Weekly iGEM〜全合成と生合成、なにが違うねん〜
今週は先週に扱った「有機化学と合成生物学の関わり」の章のところで書いた生物に合成させるか実験室で合成するかというところを深掘りしていく。
ちょっと合成生物学からずれますがご了承ください。
1,全合成とは?
あまり知られていないかもしれないので一応。
全合成とは、市販されている原料(安いものがbetter)から天然物や医薬品を合成すること。自然からは微量からしかとれない天然物を大量合成することを目標としている。抗がん剤成分のTaxolやフグ毒のTTXなどの全合成研究が特に有名。
2,生合成と全合成、それぞれのメリット
生合成では生物の代謝などの生体反応を利用して天然物を得る。天然物の構造はかなり複雑だ。当然これらを全合成する場合、金と時間と人、薬品を大量に使わなければならない。生合成はこれらの問題を解決できる。生物にとっては複雑な構造はへっちゃら!時間と手間、お金が減らせます。お高い薬品もそこまでいりません。利点がいっぱいだ。さらにキラリティー(不斉合成)の観点からも生合成の利点は大きい。
一方、全合成のメリットは、やり方次第で天然にあるもの以外も作れる。例えばこの構造のここを変えようとかできるわけ。そうすることによって、天然物の知られていなかった機能を見つけたりより美しい天然物の構造が出来ちゃったりできる。方法論の発展が早いのもポイント!全合成はここ数年で物凄い発展を遂げている。1報の論文からの特に発展が大きい分野だ。
3,まとめ
生合成は、生物を化学工場とみなし、全合成は実験室や実際の工場プラントから生み出す。
前回から数えて長くなったが、この2つのどちらかが優れているかということは分からないが、どちらも未来を作るために必要な技術だということを認識してほしい。
最後に自分の専門分野の宣伝をさせて欲しい。これまで100年近くにわたり様々な有機化学の反応や変換が生まれてきたがその意味や意義としては「より複雑な天然物を全合成するため」とも捉えられる。例えば玉尾晧平先生や鈴木章先生、根岸英一先生らの多くの研究者によって開発されたクロスカップリング反応はパリトキシンの不斉合成に使用されて以来様々な天然物全合成に用いられている。つまり全合成はこれまでの有機化学の集大成であるのだ。全合成を学ぶことによって、さらに有機化学を広く学ぶことが出来る。
全合成と生合成、この2つに詳しくなれば天然物のマスターになれるのではないか?? (井上翔也)
参考資料:
有機合成化学 vs. 合成生物学 ― 将来の「薬作り」を席巻するのはどっち? | Chem-Station (ケムステ)
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