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臓器提供意思表示方式と臓器移植法

脳死とは臓器移植を行うために作られた新たな「死」の概念であり、臓器移植のドナー(提供者)となる方が脳死と判定されることは「死」という概念(心臓死・脳死)の記事で言及しました。

今回の記事では臓器提供の意思表示や臓器移植法について説明していきたいと思います。

臓器提供の意思表示の方式は大きく分けるとオプトイン型(承諾意思表示方式)とオプトアウト型(反対意思表示方式)に分けられます。

オプトイン型(承諾意思表示方式)とは本人が生前に明示的に臓器提供の意思表示をしている場合に臓器移植を行うという方式です。アメリカや日本はオプトイン型を採用しています。

一方で、オプトアウト型(反対意思表示方式)とは本人が生前に明示的に臓器提供拒否の意思表示をしていない限りは臓器移植を行うという方式です。フランスやスペインはオプトアウト型を採用しています。

オプトイン型では臓器提供をしたい人のみが臓器提供を行うというイメージで、オプトアウト型では臓器提供をしたくない人以外は臓器提供を行うというイメージです。

臓器移植に関心を持たない人は多く、臓器移植に関して明確に自身の意見を持っているという人は少ないのではないかと思います。自分もその一人です。自分が死んだ後のことだし、臓器移植が身近な話題ではないということもあって中々実感が湧かないんですよね。臓器移植のドナーになったら死後も人の役に立てるという気持ちがあったりするものの、結局そのときに自分は死んでいるわけだからなぁとか思っちゃうわけなんですよね。

運転免許証の裏には臓器提供の意思表示を記入できる欄があります。このようにやろうと思えば簡単に意思表示ができるものの、当事者意識がないということもあって臓器提供の意思表示をしていないという人は多いのではないでしょうか。

話を戻しますが、オプトイン型かオプトアウト型かというのは私のような臓器提供の意思表示を行わない人をドナーにできるかどうかという違いが出ます。

オプトイン型では臓器提供をしたいという意思表示をしている人しかドナーになることができないので臓器提供の意思表示をしていない人をドナーにすることが出来ません。一方で、オプトアウト型では臓器提供をしたくないという意思表示をしている人以外はドナーにできるので、臓器提供の意思表示をしていない人をドナーにすることが可能となるです。

先ほど述べたように世の中の多くの人は臓器提供の意思表示を行わないのでオプトイン型を採用するかオプトアウト型を採用するかということは臓器提供者(ドナー)の数に大きく影響してくるわけなんですね。

ここで我が国日本においてですが、日本ではオプトイン型が採用されていて、加えて本人の意思表示のみならず遺族の承諾も必要とする世界の中でも条件が極めて厳しい臓器提供制度となっています。

日本では臓器提供の意思表示に関して遺族の意思が強力に働くような仕組みとなっていて、本人が生前に臓器提供の意思表示を行っていたとしても遺族が臓器提供を望まなかった場合は臓器提供を行えないようになっています。

つまり、本人の意思よりも遺族の意思が優先されるという仕組みになっておりこれは世界の中でも珍しい臓器提供制度だそうです。

オプトイン型はさらに「本人が生前に臓器提供の意思表示を明示的にしていない場合に遺族の承諾によって臓器移植を行うことができるかどうか」という観点で2つに分けられます。

遺族の承諾のみでは行えないのが「せまいオプトイン型」であり、遺族の承諾のみで行うことができるのが「ひろいオプトイン型」です。

日本は改正臓器移植法施行前は「せまいオプトイン型」でしたが、施行後に「ひろいオプトイン型」になりました。

まとめると改正臓器移植法施行後の日本においては①本人が臓器移植を望んでいても遺族が承諾しなかった場合に臓器移植を行えない②本人が臓器移植の意思表示をしていなくても遺族が臓器移植を承諾した場合に臓器移植が行えるので、ほぼ遺族の意思によって最終的に臓器提供が行われるかどうかが決められているというのが日本における状況となっています。

「せまいオプトイン型」から「ひろいオプトイン型」になったことで脳死ドナーの数は増えましたが、ドナー数の絶対的な不足が生じているという状況は変わっておらず、日本で臓器移植を希望している人が約15000人いるのにも関わらず1年間で臓器移植を受けることができる人数は約400人しかいません。

ドナー数の絶対的不足は日本がオプトイン型を採用しているゆえに起こる限界であり、オプトアウト型を採用している国ではドナー数の不足はかなりマシになります。

続いて臓器移植法に関して詳しく説明していきたいと思います。

臓器移植法は1997年に施行された法律であり、内臓(心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸)と眼球(角膜)の移植について定めています。

臓器移植法では本人の書面による意思表示に加えて家族に口頭で同意の確認をするという「せまいオプトイン型」の臓器提供方式となっていました。

本人の書面による意思表示は民法上の遺言可能年齢である15歳以上を有効としたので、15歳未満の脳死状態の子供は臓器移植のドナー(提供者)になることができませんでした。

考えてみると1歳の子供が本人の意思で書面で意思表示をするなんて無理じゃないですか。

このために脳死ドナーからしか提供されない心臓を必要とする子供は困ったことになりました。日本には当時子供の脳死者ドナーがいなかったわけなので、心臓を移植してもらうことが不可能だったからです。

このような危機的状況に置かれた子供たちは海外に活路を見出すほかなくなりました。今でも海外移植を行うために募金を呼び掛ける活動が行われますよね。現在ではドナー数が不足しているものの子供の脳死ドナーはいますから可能性はゼロではないのに比べて、当時は可能性がゼロだったので海外移植しか選択肢がなかったんですね。

海外移植は高額であったり危険であったりとデメリットがたくさんあったので当時大きな問題になりました。また、海外移植によって日本が他国における臓器移植の機会を奪っているということが問題にもなったりして、日本は対応を迫られることになります。

このような背景から2007年に改正臓器移植法が施行されました。

改正臓器移植法では本人の意思が不明な場合(拒否の意思表示がない場合)に家族の書面での同意によって臓器移植を行うことが可能となりました。

これによって意思表示を行うことができなかったために脳死ドナーになることができなかった子供が家族の書面での同意によって脳死ドナーになれるようになったのです。つまり、15歳未満の脳死者の臓器提供が可能になりました。

また、改正臓器移植法では親族に優先提供するということが可能になりました。

臓器移植法が改正された背景には海外移植という大きな問題を是正するという目的があったということを知っておくと理解しやすいのではないかと思います。

参考文献
臓器移植法の改正とそれに伴う省令およびガイドライン変更の要点

https://www.jsicm.org/pdf/zoki100803.pdf

臓器移植法改正をめぐる議論の批判的考察
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jabedit/20/1/20_KJ00007630193/_pdf/-char/ja

小児海外渡航心臓移植の問題点
https://jspccs.jp/wp-content/uploads/j2206_639.pdf

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