wet実験を振り返って
はじめに
自己紹介
はじめまして!そして、この記事を読んでくださり、ありがとうございます!
iGEM-Wasedaの渡辺華(はんな)です。
iGEMではwetを担当しており、チームのSub LeaderとしてPETaseの機能検証を行う班(BIND-PETase班)のチーフを務めました。
この記事では、iGEMやwet実験に関して何にもわからない状態で入った私が、最終的にはwet実験をリードできるようになるまでの道のりについて、私の経験を元にお伝えできればと思います!
iGEMに入ったきっかけ
私は、2022年度のJamboreeが終わったタイミングである、1年生の秋に入会しました。iGEMのことは大学に入ったばかりの頃にSNSなどを見て知っていましたが、他のサークルを調べてたりとバタバタしていて、結局は入会しませんでした。ですが、2022年の秋にJamboreeの様子を耳にして、合成生物学の無限大の可能性に惹かれてやっぱり入りたい!と思い、入会しました。
iGEMに入るまでの実験スキル
私は小学生の頃から生物や化学など物理を除く理科が大好きでした。ですが、私の通っていた中高では授業では実験がほとんどなく、実験に関する知識や経験はほぼゼロでした。そのため、大学に入ったらたくさん実験をしたい!という思いが強かったです。大学の授業では、学科の専門実験で大腸菌への遺伝子導入など、iGEMにも関連する内容に触れる機会がありました。しかし、授業内での実験は各操作を1回試す程度で、自分で実験を計画したり、実験手技が十分身に付くレベルではなかったと思います。
そんな右も左もわからない状態だった私ですが、iGEMに入って段階的に実験スキルを身に付けて、現在もまだ未熟な部分は多いですが、最終的にはwet実験を計画し、リードできるレベルにまで成長することができました。
この記事では、基礎的な実験スキルを習得するまでの過程や本格的なプロジェクトに向けた実験をどのように行っていったかを紹介したいと思います。これからwet実験に取り組む皆さんにとってお役に立てれば幸いです。
実験スキルの習得まで
実験ゼミ(2024年1~2月頃)
合成生物学の基礎となるwet実験として、プラスミドコンストラクションや遺伝子導入~発現誘導といったものが挙げられます。wet実験においてこのような基本手技を身に付けることは不可欠です。そこで、これらの実験に関して、知識が豊富な先輩がwetメンバーに向けて実験ゼミを開催してくださりました。
プラスミドコンストラクションでは、その原理(欠失や挿入など)からプライマー設計で気を付けること、そして遺伝子導入~発現誘導では作成してくださったプロトコルを追いながら各操作の意味や注意点を詳細に詰めてくださりました。先輩がwetメンバーに鋭い質問をたくさん投げてくれたので、とても細かい部分まで意識して学ぶことができました。
ゼミでは本当にたくさんのことを教わりましたが、当時の私はその内容の10%も知らなかったと思います。ノートやプロトコルの余白に教わったことを細かく書き込み、わからない部分は質問しました。新しい知識をたくさん吸収できたことはうれしかったのですが、自分がいかになにも知らないかを痛感し、Jamboreeまでに本当に実験ができるようになるのかな…と大きな不安も感じました。ゼミ後は自分のメモを何度も読み返し、頭の中で実験の各ステップを追いながら、その意味まで説明できるように復習を繰り返しました。
基礎実験トレーニング(2024年2~5月頃)
2024年の2~5月頃、春休みや授業の合間を活用してたくさん実験に通いました。いよいよゼミで習ったことの実践です。私は特に春休み(2~3月)にたくさん通い、先輩や実験に慣れてるメンバーに操作を見てもらいながら、自分が主体となって進める形でたくさん練習しました。最初は操作が正しいのか自信が持てずに、手が少し震えてしまったりもしましたが、プロトコルを細かく確認したり、わからないことは先輩にすぐに質問し、ひたすら練習を重ねました。そして手技が次第に
身に付き、自信を持って操作を進められるようになりました。練習で使用したGFPの発現に成功したときはとっても嬉しかったのを覚えています。その時、実験スペースにいたwetメンバーで「光ってる光ってる!!」って大喜びした思い出があります。笑
このような形で基礎となる手技をwetメンバーで身に付け、Jamboreeに向けた本格的なプロジェクトの準備も開始しました。次のセクションではプロジェクトの実験の様子をお話します。
プロジェクトに向けた実験(2024年6月頃~)
毎日の実験
夏休みはとにかく実験の日々でした。メンバーで協力して作成したプロトコルを元にひたすら実験する日々です。私たちのプロジェクトでは合計で18種類のPETaseを使用しました。それぞれのプラスミドコンストラクションやそのためのプライマー発注、シーケンス解析など多くの操作が必要です。これに加えて、私たちのwikiのresultをぜひ見ていただけると嬉しいのですが、各PETaseの機能を多角的に評価するためにかなり項目の実験を行いました。そんな中、Jamboreeまで時間もなかったため、細かく計画を立てることを意識しました。その日にできたはずの実験をしないようなことがあると、その後の実験の進捗に大きく影響してしまうので、抜けや漏れのないような計画立てを徹底しました。週ごとに実験シフト表を作成し、日単位、時間単位で実験内容を決めていきました。
下の写真はある週の例です。毎日3~4個の実験項目を同時並行したり、1日に100本以上のチューブを使うこともあったりなど、毎日かなりの量の実験がありました。時間ごとに細かくやることを書き、wetメンバーを割り振りながら、実験を進めていきました。
そして、朝から夕方までエンドレスな実験は体力勝負なところもあります。私は朝から野菜をモリモリ食べ、ファミリーマートで大好きなカフェのAfternoon Tea監修のお茶を買って実験に向かいました。実験の合間で気軽にテンションをあげられるものを持っておくと実験も頑張れます。笑
実験で意識していたこと
私が特にwet実験で意識していたことは、実験の計画的な進行と丁寧な操作です。
実験の計画的な進行に関しては、前のセクションでお話したように、計画立てを徹底しました。また、重要な実験項目から優先的に進めることで、実験の進捗を確実に管理しました。また、実験項目が多かったため、wetメンバーで協力して進めることが非常に重要でした。各メンバーに適切に役割を割り振りながら、スムーズに進められるように心がけました。
また、丁寧な操作を行うことも心がけました。慣れた実験でもプロトコルを確認しました。また、重要な部分(例えば、大腸菌培養時のチューブの蓋の開け具合、PETaseの機能検証での基質添加後の混合など…)では、細部にまできを配り、サンプル間での操作による差がなるべく生じないように心がけました。
でも大変なこと、うまくいかないことも多い…
やはり生物実験であったり、初めて行う実験も多かったため、特に最初の方はうまくいかないこともたくさんありました。大腸菌の培養に失敗したり、PETaseの発現誘導をネガコンを取らずに行ってしまったり……などたくさんありました。大腸菌の培養速度は容器によって大きく変わるし、適切なコントロールなければ十分な解釈は難しいですよね。意外と論文には細かい条件が書かれていないことも多く、自分たちの実験での最適な操作を見つけるまでに苦労しました。このように、実験で一番大変なことの1つは様々な条件の決定の部分なのではないかと思います。
また、ある実験は溶媒添加の順番を間違えていたことで、なかなか適切な検証ができませんでした。すぐには原因がわからず、当時はかなり焦って不安で泣きそうにもなるくらいでしたが、1つ1つの操作を振り返りながらSeconary PIの小野寺先生に相談させていただいたり、メンバーと一緒に試行錯誤を重ねていく中で、やっと適切な検証ができたときは何よりも嬉しかったです!
Jamboreeまで時間がなかったため、最初の頃は実験は計画通りにいかないことが一番の不安でした。実験ががうまく進まないとかなり焦って落ち込んでしまいましたが、私の場合は過度に焦ると視野が狭くなってしまい、あまりいいことはありませんでした。途中からは計画通りにいかないことも多いとわかり、いい意味で心に少し余裕を持ちながら実験を進められるようになりました。実験を駆け抜けるにはメンタルも大事です。うまくいかないことだってあるよな…とあらかじめわかっておくことで、冷静に問題解決に取り組めるような気がします。動揺しすぎずに落ち着いて対処する方が、問題解決への近道かもしれません。
息抜きや気分転換も大事
前のセクションでお話したように、実験では複雑な操作や大変なことも多く、頭が煮詰まってしまいます。こんな時には、頭をスッキリさせることも大切です。そこで私は実験前にメンバーと一緒に朝活をしたり、好きなカフェで先行研究を読み直してみたりと、適度に息抜きもしていました。食べ物が癒しです。笑
もっと時間があれば…!
今回のプロジェクトでは時間に余裕がなくてできませんでしたが、もっと時間があればやりたかったことがいくつかあります。今後のチームにとって参考になれば嬉しいです。
1つ目は、大腸菌の培養条件です。同じ振盪条件でも大腸菌を培養する容器によって振盪度合は変わります。先行研究を参考にしながら、自分たちで条件を振って培養し、プロジェクトに最適な条件を模索できればなと思いました。
2つ目は、酵素の反応条件です。酵素の活性は温度、pH、酵素と基質の量、比率、反応時間など様々な条件に影響されます。iGEMでは私たちのように酵素を使ったプロジェクトを行ってるチームも多いと思います。私たちは一部の条件しか比較することができませんでしたが、他の条件変化やその組み合わせであらゆる検証ができると思います。最適なプロジェクトにするために、条件をwetで検証することは重要で、とても面白いことだと思っています!
3つ目は、コントロールの取り方です。単なるネガコンだけでなく、例えばIPTGを入れないネガコン、そもそもプラスミドを入れないネガコンなど複数の条件を考えることで、結果をより多角的に解釈することができ、さらに深い考察ができるのではないかと思います。
4つ目は、データ整理の方法です。データを整理する際に、最適な統計処理を用いて行うことで、より根拠のあるデータの解釈ができるのではないかと思います。
『基礎から学ぶ統計学』(中原治 著, 羊土社, 2022年09月13日発行)という本はわかりやすい!と、前にXで話題になっていて、これから私も手にしてみたい本です!統計の勉強はプロジェクトが決定する前からでも始められることだと思うので、ぜひチーム全体で勉強に機会を作るといいのではないかと思います!
さいごに
iGEMを振り返って
私がiGEMで経験したことは、唯一無二のもので、自分にとって大きな成長の場となりました。iGEMに入った当初は実験など何もわからない状態で自信がなく、Sub Leaderを任されたときは正直不安でいっぱいでしたが、たくさんのメンバーに支えられて今年度の大会まで頑張ることができました。iGEM-Wasedaに入れたこと、そしてこのプロジェクトに関われたことに本当に感謝しています。私はこれまで、大人数のチームで何か1つのことに向けて頑張ったり、また皆を引っ張っていく立場にはなったことはあまりありませんでした。今回、iGEMでチームとして学生が主体となって、たくさんのメンバーと関わりながら、チームで1つのプロジェクトを行うことの素晴らしさや難しさ、多くのことを学びました。
そして、Jamboreeでは、世界各国の熱意あふれるiGEMerと交流することができました。iGEMに魅力を感じた理由になった合成生物学の無限大の可能性を改めて感じ、また世界中にJamboreeまで一生懸命頑張ってきた仲間がたくさんいることに感動しました。ここまで、困難もたくさんありましたが、iGEMに入った当初から私にたくさんのことを教えてくれて、最後まで諦めず誰よりも熱心に取り組んだLeader、一緒にチームを支えてきたSub Leaderたち、そして一生懸命走り抜けてくれた豊かなメンバーたちに支えられてここまで来れたと思います。その分、Jamboreeでの感動も大きかったです。チームのメンバーや先生方、OBOGの皆さん、そして私たちの活動を支えてくださった全ての方々のおかげです。このような貴重な経験させてもらえて、本当に感謝しています。
そして、本場フランスのクロワッサンと念願のガレット&クレープ最高でした!!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
この記事がお役に立てればとってもうれしいです!
iGEM-Waseda 2024
Hanna Watanabe