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平成24年度予備自訓練その2~ミリ飯試食会~
2013.03.10
初出Jugemブログ『西雑司が谷遠足同好会日誌』異界洋香奈
![](https://assets.st-note.com/img/1712536457926-LQtmueZu8V.jpg)
「待ってましたよ師匠!」
着隊し健康診断を終え、迷彩服の襟に階級章を縫い付け、廊下に貼りだされた部隊編成表と日程表を確認していた井苅を呼ぶ声。
「ああなんだおまえか」
「今年度も一緒に訓練できてほんとは嬉しいくせに~。もうほんと師匠はツンデレだなあ」お馴染み革命少女こと青江麻央である。
「なんでか俺の名前が射撃編成表に載ってないんだが…」
「そんなことよりもご飯食べに行きましょうよ、もうお腹がぺこぺこで…」
いや、射撃検定って結構重要な事柄なんだけどな…、と主張する間もなく青江に腕を掴まれ食堂に向かって強制前進させられる井苅だった。
隊員食堂の列に並ぶふたり
。既に食事を終えた隊員が列の横を通り過ぎて行く
。見るからに予備自と思しき50代の隊員が食堂から現れた。
がっくりと肩を落としてその足どりはよろよろと今にも倒れてしまいそう。
「あ~あ何なんだよこれはよう~。唯一の楽しみだったのにいいいいい!」
街路樹にもたれて叫ぶとその予備自隊員はその場にしゃがみこんでしまった。
「おい、いったいなんなんだあれは?」
「たぶん師匠もおんなじ気分になると思いますよ」
確か今日のメニューは煮込みハンバーグと豆腐と若布の味噌汁とフルーツポンチだった。
通常昼食はA献立B献立に分かれ隊員たちはいずれか一方を選ぶことができるが今回はそれが無い。
嫌な予感がして盛り付けをしている白衣の糧食係の人たちの手元を注視し井苅は愕然とする。
「な、なんだありゃ!レトルトじゃねえか!」
自衛隊の食事は栄養士の指導の下に糧食班に勤務する隊員たちが作るのが本来である。
それはボリュームがありわりと美味であり、常備時代もそうだったが予備自時代の今でも大きな楽しみのひとつである。
それが何ということか。メインディッシュたる煮込みハンバーグは白いレトルトパックから絞り出され盛り付けされているのである。
「ありえない…」
「そう、ありえないですよねえ。あれどう見ても戦闘糧食のパック飯のハンバーグですよねえ」
更に驚くべきことに、フルーツポンチは市販の缶詰そのままに手渡されたのである。
「おい、ここでまともに作ってるのはご飯と味噌汁だけじゃねえか」
これはおかずが足りない。常備されているふりかけやお茶漬けの素か梅干しが必要だなあ、などと思うがそれが見当たらない。
「あれ?ふりかけは…」
青江が指差す先のテーブルに貼り紙が。『経費削減に付き年度末までふりかけ、お茶漬けの素、梅干しの使用を禁止します』
「う、嘘だろ?」
「いえ、現実です」
悲しそうにつぶやく青江。
「あたし、ふりかけやお茶漬け貰って帰ろうと思ってたのに…」
いや、それはいかんだろ。
「そうか、今日は日曜日で常備隊員は休日だから簡易にしただけなんだろ?」
青江は首を横に振る。
「あたし金曜日から出頭してますが、毎食こんな感じですよ」
「嘘だろ?」
「今朝なんてもっと酷いですよ」
土日の朝は食堂が開かず部隊配食が常である。
総菜パンふたつに牛乳だったり、おにぎりやお弁当にお茶だったりが通常である。「それがパックのごはんにレトルトの肉じゃがで、どう見ても戦闘糧食のパック飯なんですよこれが」ミリ飯マニアにはたまらないだろうが別に演習場に来ているわけでは無いわけで…。
「きっとあれ売れ残りですよ。PXで売ってるお土産用の戦闘糧食とラベルがおんなじなんです」
真相はさて置き、「これじゃ腹いっぱいにならんぞ」と不満を口にする井苅だった。
更に試練は毎食続くのだった。
朝食には納豆もしくは温泉たまごが付くのだがもちろんそんなものは無かった。
「温泉たまごをご飯に混ぜて食べるのが朝の楽しみだったんだが…」
「しかし朝からすごいですね。朝食とは言えひじきがメインディッシュってありえないです」
普段だったら小鉢に盛られるはずのひじきが平皿に盛られてる。
「小鉢はマカロニとニンジンのみのマヨネーズ和えってどんなセンスなんだろう」 …… 「もしかしてこの鯖の味噌煮も缶詰か何かなのか?」
「献立表によれば『鯖の味噌煮缶』と書いてありますので缶詰でしょうね」
……
「鶏の竜田揚げはさすがにレトルトじゃ無いな」「でもあとは千切りキャベツだけでおかず無しって残念なことです」「あとはフルーツの缶詰か…」
……
「ああっこの肉じゃが、いつぞやの朝食に出てきたのと味も見た目も全く同じですう」「裏でレトルトパックから出して盛り付けただけなんだろな」
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毎食この調子である。
ご飯と味噌汁だけは厨房で作っているのだが、あとはほぼレトルトか缶詰である。
しかもそれは戦闘糧食、あるいはそれを作っている食品会社のレトルト製品なのだ。
常備隊員さんは年度末までこれでは大変だなあと同情するふたり。どうりで普段よりも食堂の喫食者の人数が少なくPXのファミマや飲食店が盛況なわけだ。
「年度末で食堂の予算が足りなくなるっていったいどんな計算したんでしょうね。毎年こんなんなんですか?」
「いや、俺はこんなこと初めてなんだが…」
常備予備と足かけ十数年間自衛隊に籍を置く井苅も首をかしげる。
「正面装備にばっかりお金をかけて酷いです。労働者はここでも搾取されている!」
憤慨する青江。
「で、育ち盛りのあたしはもっと栄養が必要なのです。師匠ファミマで何かおごってください」
「予備自手当が出るんだから自分で買えよ」
(25.3.15)
(25.5.1写真追加)