という一つの組織イメージがある人間の集団に共通するのは「個々の自律的な行動がいくつかの行動ルールをもつことによって、集団としての秩序を形成する」必要とされるルールの中身は明らかに全く違うわけですが、いくつかの簡単なルールがあるという点においては共通しています。このルールは、自律分散的で早く柔軟なマネジメントを目指すための原理的なもの、ということが出来ます。
自律分散的なマネジメントを行う為の単純なルールとは、どういうルールなのでしょうか。
そのうち一つは明らかに「衆知を集めて一人で決める」というものです。
このルールがはっきりしていれば、個々が自律的に、つまり自分で判断して動くことが可能になります。しかし、それだけでは足りない。これだけだと、個々は自由に動くが全体としての秩序はもてません。
「全体に秩序をもたらすものは何か」というのが次の問題です。
秩序とはいっても、外的な力で枠をはめて、その中で管理することによってもたらされる秩序ではありません。一人ひとりの内部にあって、新しい状況ができた時、常にその状況をやりとりしながら判断していく時に指針となり得るものが必要です。
組織に置き換えて言うと、全体に秩序をもたらそうとするなら、必要なのは「統一的な価値判断の基準」を組織全体で共有することである。そのことで判断にブレが出にくいようにすることが肝心です。
■ 統一的な価値判断の基準とは
ひと口に「価値判断」といっても、あり方はさまざまです。
ただ、何か物事を決める時に「これを大切にしよう」と組織に属するみんなが価値を置く「これ」というのが統一的な基準になります。
自分たちは「これ」を最優先する。「これ」が一番大切です。
たとえば、営業系の組織における「これ」というのは何だろう。自分達が売っている「商品」は何か、「なに」をお客様に売っているのだろうか、ということをしっかり自覚しながら営業する、ということなどです。
それはモノとしての商品だけなのでしょうか。
もしかしたら自分自身を売っているかもしれない。
物の「新鮮さ」を売っているかもしれない。
場合によっては「アフターサービス」こそがうちの売りものなんですということもあります。
そういうものが、自分たちが一番大切にしている「これ」であり、自分たちが売っている商品なのです。こういうことをメンバー全員で共有しておくことが統一的な基準をもつことなのです。もし、仮にメンバーの間で「アフターサービスこそがうちの命」ということが共有されているなら、自身をもって商品を売り込めるだろうし、そこをより強くするにはどうすればいいかと考えるでしょう。
しかし、そういう共通認識が得られないと、しかたなく、アフターサービスをやっているけど、手間がかかるからなんとか省略してしまおうという後ろ向きの考えになってしまう可能性も十分にあります。
統一的な基準をもてるということは、言い換えれば、自分たちの 「強み」をしっかりと自覚していることです。この強みの自覚は、ビジネスにおける戦略の決定要素です。
戦略というものは「自分たちの”強み”、隠れていて目に見えないかもしれない”強み”を発見して、それが一番生かされやすい場を”勝負の場”に設定し、その土壌で勝負すること」です。
この戦略の根幹にある「強み」をみんなで共有することも、統一的な基準をもつことの一つです。
商品のコンセプトについても同じようなことが言えます。
例えば、車の開発では何百人もの人が共同で一つの車をつくり上げます。そこに統一的な基準をもつか否かは「商品」の出来栄えを大きく左右します。さらに、それによって商品の商品たるゆえんである「強み」の中身もまた違ってくるのです。
一人ひとりの思いがバラバラで大切にするものが統一されていなければ「強み」は生まれてきません。全体の秩序をつくるもう一つのルールは「何を優先するかに関する統一的な基準をもつ」ということです。
この集団の秩序を形成する二つのマネジメントルールによって、「一人ひとりが自律的に動きながら全体として秩序がある」という状態が実現します。それが早くて柔軟な組織の動きを可能にします。
■ いろいろなオフサイトミーティング
オフサイトミーティングには、いくつかの種類がある。目的別に大きく分けると次のように分類できるが、実際には「使い手」が必要に応じてアレンジし、今ではそのバリエーションも多様になっている。
(1)部門横断型「耕し」のオフサイト
管理職が部門を越えて集まり、それぞれが関心をもつ問題を中心に話し合うものです。最も一般的なこのオフサイトは、あくまで土壌を耕すことを目的とした交流型なので、必ずしも特定の問題の解決にはこだわらない。この場合、目的はネットワークの形成と問題意識を刺激し醸成することです。
(2)部署内「親和」のオフサイト
特定の部署が部内のメンバーを中心に集めて行うものです。
性格としては交流型ではあるが、前者のオフサイトに比べこちらは成功させるのが少し難しい。部署単位の場合、職場の上下関係がそのまま持ち込まれる為、なかなか気楽な気持ちになりにくい為。しかし、成功すれば職場の具体的な問題解決にもつながる可能性が高く、部署が抱えていたような構造的な問題の活路が開けることもあります。これを成功させる為には、既にオフサイトミーティングを経験しているものが数名含まれていたり、ミーティングに理解を示す管理職がいるというような条件が必要です。
(3)テーマ別「知恵出し」のオフサイト
前の二つのオフサイトミーティングが交流型なのに対し、テーマを設定して参加者を募るオフサイトであるこの様なオフサイトは通常一日、もしくは一泊二日で行います。しかし、時によっては半日で行うケースもあります。このオフサイトは交流型とは違う種類の配慮が必要で、性格としては成否が分かれやすい。うまく設定しないと、テーマが具体的であるがゆえに直接の利害関係が前面に出て、場合によっては、一方が他方を攻め、他方はひたすら逃げたり防衛したりするという最悪のパターンになってしまいます。
オフサイトミーティングは、前にも述べたように「気楽に」「まじめに」「人の話に耳を傾け」「根幹を成す問題提起がある」という特徴的な要素を持っていますが、それに加えて、議論を活性化するためには「毛色の変わったメンバーの参加」も大切な要素です。