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16時にオープンして、18時までの2時間、来てくれたお客さんは1人だった。

注文してくれたチョコレートケーキとホットコーヒーをテーブルへことりと出して、仕込みをいつもより多くこなし、キッチンよりももうひとつ低い位置にイスを出して座る。お客さんと背中合わせになるような向きで買ったばかりの本を開いた。

店内たった1人のお客さんは壁に向かったカウンター席でスケジュール帳を開いたり本を読んだり、ちょっとずつちょっとずつチョコレートケーキを食べたりしながら過ごしていた。

18時、席を立ち上着を着はじめた動作で私は読んでいたページを開いて机に伏せ、レジに立つ。
だあれも来ず、とても静かで、静かすぎて、居心地悪くはなかろうかと心配していたのだけど、
「ポイントカード、いただけますか?」
その一言に、私はホッとし、嬉しい気持ちになる。
「おつくりして、いいのですか。ありがとうございます!」と笑顔でポイントカードを渡した。

(お客さん来ませんなあ)と焦らなきゃいけない気持ちとはうらはらに、2時間、私はすごく居心地が良かった。
私も、だと嬉しい。

波があって、いいと思う。
海にも、店にも、気持ちにも。
穏やかな日があって、
怖くなるくらいに静かな日があって、
慌ただしくて目が回る日があって、
リズム良く気持ち良い日があって、
とびきり幸せを感じ無敵だと思えてしかたない時と
悩んで落ち込んでどうしようもない時。
読みたくても読めない、
そんな波があってもいいと思った。

昨日買った本は今日の静かな2時間で1冊まるまる読み終えた。まだまだ寒い火曜日の夜だ、きっと明日も穏やかで静かなのではないだろうかと閉店後にひとり、明日の波を予想してみる。

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