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11月18日、NOAH愛知県体育館大会で斎藤彰俊の引退試合が行われた。

引退する彰俊を介錯するのは丸藤正道。彰俊が長年にわたり三沢光晴という大きな存在の背中を追い続けてきたからこそ、三沢を深く知る丸藤が介錯人に選ばれた。おそらく、もし三沢が生きていれば、自らその役を担ったことだろう。その姿を見てきた丸藤は、三沢から男気というものを学んできたのだ。

試合前、彰俊は三沢のガウンを手にして登場した。そのガウンには「自分の最後を三沢に見届けてほしい」という強い思いが込められていた。そう、このリングには三沢光晴がいる。三沢が彰俊の最後を見届けているのだ。

試合では、彰俊が全てを出し切るようにデスパニッシュやデスクロークを繰り出し、アイアンクロースラムも決めた。NOAHでの長いレスラー生活の中で、彰俊は三沢光晴という十字架を背負うだけでなく、タッグパートナーであり、惜しくも急逝したバイソン・スミスというもう一つの十字架も背負っていた。

そんな彰俊を介錯したのは、丸藤の中に息づく「三沢」だった。左右エルボーからローリングエルボー、そしてランニングエルボーという三沢殺法。彰俊のバックドロップの後に決まったこの技には、2009年6月13日の広島での出来事が重なる。本来ならば、彰俊のバックドロップの後に三沢がエルボーを繰り出すはずだったのではないだろうか。そのハプニングから15年、彰俊、丸藤、そして三沢がこの試合でその時を完結させたのだ。

引退セレモニーの後、彰俊は自分の家族を公開した。これまでプライベートを明かさなかった彰俊にとっては非常に珍しいことだ。一人で全ての十字架を背負ってきたかのように見えた彰俊だが、その背後には家族の支えがあったのだろう。

彰俊は最後に「俺は引退してNOAHのプロレスファンとなる、そうなって一番最初に見れるのがGHCなんて最高じゃねえか! リングを降りるまではプロレスラー。見得を切らせてくれ。倒れぬ、疲れないのがプロレスラーだ! 方舟に乗りし人生、わが心、夜空に輝く月に一点の雲なし」とメッセージを残し、言葉通りに自分の脚でリングを降り、長年背負ってきた十字架を降ろして、NOAHを去っていった。

波乱万丈だったNOAHでのレスラー人生には一点の曇りもなく、その姿は堂々として誇らしげだった。それは、まさにプロレスラー・齋藤彰俊の終焉に相応しいシーンだっただろう。三沢もきっと天国で喜んでいるに違いない。

メインイベントとして行われたGHCヘビー級選手権、清宮海斗 vs 杉浦貴。試合は清宮リードで進んでいたが、試合中に思わぬハプニングが発生する。

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