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市役所の軒先を借りて
Tver配信の『神回だけ見せます!』という番組があります。タイトルどおりで、日本テレビでこれまで制作-放送されてきた番組の「神回」だけを選りすぐって、伊集院光さんとテレビプロデューサーの佐久間宣行さんがその神回を観るという番組です。
現在、シーズン3までTverにアップされています。1シーズン5話なので15話(15番組の神回)を観ることができます。
シーズン2の最終回、全体として第10話目に登場されたのが、伝説のテレビマン井原高忠さんという方。俺はこの番組を観るまで全然知りませんでした。
1929-2014 昭和後期-平成時代のテレビプロデューサー,演出家。
昭和4年6月6日生まれ。昭和29年日本テレビに入社。「光子の窓」「夜をあなたに」「11PM」などのバラエティー番組を制作。斬新なギャグ番組「ゲバゲバ90分!」で看板プロデューサーになり,53年制作局長。55年退職。ハワイにうつり,レビューの演出などを手がけた。平成26年9月14日死去。85歳。東京出身。慶大卒。
いやぁ、しびれました。まさに脳天を撃ち抜かれるようなという表現がぴったりな感じです。発想、実行、気構え、結果、それらが井原さん独特の江戸っ子口調で次々と仰天エピソードとともに語られていきます。もう3回も観ちゃいました。
↑こちらから観れますので、もしよろしければご覧ください。
井原商店の社長としてものをつくってる
この神回番組の中で、私にとって最もインパクトがあった、衝撃をもろに喰らった発言がありました。
「私は、自分でテレビ局を持ちたかった。でも、(テレビ局は)免許事業だし、お金もないから持てなかった。だから、日本テレビの軒先を借りて、井原商店の社長としてものを作っていた。その家賃として視聴率を差し上げてたんですよ」
ズドーーーン!
です。Blow my mindです。雷に打たれたような衝撃が走りました。
井原さんが日本テレビに入社されたのは昭和29年、1953年。ちょうど70年前のこと。今ほど、「起業だ、副業だ」と叫ばれていた時代ではなかったように思うんですよ。その時代に、社員ではなく、所属する会社の軒先を借りて、あくまで自分の会社の社長として仕事に取り組む。そして、借りた軒先の会社へは、「家賃」を”視聴率”で払ったというのです。
公・パブリックとは?
私は、福島県いわき市という人口30万人ほどの中核市の市役所に勤める公務員です。当然、いわき市、いわき市に暮らす市民の皆さんのために仕事をします。
ですが、公務員をやっていると、どこまでがいわき市やいわき市民の皆さんのためかの境界線が非常に難しく思ってきます。
境界線が分かりやすい仕事、分野もあります。例えば、住民票や印鑑証明などを発行するという市民課の窓口業務はまあ分かりやすいですよね。施設の維持補修・管理などもイメージしやすいです。
ですが、道路、橋、河川となると少しずつその境界線が淡くなってくる気がします。いわき市内の道路は、多くはいわきに暮らす人が利用しますが、必ずしもそうではないですよね。いわきを通って、別の地域に移動される方も使います。また、いわき市内には県が管理する県道、国が管理する国道も走っていますから、いわき市のことはいわき市役所だけが担っているわけでもありません。
私たち地方公務員のことが定めてある「地方公務員法」という法があります。その第30条に、「服務の根本基準」として、次のように書かれています。
全ての職員は、全体の奉仕者として公共 の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなけれ ばならない。
この地方公務員法の規定も「どこまでがいわき市民のためか」問題として私を悩ませます。
全体の奉仕者とは、文字通り全体なのか。それとも”いわき市”全体の奉仕者なのか。仮に後者だとしても、先にあげた道路の事例のように、いわき市”だけ”に奉仕するのが難しいものもあります。
じゃあ、もっと広いフィールドの公務員になれば?というご意見もあるかもしれません。
では、いわき市を飛び出て、福島県庁に入るとします。それでもフィールドがいわき市から福島県になるだけです。確かに面積や対象となる人の範囲は大きくなるかもしれませんが、それでも福島県の中だけ。
よし、では国の省庁に行ってみよう。すると今度は、○○省や△△省と領域分野に区切りが出てきてしまいます。確かに、広くこの国全体、国民全体へ奉仕できることになりますが、分野領域は限定されてしまいます。
いわき市だけに尽くそうとしても、それがいわき市だけにワークするとは限らないこともパブリックな仕事には多くある。より広いフィールドを求めても、県庁ならその都道府県の範囲内にとどまるし、国の省庁に行くと、今度は分野領域が限られる。
市役所に属しながら、当然、その属する市と市民の皆さんへ奉仕しながらも他の地域にもお役に立てることがあれば、直接的ではないまでも協力する。そして、全体としてよりより暮らしやよりよい未来を目指していく。
そういう気持ちやアクションがないと、これから人口減少、少子高齢化がさらに進むこの国にとっては、かなり厳しいことになるんじゃないかとここ何年かずっと考えています。
いわき市役所の軒先を借りて、イガリ部の部長として
そこで、冒頭に書いた井原さんの言葉がグッと胸に刺さったわけです。
何度も繰り返し書きますが、当然、一義的にはいわき市といわき市民の皆さんへ尽くす。これは当たり前のことです。
その上で、心持ちや気概としては、上司の言われたとおりだけをやる従僕な職員ではなく、いわき市役所の軒先を借りながら、お役に立てることがあれば、広くいろいろなところの力にもなる。いわき市としての業務の妨げにならない範囲で協力をする。
架空のイガリ部という部署のトップ、部長として責任と情熱を持ってパブリックに尽くす。この感覚であれば、いわき市役所にいながら、文字通り全体の奉仕者としても、自分の一度きりの人生を注ぐことができます。自分の心の持ちようとして頑張れそうです。
いわき市のためだけになればいいという視野の狭まり、いわき市のためだったらこれぐらいでいいかという妥協、もっとこうした方がいいと思うけど上司がこう言ってるからしょうがないかという諦念。
こういったことは、イガリ部の部長という意識と心構えを持てばなくなります。よしとすることはできません。
そして、それによって、もしよりよい仕事ができ、市民や関係者の皆さんから喜ばれたり、評価されるようなことがあったら、その評価は、軒先を借りてる「家賃」として、いわき市にお支払いできればと思います。
かっこいいことを書きましたが、現実の世界で、私はいわき市役所で出世することはありません。できません。現にもう何歳も下の後輩たちに役職で抜かれているからですw。
それでも、現実の人事評価に腐ることなく、一度きりの働く人生をより目一杯楽しみながら、少しでも世の中のためになるように働きたい。そのモチベーション、意識の持ちようとしての「軒先を借りる」「イガリ部の部長」。
新年度の気持ちいい春から、こんなイメージで仕事に取り組んでいこうと思います。
お読みいただきありがとうございました。
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