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【読書コント】終わりよければ全て良しになるためには最初がとっても大事。
ここは冒険が始まる町。
数年前から悪の魔王に支配され始めてから世の中の治安が悪くなり多くの勇者がこの町から旅立って行った。成績優秀な勇者・武術マスターの勇者・勇者歴20年の勇者まで多くの勇者が魔王に挑んでいったが、誰一人この町に戻って来なかった。
そんな姿を見ていた私もついに18歳。勇者として旅立てる年齢になった。今日、冒険を始めるために相棒のモンスターと武器と道具一式を役所でもらい明日出発となる。今はその役所に向かっている最中だ。
私:あれっ?人が全くいない・・。私の他に9人いるはずなんだけどな・・
毎年、10人の若者が選ばれて勇者としてこの町を出発する。役所に集まる日と時間は全員一緒なので1人ぐらいいてもいいものだが・・・不安な気持ちで4階の勇者受付へと向かった。
私:明日出発の勇者なのですが・・・。
受付のおじさん:あれっ?明日ですか?
私:明日です!なので、今日の10時にここに来るようにって町内の回覧板で見てきました。
受付のおじさん:それ。たぶん先月ですね・・・。
私:えっ~~~。じゃあ、もう他の人って出発しちゃったってことですか?
受付のおじさん:そうですね。先月に10人全員出発してますね。
私:いや、私の分、誰か余分な人行ってますよ!
受付のおじさん:ちょっと待ってね。確認するね。
そう言って受付のおじさんは勇者のリストを確認して私の顔と見比べた
受付のおじさん:本当ですね。君の顔写真あるから、1人間違った人が行ってるね。あ~。80歳のおじさんが間違って入っちゃってるね。
私:いやいや、なんで80歳のおじさんが?
受付のおじさん:補欠として近くの公園で座っていたおじさんを急遽スカウトすることになったような気がする。
私:そうなんですね・・・。家まで呼びに来てほしかったですけど・・・。僕はもう冒険に出発出来ないんですよね・・・?
受付のおじさん:そうですね。また来年ということになります。
私:そこを何とかなりませんか?何としてでもこの世の中を救いたいんです。
受付のおじさん:すいませんが、役所の決まりなので・・・。
私は勇者として旅立つ期待に満ちた気持ちから一気に絶望へと突き落とされた。少し涙目になりながら、今の状況を改めて理解出来るように整理した。そんな姿を見た受付のおじさんが優しくこう語りかけてくれた。
受付のおじさん:どうしてもすぐ、旅立ちたいのかい?
私:はい。何でも良いのですぐに旅立ちたいです。
受付のおじさん:わかった。他の人より少し装備弱めにはなるけどさ、それでも良いなら準備は出来るよ。君の頑張りがないと少ししんどいと思うけど
私:わかりました。それでも良いので、準備してもらえますか?
受付のおじさん:今用意してくるから、ちょっと待ってて。
そう言って受付のおじさんは裏に準備しに行った。10分ぐらいした後に少し息を切らせながらおじさんは戻ってきた。
受付のおじさん:お待たせしました。まずは相棒のモンスターですね。
私:ドラゴンとか大きい動物とかですよね?それ次第で旅が大きく変わるという。
受付のおじさん:そうです。旅で一番大事な相棒ですね。
私:そのモンスターはどこにいるのでしょうか?1階とかに取りに行くのですか?
受付のおじさん:いや目の前にいるよ。
私:えっ?見えないんですけど・・・。
受付のおじさん:そう。その通り。
私:えっ。どういうことですか・・・。
受付のおじさん:基本、冒険は勇者とモンスターの2対2で戦わせて進んでいくので、勇者1人だけだと基本NGです。勇者法に違反するので。なので、いる感じで進んで行ってください。
私:いる感じで?とは。
受付のおじさん:「いけー!相棒!攻撃だー!」とか「相棒!守りを固めろー!」とかちゃんと声を出していってっ下さい。
私:そこに何もないのに?
受付のおじさん:そう。そうなるね。けど、相棒がいないと旅に出れないから。相手から「相棒いなくない?」って聞かれたら、真っすぐ相手を見つめて「いるよ。ここに相棒いるよ」って頑なに言って突き通してね。くれぐれもいないことはばれないように。いるって信じてあげて。
私:そうじゃないと冒険に旅立てないんですよね・・・?ならそれで大丈夫です。
受付のおじさん:良かった。次に武器だね。武器はこれだね。
そういっておじさんから渡されたのは手のサイズのナイフだった。
受付のおじさん:これね。勇者のフルーツナイフだね。
私:"勇者の"ってつければ何でも良いと思ってませんか?これで戦えますか?
よく見ると勇者のフルーツナイフにはりんごの皮がついていた。
受付のおじさん:これ毎年選ばれないから家でこっそり使っててさ。これ本当にリンゴの皮むきにちょうどいいサイズ感なんだよね。まぁ大体、勇者の剣とか勇者の杖とかが選ばれるからしょうがないんだよね。
そういって受付のおじさんはついていたりんごの皮を取り払った。
私:もう、武器もこれで良いです。最後に道具一式ください。
受付のおじさん:これは他のみんなと同じのあるからどうぞ。
私:ありがとうございます。
受付のおじさん:申し訳ないから、これ俺のだけどあげるよ。
私:これなんですか?
受付のおじさん:前、俺が着ていたジージャンとジーパン。
私:普通、勇者ってなんか勇者っぽい服装じゃないですか?
受付のおじさん:いやそれも今年分はないからさ・・・。
私:もう、こうなれば、服装なんてなんでも良いです。もっとおかしいところたくさん流してきちゃったんで。じゃあ、この装備で行ってきます。
受付のおじさん:必ず、魔王を倒してきてこの世の中を平和にしてね。
その言った受付のおじさんの目はジージャンとジーパン姿のフルーツナイフだけを持った勇者でも魔王を倒せると信じているようだった。その気持ちを信じて私は役所を出た。そしてすぐに私は冒険に旅立った。
その後、いないはずの相棒が雷を放てるように成長したこと、勇者のフルーツナイフが勇者の剣を真っ二つにしたこと、夜寝ている間にジーパンとジージャンだけ盗まれたのはもっと先のお話。