しまむらの子供服バースデイ炎上から得た個人的な教訓
要約
炎上の経緯
・しまむらの子供服ブランド・バースデイの新商品X投稿が炎上
・子供服に、母親が父親に文句を言う刺繍をしていた点が男性差別・虐待として批判
・数日後にX上で「不快にさせる表現があった」として謝罪、販売中止へ
内情の推測
・しまむらの主要ターゲットは主婦層であり、主婦ウケを狙った商品だった
・ある程度の批判は予想済みだったが、心理的虐待に抵触することが決定打となった可能性
・延焼を避けることと、主要顧客層への直接的な影響は少ないと判断して中途半端な謝罪となった
個人的な感想
・自虐ネタの機能と取り扱いの難しさ
・子供には、自分で服を選ぶようになるまでメッセージ性のある服は着せない
・しまむらグループはnot for me
(以下、2024年7月31日時点での情報に基づいています。今後随時更新の可能性があります)
何が問題だったのか
入りは男女差別
元の投稿は削除されているので謝罪文を引用しました。
新しい商品紹介をX上に公開したところ炎上したというのが大まかな経緯です。
子供の言い間違えなどの言葉をプリントしているシリーズの新商品で、
①ママは褒める言葉のみ、パパに対してはネガティブな発言多数という非対称性
②「パパは全然面倒みてくれない」という明らかに異質な文章があった
ことにより、男女差別であるという批判が多く寄せられています。
今の社会構造との乖離
男女差別に加え、父親の育児参加という国を挙げた施策に負の影響をもたらすという批判も見られました。
デザイナーの加賀美健さんは50歳であり、昔の感覚を引きずった時代錯誤であるという意見も。
これらは批判として正しいですが、もちろん表現は自由でありこれを採用した企業の責任です。
心理的虐待に抵触
最後の批判として、心理的虐待に抵触するという批判も。
これは片親の悪口を言うことが面前DVにあたり、面前DVを子供に見せることが児童虐待であることに由来しています。
冗談なのでDVではないという意見もありますが、基本的にはDVと見分けがつきにくい行為は控えるべきという点には相応の正当性があります。
改めて大きな火種となった「パパは全然面倒みてくれない」という文章を見ると、これだけ明らかに子供の声の代弁ではなく母親から父親に対する陰口であることから、炎上もむべなるかなと思われます。
しまむらという企業
推測に入る前に、しまむらという企業の特徴を振り返ってみます。
日本のアパレル市場8兆円のおよそ7%を占める大企業であり、ユニクロに比べると①ターゲットが女性、特に主婦に偏っていて②国内及び子供服の売上比率が高い企業が炎上してしまったことに特別の理由はあるのでしょうか。
ターゲットは「主婦」
しまむらのメインターゲットは主婦です。
経営計画で成長をうたうしまむら社にとって専業主婦の割合が減っている現状は悩ましいため、ターゲットを拡充している様子がうかがえます。
主婦は今も減少傾向にあり、何もしないと売上には減少圧力がかかっていきます。
ベビー/キッズ服の立ち位置
そんな中でベビー/キッズ服は成長しています。
出生数の減少により母集団は減少する一方、子供の成長によって不要になる一過性と、子供の写真をSNSで共有するためなど違うデザインに需要がある性質から、市場規模拡大の余地があると判断されているでしょう。
下記の表を見ると、全体の増加率に比して子供服ブランドであるベビー/キッズの成長率は高めであったことが見て取れます。
一方で、若い女性をターゲットにしたアベイル事業に比してバースデイ事業の成長率は2023年2月・2024年2月と低いものとなっており、社内では成長に対するプレッシャーがあったと考えるのが自然です。
ユニクロとの違い
比較的安価であるとみなされ、国内売上規模は似通っているユニクロとしまむらですが、大きく異なっている点もあります。
(正確にはユニクロの運営会社であるファーストリテイリング社との比較)
①ユニクロは海外売上の方が多く、しまむらはほとんど国内売上(国内売上規模は似ていても、総売上はユニクロが3倍以上ある)
②男女比。ユニクロはメンズとウィメンズがほぼ同じ。しまむらは女性衣料が多く、男性衣料の3倍以上
③ユニクロは点数を絞って大量生産。しまむらは商品種類が豊富な傾向。
③の影響は利益率に出ており、ユニクロの売上総利益率(1-原価率)が50%程度であるのに対し、しまむらは35%程度で推移しています。
これは、ユニクロにおいては大量生産によりコストが抑えられていることが大きな要因とされています。
なぜ炎上したか、残る火種
主要ターゲットの主婦やベビー服で商品数を増やしていた
一時はユニクロを参考に商品数を絞って大量生産する施策を採用していたしまむら社ですが、コロナ禍で郊外の店舗の売り上げが好調だった時期を過ぎたこともあり業績が悪化。そのために、商品の数を増やして顧客への訴求を図っています。
商品の数を確保するために、PB(Private Brand/自社企画商品)の他、積極的なコラボレーションによって商品の種類を増やす方針を取ったのです(JB(Joint Development Brand/共同開発ブランド))。
その中で2023年から加賀美健さんとのコラボレーション企画が発足し、その新商品が今回炎上してしまいました。
ここからうかがえるのは、以前は子供の言い間違えなど穏当なものであったシリーズに、攻めた新商品を投入してきたのは意図的であったであろうことと、主要顧客である主婦に寄った目線となったことはある種必然だったことです。
時代錯誤と地域性
しかしながら、この攻め方が時代錯誤でした。この錯誤は二つあり、
①商品自体の錯誤
②発信方法の錯誤
に分けられます。
①については先ほど述べた通り、印字された文言が時代錯誤であったことです。特に、虐待に抵触することは言い訳のしにくいクリティカルなものであったと判断されたはずです。
もちろん十分に顧客の声を聞いた上での開発ではありますが、顧客に寄り添っても社会的に批判を免れない事項というものは存在します。
②については、SNSの性質を見誤ったことです。
SNSには顧客以外も当然存在し、むしろそのような潜在顧客を掘り起こすことも大きな目的です。
そこに「従来の顧客の意見」だけを反映した商品を載せれば、潜在顧客の持つより一般的な価値観と軋轢が起きることは必至です。
特に意識的に攻めたものを発信するのであれば、バランスを考慮することが求められるのです。
例えばママに対してもネガティブな発言を含ませるとか、「子供が言う発言」であることをブラさないといった配慮が想定されます。
なお、批判の中には審査がなかったのではないかとか、女性しかいないとこうなるなどの意見もありましたが、審査がゆるくなっていた可能性はありますが無審査はありえないだろうということと、女性の管理職割合が17%に留まっていることからあまり正当な批判ではない印象です。
中途半端な謝罪
炎上から1日おいて謝罪と商品販売の中止が迅速に発表された一方、謝罪の内容は「ご不快な思いをさせてしまう表現があり」と不十分なものでした。
また、謝罪の場所もSNS投稿のみで、HPへの掲載など公式な表明もしくはその予定のアナウンスは一切なされていません。
具体的な管理体制の内容は時間上難しいにしろ、炎上した根本的な原因である男女差別や虐待について触れていないのは中途半端です。
誰かが不快に思ったことが問題ではなく、社会的にネガティブなインパクトを助長する行為を公開会社が行ったことが問われているからです。
逆に、本当に「ご不快」だったから取りやめたということであれば、今後も虐待に抵触する商品が開発されていく可能性が十分にあるということであり、リテラシーの高い潜在顧客層は去っていくでしょう。
しまむら社としては現在の顧客に影響ないと判断し、あくまで全般的にネガティブな印象を抑えるためにひっそりと終結させようとする意図なのだろうと推測されます。
加えて、デザイナーの加賀美健さんを矢面に立たせるような文面も責任逃れと捉えられて批判の対象となっています。
顧客以外からの批判の正当性
この商品について好意的な意見もSNS上で散見されるように、顧客層と批判層が大きくは被っていない可能性があります。
それでも批判には正当性があります。
①まず、しまむら社視点で言うと、潜在顧客を毀損するためです。
既に年間1億5千万を超える来店数を誇りアパレル全体の1/7を占めているしまむら社にとって、潜在顧客は社会全般であると言っても過言ではありません。
その中で、下手をすれば5割を超える層にネガティブなインパクトのある商品を置くことは悪手です。
「いらない」商品は置いてあっても構いませんが、「嫌悪感を抱かせる」商品があれば来店数に直結し、経営へのネガティブな影響がすさまじいことは容易に推測されます。
また、服飾は外に見せるためのものという側面が強く、ブランドの社会的なイメージ悪化は致命傷になりかねません。
②社会の視点で言うと、これだけの規模の企業が発売する商品には「社会において容認されている」というイメージが付きまとい、上場企業であることからも社会的な責任からは逃れられません。
少子化、両親の子育て参加が推奨される社会において逆行する行動をそのような企業が取った場合のネガティブなインパクトは非常に大きいため、健全な批判は必要不可欠です。
更に、今回の場合は子供服であることが重要です。
児童福祉法第25条において、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合、全ての国民に通告する義務が定められていることからも分かる通り、法的にも子供は積極的に社会が守る必要がある存在です。
自分で着る服を選べない子供に着せる服に親はセンシティブであることが義務として求められており、それに抵触している今回のような場面において、批判は義務に近いとすら言えてしまいます。
個人的に得た教訓
ここまでの分析から、個人的に他山の石としたい点を最後にまとめます。
自虐は取扱注意
元々のデザインを作った加賀美健さんは現代芸術家で、夫を下げるような芸風が従来からあった方です。これがジョークとして受け入れやすかったのは、加賀美さんの自虐であるからです。
加賀美さんは愛妻家を公言し、芸術家というステータスを持っているからこそ自虐が機能しているわけです。
「パパは全然面倒みてくれない」というのも、好意的に見ればうちの家庭はうまくいっているんだけど、パパはねーという自虐としてのちょっとした陰口に取れます。おそらく、多少の批判があってもその側面がある点と、男性に対する攻撃であることから許容されると考えてGoサインを出したのでしょう。
しかし、自虐というものは時と場合によって繊細に取り扱うべきものです。子供が着る服が、どこかとどこかの家庭の間で謙遜し合う場でしか目にされないものであるとは限りません。
時と場合を見計らって、何かしらの軋轢を緩和させるためにその瞬間に自分に対して発せられるものが自虐なのです。
時と場合を見計らわず、対象が自分でもないものはただの中傷です。
それを公開するような商品が1億5千万人という規模の人が訪問しうる場に突然置かれれば、ネガティブな影響を引き起こすことは必然でしょう。
それを許容できる人もいるということはもはや問題ではないのです。
自虐というのは、ある程度何かを持っている大人同士のコミュニケーションにおける緩和手段です。
それを、これから何かを得ていく子供には安易にさせないようにしたいし、自分自身も子供の前しないようにします。
参考文献:
子供に着せる服に書かれる言葉は一歩止まって考える
子供は自分で着る服を選べません。むしろ、自分の近くにある言葉を学んでいく成長中の存在です。
大人に面白Tシャツを着ている人がいるからといって子供にそれが適しているとは限りません。
むしろ面白さとは通常からの逸脱であることから、ネガティブなものであることが少なくありません。
子供が自分で選ぶようになるまでは、子供の目にする言葉はそのまま子供の糧になるのだと肝に銘じ、その場の楽しさだけに流されずに一歩止まって考える必要があると改めて実感しました。
また、子供が自分で選ぶようになっても、それにどのような影響があるのか気楽に話せる関係性を維持していきたいです。
あまり神経質になりすぎるのも良くないですが、はっきりとしたラインは持っておく必要があります。
今回の場合は親の悪口の代弁であり明確にラインを超えています。こうやって文章に起こすと相当に露悪的ですね。
しまむらグループはnot for me
今時点での対応だと、虐待に抵触し反社会的な作用のある商品をこれからも店舗に並べうる体制なのだなというイメージがあるためしまむらさんに行くことはありません。
子供が生まれ、しまむらに行ってみようとなっていた矢先に大変残念ではあります。
ユニクロの場合は世界展開の規模が大きいこともあり、そのような物が置かれにくいであろうという点は安心できるなという印象です。
まとめ
営利企業としての観点ではリテラシーの高い層は顧客として些細な存在で、切って捨てていいと考えていそうな対応だなというのが率直な感想です。
少なくとも今時点の対応を見ている限り。
まだ騒動が起きてから数日しか経っていないこともあるので、公式に今後が安心できるような表明をしていただけることを望んでいます。
炎上を自分なりにまとめることで、子供を育てていくうえで注意したいことにも気づけた点は良かったです。