医学部小論文テーマ集⑩・『安楽死と尊厳死の違い』について
医学部の小論文では、頻出テーマがあります。年度によって新傾向の出題がされることはありますが、まずは頻出テーマに対する論述には問題なく回答できるように、基本的な知識を身に付け、文章を書く練習をしておくことが大切です。
以前、出題されるテーマをまとめた記事を書きましたが、今回からはそれぞれの項目について詳しく解説していきます。
本記事は、『⑩安楽死と尊厳死の違い』についてです。
安楽死と尊厳死の違い
安楽死と尊厳死はどちらも死を早める行為ですが、違いはどこにあるのでしょうか?
安楽死は、不治の末期患者の耐えがたい苦痛の除去(身体的な苦痛の除去)を目的としています。手段は、積極的方法、消極的方法、間接的方法の3つがあります。
尊厳死は人間らしい死の実現を目指すもので、精神的な苦痛を取り除くことを目的としています。方法は、延命治療の拒否や中止です。
表にまとめると、以下のようになります。
両者は、重なり合う部分もありますが、原則としては違う概念です。
安楽死は正当か?
結論としては、SOL(生命の尊厳)を前提として、患者の意志に基づきQOL(生命の質)の向上を目指す場合は、正当な医療行為として認められる可能性があります。つまり、患者が苦しんでいてかわいそうだからという理由で医師が勝手に安楽死を行うというような、患者の意志に基づかない安楽死は正当な医療行為としては認められないということです。
①積極的方法、②消極的方法、③間接的方法の3種類の手段があるので、それぞれについて正当かどうか考えていきたいと思います。
①積極的安楽死
致死性薬物を投与するなどで、患者の生命を絶つ場合。
→法的側面、医療倫理的側面から検討することになります。
法的側面としては判例(東海大学附属病院安楽死事件)があり、この裁判で示された条件が満たされていれば正当な医療行為であると法的には認められます。
しかし、医療倫理の観点からは、SOL(生命の尊厳)の知見から安易に生命を絶つ行為を認めるべきではありません。また、尊重すべき患者の自己決定権は治療に対する選択権であるため、生命処分権は含んでいません。医療倫理の観点からは積極的安楽死は正当な医療行為とは認められません。
よって、原則、積極的安楽死は認められないものとなります。
②消極的安楽死
苦痛が激しく、QOLの向上を目的として延命治療をしない、もしくは辞める場合
③間接的安楽死
鎮痛剤での緩和ケアが、結果として患者の死を早めることになる場合
→②、③は患者の意志のもとにあるため、SOL(生命の尊厳)を前提として、患者の意志に基づきQOL(生命の質)の向上を目指す場合のみ正当であると認められます。
しかし、SOL(生命の尊厳)が原則であるため、医師は安易に安楽死をするべきではありません。
次回は尊厳死について詳しく解説します。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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