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平成24年度予備自訓練その1~いつもの会話~
2013.02.16
初出Jugemブログ『西雑司が谷遠足同好会日誌』異界洋香奈
![](https://assets.st-note.com/img/1712537492450-OT5xQmaG3r.jpg)
………
「もしもし?」
「伊凪か?」
「…あ、井苅くんか。何よ、こんな時間に…」
「いや別に、何となくな…」
「何となくって…久しぶりに電話かけてきてそれは無いじゃん」
「その…あの…まあ、伊凪は最近どうしてるかなって…」
「……」
「どうした?」
「…伊凪イナギって、もうあたしは伊凪じゃないんですからねっ!」
「だってさあ、昔からそう呼んでたからさ」
「いつまでそう呼ぶつもりなのよ」
「伊凪が駄目ならじゃあ、香南でいいか?」
「あんたバカぁ?ダンナの前でそう呼んでごらんよ、ぶん殴られるから」
「班長だったら大丈夫じゃねえの?」
「あのね、普通の人は奥さんを下の名前で呼ばれたらいい気分はしないと思うんだ」
「そんなもんかな?」
「普通そんなもんでしょ!?、あんたが特殊なだけで」
「ところで班長は?」
「今日は当直だから帰って来ない」
「そうか、それは大変だ」
「薄給なんだからしっかり稼いで貰わないと…」
「当直やったって手当なんて全然じゃねえか」
「それはそうだけど…」
![](https://assets.st-note.com/img/1712537503931-Z5sBaeMoLM.jpg)
「ところでさ、久々に電話してきたと思ったらもしかして予備自?」
「よくわかったな」
「井苅くん予備自の時必ず電話かけてくるじゃん、何で?」
「何でって言われてもさ、××駐屯地に来ると何となくお前と話したくなる」
「さっきから何となく何となくって結構失礼だよね?」
「すまんなあ、何となく謝罪しとく」
「ふざけんな。ところでさもう射撃やったの?」
「まだだけど、取り敢えずGICSS使って射撃予習やった」
「じっくす?なにそれ?」
「戦闘射撃シミュレータのこと。巨大なスクリーンがあってさ、プロジェクタで射場の映像を投射してさ、89にセンサーとか繋がってて撃つと弾痕が表示されるんだ」
「へぇー」
「銃の傾きから銃口の動きとか、引金や肩付けの圧とか撃つまでの時間とか全部わかっちゃうから面白い」
「ゲームセンターかよ」
「まあ、FPSみたいなもんだな。なんかコンピュータの不具合で装甲車が突撃してくる映像が突然表示されて『待て』がかかったけど撃っちゃって怒られてる奴がいたなあ」
「なんだかよくわからないけど…、それで井苅くんは当たったの?」
「いや…89の見い出し要領がまだよく慣れんので駄目だ。だってさ、89撃ったの去年が初めてなんだぜ?多分64だったらもっといい点数が出てる」
「そんなのいつからあったっけ?」
「昨年度の予備自では使わなかったなあ。まあ、最近じゃないの?どうせ活用するのは戦闘職種だけなんだろうし、我々も班長も後方職種だから縁が無いのかもよ?」
「あたしはもう関係無いんだからあんたたちと一緒にしないでよね」
「まあしかし、GICSS使えば上達しそうだけどね」
「…そんなゲームセンターに金かけるんなら班長の給料もっと上げてほしいわ」
「まあそう言うな。薄給でも確実に俸給は入るんだしよ」
「定年が早いからそれが心配なのよね」
「援護がなんとかしてくれるだろ。班長と一緒に予備自に出るのが今から楽しみだよ」
「その時は二人ともジジイだよ」
「お前こそババアだろ」
![](https://assets.st-note.com/img/1712537519178-NDzdEsgfWx.jpg)
「ところでさ、そろそろ消灯時間なんだ、もう切っていいか?」
「はあっ?そっちから掛けてきといて何言ってんの?!」
「そうだっけ?」
「そうだっけじゃねえよふざけんな!」
「すまんすまん」
「もう二度と掛けてくんな」
「わかったよ悪かったよ、じゃあまたな」
「おやすみ」
「…おやすみ」
「またね…」
………
(25.2.24)