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旅のモンタージュ 6 〜クロアチア
スプリット:リヴァプロムナード
世界中を旅したわけではないけれど、これまで訪ねた中で最も「異国情緒」を感じられた街は、クロアチアの海岸都市スプリットだ。世界遺産となっている。北に位置する首都ザグレブからレンタカーで南下し、湖沼で有名なプリトヴィッツェに一泊、そこからまた南へ移動した。対岸はイタリアである。古代ローマ皇帝のディアクレティアヌスが隠棲のために作らせた宮殿が有名で、城壁に囲まれた旧市街にも人が住み、保存状態の良い宮殿地下には土産物屋もある。宮殿と海に挟まれたプロムナードを歩いていた時、不意にその時は訪れた。
椰子の木が涼しげな葉陰を広げるベンチでくつろぐ人々。通り過ぎる誰彼の、漆黒の髪と彫りの深い面立ち。ねっとりとした、けれど決して不快ではない湿度を含むアドリア海からの風。6月の午後の長けていく時間、私は経験したことのない空気感に包まれていた。不思議なことに、なぜか懐かしさすら感じたのだった。
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私の子どもの頃は、まだ海外旅行が一般的ではなかった。そのような時代、テレビが外国についてさまざまな情報を与えてくれ、世界は広いのだと教えてくれた。「兼高かおる世界の旅」の兼高かおるは華麗だった。朝の番組で世界各国をレポートするケロンパ(うつみ宮土理)やケンケン(見城美枝子)にも、どれほど羨望を覚えたことか。いつか大人になったら、あのように色々な国で美しい自然や建物を見、人々と触れ合い、珍しくて美味しいものを食べてみたいと願ったものだ。
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スプリットのプロムナードで「異国情緒」や「懐かしさ」に胸をつかれたのはなぜだろうか。遠い昔から時間をかけて醸成された外国への「憧れ」。それまで訪れた三十余りの国々の自然・風土。歴史の深みを感じさせるスプリットの建造物が、潮風にさらされて湛える朽ちた美しさ。それらが全て混淆し、アドリア海を渡ってくる生暖かい風と特有の日差しと相まって、ちょうどあの時、あのプロムナードを歩く私に深い陶酔感を与えてくれたのだ。