【試乗】GReddyエクリプスクロス ~ 外からしか見えないことがある。外からでしか言えないことがある
三菱自動車時代、グループ企業担当営業、新店舗立ち上げなどトータルで7年間任地であった茨城県鹿嶋地区の店舗を20年ぶりに訪れた。現在は東日本三菱自動車販売株式会社(以下 東日本三菱)という広域ディーラーの「鹿島店」(鹿嶋市誕生以前の表記を継続。Jリーグのアントラーズと同じ)である。
この店舗には、かつて店舗運営のアドバイザー役や営業マン教育を担当するようになっていた時期に指導したI君が活躍している。当時は「上のものにだまって従っていればいい」という風潮が支配的だった自動車ディーラーにあって、納得できるまで『なぜ? どうして?』を隠さない若者だった。まあ、私もそうだったが。
今回すでにベテラン営業マンとなっているI君のもとを訪れたのは、昔と同じく店舗運営や今では当然になったインターネットの活用術を助言(店舗個別の情報発信にもさまざまな制約ごともある広域ディーラーの事情も考慮の上で)することと、もう一つは東日本三菱だけが販売している三菱エクリプスクロスのドレスアップ特別仕様「GReddyエクリプスクロス」の実車を確認することである。もちろん差し出がましいことだが、その「売り方」についても一緒に考えてみようと。
エクリプスクロスは三菱自動車の主力車種の一つだ。現在はプラグインハイブリッドシステム搭載車(PHEV)をメインに訴求するクーペSUVである。
東日本三菱はこのクルマをベースに、チューニングパーツブランドのTRUSTをパートナーに2021年秋からGReddyエクリプスクロスを販売している。TRUSTとは私もその全盛期に(現在は経営母体が変わっているが)縁があり、TRUSTカラーの三菱ミラージュでツーリングカーレースにマネジメントで参加していたこともある。
GReddyエクリプスクロスの概要を知り、自動車業界を離れ今では単なるクルマ好きの一人でしかない私ではあるが、少々「気になるところ」もあったこともありクチをはさみに行ったというのが本当のところかもしれない。
エクリプスクロスPHEV自体はモデル設定直後に試乗しているので、ドライブフィールは理解している。三菱独自のS-AWC(スーパーオールホイールコントロール)とフロア下へのバッテリー配置ゆえの低重心化で、スポーティーかつ安定感の高いクルマだ。鹿島港周辺に設定されたコーナーの連続する試乗コースを、つい楽しんでしまう。
さて実車を目にして、気になる点は三つだ。
まず、GReddyエクリプスクロスはTRUSTをパートナーにしているが動力性能に手を加えるチューニングにまで踏み込んではいない。従ってエアロパーツを装着したドレスアップ特別仕様車ということになる。それこそ20年前には折からの規制緩和で、外部パーツメーカーのエアロパーツ装着やタイヤのインチアップ、ローダウンなどを施す「カスタマイズカー」のブームがあった。もちろん私も三菱自動車自身がプロデュースした「ROAR」ブランドパーツの拡販に従事していた経験もある。私が気になっていたのは、そのブームの時代を過ぎた今、つまり当時の記憶も薄れた現場ではどう訴求しているかということだ。
販売現場にいるI君からヒアリングする限り、申し訳ないのだが「企画の煮つめが足りない」というのが正直な感想である。
いささかTRUSTのブランド力に頼りすぎている印象だ。オリジナルのエクリプスクロスに対しエアロパーツだけで差別化を訴求するならば、「なぜこのデザインなのか」という理由づけが販売現場では伝えづらそうだ。一見性能向上を予感させるエアインレット/アウトレットに見える部分もデザイン処理されたダミーだ。もちろん本来のボディ外板に導風孔をあけブレーキの冷却性を向上させるような加工までできないこともあるだろうが(一般ユーザーレベルでは必要でもない)、デザイナーも含めたTRUST側の言葉をそのままコピーしただけではない「販売会社として自社企画商品にふさわしいアピールの仕方、セールストークの作り込み」が今からでも必要だろう。
もう一つは「拡張性」だ。エアロパーツだけに止まるのはあまりにもったいない。
本当にエアロパーツを装着しただけのままだと、デザインの意図を汲み取りきれない。このデザインを活かすのであれば、タイヤのサイズやホイールオフセットを変えて、いわゆる「ツライチ」に仕上げてオリジナルのエルリプスクロスが本来持っている性能を視覚化すべきだろう。つまり路面をしっかり捉える「ロードハガー感」が一目瞭然となってこそドレスアップ特別仕様車としての訴求ポイントを確実に一段上にあげることができる。
その部分はユーザーが購入後に施すことも考慮しているかもしれないが、ユーザーの想像力に先手を打ったオプションとしてホイール周辺メニューの用意だけはしておくべきだったろう。それによる燃費の変化などは許容誤差の範囲に収まるだろうし、そこまで踏む込むユーザー心理では受容されるはずだ。
I君には近隣のタイヤ販売店などに協力を依頼して、GReddyエクリプスクロス用のタイヤ/ホイールのチョイスメニューの設定を例として伝えた。可能ならばと条件づきだか鹿島店だけでもと。そういう連携も販売店の地域でのプレゼンス向上に繋がるものになる。もし全社規模で実施できるならばタイヤやホイールメーカーレベルでの準備も可能だろうし、利益の上積みともなろう。
最後は一番肝心なところだ。なぜそれに思いが至らなかったのだろうと残念なところでもある。
運転席にいても、このエクリプスクロスは特別なものなのだという実感がわかないのだ。せめて視界にステッカー(ロゴ)の一つでも配置できなかったものか、と。万一のエアバッグ展開の状況でも乗員の傷害度合に影響を与えないことも考慮しなくてはならないが大きなものである必要もなく、そのためのスペースは十分にあると考えられる。
もし私が三菱自動車を離れないでいたら、私自身も現在の東日本三菱の一員でいたのだと思う。だが、業種を問わずクライアントのセールスプロモーションに関わる立場となって「外」にいるからこそ見えること、言えることもある。今回の私的な感想もSP専門職の意見として、I君を通して東日本三菱の社内にフィードバックされるかもしれない。
幸いにして東日本三菱では私と三菱自動車で同期だったT君、O君らが担当地域を統括する営業本部長という要職にあって活躍している。三菱自動車が全国で推進している電動車両を活用した自治体との連携協定締結の重要な場で姿を見ることの多くなった同期の姿を誇らしく思っている。
実現するかは別として、私とも時代を共有した彼らならきっと(私の名が出ずとも)I君のフィードバックに目を通してくれることだろう。
作成協力 : 東日本三菱自動車販売株式会社 鹿島店