COVID-19肺炎について
今回は世界を大混乱に陥れた、COVID-19による肺炎の診断と治療についてまとめさせていただきたいと思います。
医学生にとって、教科書や成書、国家試験対策にはまだ新しくて記載がないCOVID-19肺炎の治療についてまとめていきたいと思います。
今回COVID-19についての疫学・感染様式などについては省略させていただきます。主に臨床像、診断、治療についてまとめていきます。
臨床像
SARS-CoV-2 に曝露されてから発症するまでの潜伏期は約 5 日間,最長 14 日間とされてきたが,オミクロン株の感染では短縮される傾向にあり,中央値が約 3 日とされています.感染後無症状のまま経過する者もCOVID-19の特殊なところで(無症状病原体保有者)その割合は,複数のメタアナリシスで 20 ~ 40 % と報告されています。
発症時の症状は発熱(52 %),呼吸器症状(29 %),倦怠感(14 %),頭痛(8 %),消化器症状(6 %), 鼻汁(4 %),味覚異常(3 %),嗅覚異常(3 %),関節痛(3 %),筋肉痛(1 %)の順に多くみられた.インフルエンザや普通感冒と比較して,鼻汁・鼻閉は少なく,嗅覚・味覚障害の多いことが COVID-19 の特徴と考えられてきたが,オミクロン株の感染では,ウイルスが上気道で増殖しやすい特性に伴い,鼻汁・鼻閉,咽頭痛などの感冒様症状の頻度が増加した。
これらの上気道症状の出現や多彩な症状は細菌性肺炎などと異なる。細菌は感染性心内膜炎や粟粒結核などの全身性の感染を除いて、局所感染が一般的であります。そのため、細菌性の”肺炎”では肺の局所感染であり、発熱、咳嗽、呼吸困難、喀痰、胸痛など、肺・胸症状があり上気道症状は肺炎らしくない症状となります。
SARS-CoV-2 はまず鼻咽頭などの上気道に感染すると考えられる.多くの患者は発症から 1 週間程度で治癒に向かうが,一部の患者では感染は下気道まで進展し、ARDSという重度の肺障害にも至る。また血栓塞栓症が COVID-19 の特徴の一つと考えられ、死因ともなりうる。
これはまた通常の市中肺炎とまた大きく異なる特徴であります。
高齢者では発熱を伴わず,せん妄を認めるなどの非典型的な症状を呈することがあり注意を要する。
重症化リスク因子として下記が挙げられる:
・65歳以上の高齢者
・肥満 (BMI≧30)
・心血管系
ー 脳血管疾患、心不全、虚血性心疾患、心筋症
・肺疾患
ー 間質性肺炎、肺塞栓症、肺高血圧、気管支喘息、気管支拡張症
COPD、結核、嚢胞性線維症
・肝疾患
ー 肝硬変、非アルコール性脂肪肝、アルコール性肝障害、
自己免疫性肝炎
・慢性腎臓病
・精神疾患
ー 不動、気分障害、統合失調症、認知症、身体・精神障害
・妊婦・産褥
・ダウン症
・免疫不全患者
ー HIV患者、臓器・幹細胞移植患者、免疫抑制薬投与患者、
原発免疫不全症患者
診断
核酸検出検査
SARS-CoV-2 に一般的にはPCRによるNucleic Acid Ampiflication Testing (Reverse Transcriptase PCR)がゴールドスタンダードである。
これは特異的なRNA 遺伝子配列を逆転写し増幅し、これを検出する検査法である。感度特異度共に高く広くパンデミックの際は利用された。短所として、検査時間(turnaround time)が長く、専用の機器および熟練した人材が必要、高コストなどがあげられる。またSARS-CoV-2 感染の既往が直近3ヶ月以内の場合、死んだウイルスのviral shedding による偽陽性反応として、新たな感染か過去直近感染のウイルスの残りを検出しているのか区別できない。これはPCR反応の陰性結果を隔離解除にも使えない理由の一つにも繋がります。
リアルタイム PCR:ウイルスのコピー数の比較や推移が推定できることなどから信頼性が高い.
LAMP,TMA 法等の等温核酸増幅法:簡便な機器のみで実施でき、リアルタイム PCR と比較して感度は落ちるものの、反応時間が 35 ~ 50 分程度と短い。反応によって生じる濁度や蛍光強度を測定する機器では、検体種類により偽陽性が生じる可能性がある。
検体材料・採取:鼻腔、鼻咽頭、口腔咽頭、唾液、喀痰、挿管チューブ吸引、BALF
抗原検査
定量検査:ルミパルス®︎ 判定まで15分
定性検査 (一番普及している):エスプライン®︎、クイックナビ®︎ 判定まで30分
これらはturnaround time が短く迅速、PCRより低コストであるが特異度に劣り、PCRの方が重要視されている。そのため有症状者の早期診断には有効です。病院の方針により、隔離解除に抗原検査を利用されることもあります。
治療
そもそもウイルス感染症の治療は原則対症療法となります。よく考えてみましょう。一般の風邪 "common cold" は特効薬をもらわずとも、自然と治ります。もちろんクリニックなどに行けば解熱薬など処方してもらえることもありますが、基本的には対症療法で乗り切るのです。そのなか医学生として例外的にまず覚える必要があるのはアシクロビルという抗ウイルス薬は口唇ヘルペスなどに著効します。
(ちなみに少し話脱線しますがアシクロビルは英語表記に戻すと"Acyclovir" です。Syllable ごとに分けると"A-cyclo-vir" です。ウイルスは英語表記で"Virus" ですね。そうです!抗ウイルス薬には"Vir" がどこかに隠れていることが多いのです。医学生のへの助言として、薬剤はカタカナを英語表記に直すのおすすめします。見方が変わり覚えやすくもなります。)
治療において重要なことは、PCR陽性者の全員に治療薬の使用は必要はないのです。 自分も一度コロナ禍でワクチン接種していたものの、Sars-Cov-2に罹りました。しかしワクチン接種していたためか、数日の発熱と咽頭痛があること以外は解熱鎮痛剤のカロナールのみと水分栄養補給で自然と改善しました。よって感染力が強いSars-Cov-2といえども、やはりウイルス対策は基本的にはワクチンと感染対策をした上で、発症したら対症療法なのです。
しかし、治療は全く必要ないのかと言われると、重症化コロナに対してまた重症化予防には治療薬は必要となります。
治療薬は大きく3つのカテゴリーに分類され下記の薬剤が入ります:
・ウイルスの侵入の防止し、発症早期に使う
ー モノクローナル抗体 カシリビマブ・イムデビマブ・ソトロビマブ
・ウイルス増殖の抑制
ー レムデシビル、モルヌピラビル、バクスロピド
・ウイルスによる炎症の抑制
ー ステロイド(デキサメタゾン)、バシリチ二ブ、トシリズマブ
これらの治療薬の優先順位、使用時期は臨床判断となりますが、臨床応用について少しまとめていきます。
重症化リスクがある、ワクチン未接種、軽症者にはまず:
1. ニルマトレルビル/リトナビル [パキロビッドパック] を検討します。軽症者にとって経口薬は使いやすくとして最も重症化予防に有効性が示され、発症から3日〜5日以内の投与することで98%死亡率を減少させることが示されている。(図1)
しかし薬物相互作用が多く、高度腎障害患者では禁忌でハイリスクに当たる高齢者には使いづらい。軽度であれば用量減量して使用は可能である。(図2)
2. 次に検討するのはレムデシビルの点滴です。最低3日、点滴が必要であり、過敏反応が出現しないことを確認するために点滴後1時間以上の観察が必要ということで軽症者には使いづらいデメリットがある。ニルマトレルビル/リトナビル [パキロビッドパック]の次に有効性が報告されており第二選択となる。(図3)(図4)
3.最後に、ニルマトレルビル/リトナビル [パキロビッドパック]の内服、レムデシビルの点滴が使用できないまたは禁忌の場合はモルヌピラビルの内服を検討する。催奇形性が示されているため、妊娠可能な女性に対しては,本剤投与中および最終投与後,一定期間は適切な避妊を行うよう指導する必要がある。(図5)
[補足]
最後にウイルスに対する炎症を抑えるためにはステロイドについて補足しておきます。
軽症コロナ患者への全身ステロイド療法は有害性が示されており、軽症段階では推奨されていない。一般的に重症コロナ患者のみに有効とされている。(図6)
まとめ
これらはNIH National Institute of Health Guideline にも推奨されており、厚生省が出されている、「新型コロナウイルス COVID-19 診療の手引き 第10版」
にも記載されています。軽症コロナ患者への薬剤適応の優先順位は臨床でも応用されている。(図7)(図8)
参考文献
https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2021436
https://www.acpjournals.org/doi/epdf/10.7326/ANNALS-24-00464
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2118542
https://www.mhlw.go.jp/content/001136720.pdf