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「群舞のペア碁」について冷静に語りたい(感想、考察)・その1

今回は、2021年1月から連載開始された囲碁漫画「群舞のペア碁」について語りたい。ネタバレ要素を含むので、ご注意いただきたい。

第1.ペア碁とは

「ペア碁」とは、2人一組のペアを組んで、順番に着手していくという囲碁の特殊な対局形式を指す。

ペアの相手の着手の意図を読み取り、息を合わせることが重要な要素であり、これが合わなければ、例え、個の力が強い同士のペアだっとしても、息が合った平均棋力が下のペアに対し負けるということありうるのである。個の力だけでなく、パートナーとの調和という独自の要素が入ることで、非常に魅力的な競技となっている。

本来、ペア碁をするだけなら性別は問う必要はないと思うが、一般的に、ペア碁の大会では男女のペアであることが求められる。囲碁における女性人口は男性より圧倒的に少ないにもかかわらず、男女のペアを要求することは男性にとって鬼畜な所業であると言わざるを得ないが、その方が映えるので仕方ないだろう。

第2.群舞のペア碁のあらすじ

 さて、「群舞のペア碁」についてだが、大まかなあらすじは、プロ棋士を目指すアマチュアの臨群舞(のぞみぐんぶ、16歳)が、囲碁未経験者であり、幼馴染である天米叶海(あまめのぞみ、15歳)と共にペアを組んで大会に出るというものである。

 臨は、5歳のころからタイトル7冠制覇した伝説の棋士から囲碁を教わっており、プロ棋士を目指すと決意した後、14歳からプロ棋士である極頭黒煙プロに弟子入りして現在に至っている。(本人の対外的な棋力、年齢等から院生ではないと思われる)

(※11月15日追記:最新話で、臨くんは院生であることが判明しました。しかし院生になるには14歳が年齢制限で、最低6段の棋力を裏付けなければならないので、いささか院生になる過程には疑問が残る…うーん。)

 しかし、臨は対局中、緊張でまともに囲碁を打つことができなくなるという致命的な欠点があり、弟子入り後も幼稚園児にすら1勝もできなかった。いや、致命的すぎるだろ…。

 そんな中、師匠は臨に対し、破門勧告を行い、一つの条件を突きつける

今度開催されるペア碁の大会に出て、これで優勝できなかったらプロを諦めろ。

というものである。

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 そもそも囲碁のプロの世界は基本的に個人戦である。最初に述べたとおり、ペア碁には個人戦にはない重要な要素があり、プロを目指す上での指針にするならばペア碁大会ではなく、少年少女囲碁大会であったりアマチュア本因坊といった個人棋戦を提示することが適切であるように思われる。

 この点、本編において、師匠は2年間1勝もできてないのに個人戦は絶対無理だけど、未経験のペア碁ならワンチャンあるかもと補足説明している。

 師匠の言い分にもツッコみたいところは色々あるが、まあ一応の納得はしよう。なるほど、ペア碁なら個人の力が不足していても息の合わせ方で勝つ可能性があり、どんな大会でも優勝実績を得ることは本人の自信にも繋がるし悪くないだろうと。

 しかし、後に判明するのであるが、なんとこの大会、プロ棋士同士のペアも余裕で参加してくるプロアマ混合のペア碁大会なのだ。

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 これにはここまで冷静に展開を受け入れてきた私もさすがに動揺を隠しきれなかった。

 幼稚園児にすら1勝もしたことがない臨が誰とペアを組んでもプロ同士のペアにワンチャンあるとは到底おもえず、それならばアマチュア個人棋戦の大会を進めるほうがよっぽど優しい提案だったのではないだろうか。

 冷静に考えて、師匠の提案は無茶ぶり以外の何物でもないと言わざるを得ない。

 結局、追い詰められた臨は師匠からの提案を受け入れる他なく、プロアマ混合の大規模ペア碁大会に出場することになったのである。

第3.考察

 以上のとおり、「今度開催されるペア碁の大会に出て、これで優勝できなかったらプロを諦めろ。」という師匠の提案はあまりに過酷であり、理不尽と言わざるを得ないものだ。

Q.師匠が、なぜこんな理不尽な要求をしたのだろうか。

A:師匠はただのやべぇやつだった

というのが初見時点の回答であるが、しかし、冷静に考えて、臨の師匠がそんなやべえやつだと信じたくはない。

私は、師匠には隠された真意があったのではないかと考えている。

 臨には、対局中、緊張でまともに囲碁を打つことができなくなるという致命的な欠点がある。しかし、師匠は、この欠点さえ克服することができれば、臨はプロを目指すことができる実力と才能があると考えているのではないだろうか。本編で「お前には碁の才能はない!」と言っているが、これは本人に過度の期待を持たせない為の方便だろう。

 臨は、「プロ棋士にならなければならない」という強迫観念に駆られ、囲碁を打つことの楽しみを忘れていた。これは、第2話で初めて叶海とペア碁を組んだときの描写からも窺える。

 しかし、師匠の提案が個人棋戦だったならば、臨はいつもと同様に追い詰められた状態の囲碁=緊張でまともに囲碁を打てない状態になることは明らかだ。師匠は、これを予見していたからこそ、ペア碁という新たな世界を通じて、囲碁の楽しさ、対局相手やパートナーの気持ちと向き合うことの大切さを伝えたかったのではないか。

 おそらく、仮にペア碁大会で優勝できなくても、それがきっかけで臨が覚醒するきっかけとなったのであれば、破門宣告やプロを諦めろという言葉を撤回するだろうと予想している。
 一方で、ペア碁大会を通じても今までと変わらないままだったら、予定どおり破門するだろう。

 「今度開催されるペア碁の大会に出て、これで優勝できなかったらプロを諦めろ。」という言葉の裏には、このような思惑があったと信じたい。

 師匠の真意は恐らく今後明らかになると信じているが、もし明らかにされないまま、ガチで言葉どおり「今度開催されるペア碁の大会に出て、これで優勝できなかったらプロを諦めろ。」と言っていたのなら、私は師匠のことを忖度無しにやべえ奴認定したいと思う。

むー


 

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