【マーケ基礎】正統派? 異端児?
以前、イタリアのナポリで
「原理主義」の嵐が吹き荒れていました。
何か宗教がらみのやばい話かと思いきや、
「ピザ」の話でした。
いまや世界中にひろがっている、
さまざまなピザを嘆いているピザ職人たちが、
立ち上がったのです。
「米国でピザと称している食い物は、
太った円盤に過ぎない」とか、
「大手企業はピザを冒とくしている」
などと叫んでいます。
ピザ討論会を開いたり、「真正ナポリピザ協会」を作り、
原材料や製法を細かく定義する法律まで成立させました。
私は、本場のものを食べたことはありませんが、
本場仕込みのピザとケータリングのピザでは、
まったくの別物だということはわかります。
伝統ある食べ物におかしなアレンジをしておいて、
「ピザ」だと名乗っている。
このことに抵抗があるのは、わからなくもありません。
正統派として、永年の伝統を守ってきた人たちですから、
こだわる気持ちは当然のことです。
一方、異端児は、発想が柔軟です。
貝の形の生地があったり、
おっぱい形があったりするそうです。
日本では、パイナップルや韓国焼肉まで
のせているところもあるとか。
個人的には、
“美味しければいいじゃないか”と思いますが、
正統派からすれば、許せないようです。
しかし、老舗であっても、
このような原理主義に距離を置くお店もあるようです。
あの『ピザ・マルゲリータ』の元祖のお店
「ブランディ」がそうです。
私は、ここの店主の言葉が
もっとも真理を突いているように思います。
「ピザは庶民の食べ物。
堅苦しいルール決めは、気に入らない」。
まさに、この言葉です。
お客さまに喜んでいただくために
一番大切なことは何なのか。
食べ物屋さんでは、まず「美味しい」ということです。
正統派のように、権威づけをするような動きがあると、
やがて行き着くところは「高級」となってしまうのです。
庶民の食べ物であるはずのものが、権威のために、
“入りづらい、堅苦しい、高い”食べ物へと
変わってしまうのです。
ナポリの正統派が、そうならないことを願います。
私は、正統派を否定するわけではありません。
優れた伝統を守り、
こだわりを持って商売を続けることは、
実に素晴らしいことだと思います。
ただ、それを貫き通して欲しいのです。
権威が見えてはいけません。
日本には、こういったお店がたくさんあります。
名前だけで流行っているお店です。
味もわからないような人が、有名だからとやって来て、
“素晴らしい”などと絶賛するのです。
土地の雰囲気だけで、
美味しいと錯覚するようなお店もあります。
地域がブランド化している、
あの、古都と呼ばれているところです。
ブランドを利用して、法外な価格をつけていたりします。
こういった汚い商売はいけません。
食べ物屋さんに限らず、
正統派と異端児は必ず存在します。
商売としては、どちらも正しいのです。
本物だけにこだわる正統派には、それだけの価値があり、
相応の価格を求められるのも当然のことです。
また、新しいものや流行のものをいち早く取り入れたり、
変わったものを揃えたりする異端児にも、
それなりの価値があります。
それを求める人たちがいるからです。
どちらも、“それを求める人”がいる限り、
存在する理由があるのです。
商売としてやっていくのが難しいのは、
“どっちつかず”のお店です。
一番多いのは、正統派としてやって来たが、
売れなくなったので、
安価な売りやすいものを置いてしまう、
というやり方です。
こうなってしまうと、残っていた常連さんでさえ、
見切りをつけてしまいます。
安価なものを求めるお客さまは、
もっと品揃えのいいお店に行きますから、
こんなお店には興味はありません。
結局は、潰れていくのです。
こういうお店は、
正統派を貫くほどの勉強も努力もしていないのです。
安易な方法を取ってしまったのです。
正統派・異端児。
どちらにしても、徹底しなければ、
勝ち残ることは難しいのです。
これからの時代、「普通のお店」は消えていきます。