ハズバンダリートレーニングってなに?

今回は、ハズバンダリートレーニングについて、私が理解していることを紹介したいと思います。

最近、各地の動物園や水族館が、ハズバンダリトレーニングの様子をSNSなどで発信しています。ここ2,3年の間に随分とハズバンダリートレーニングを実施する園館がずいぶん多くなったと思います。

今回参考にした論文は、
伴和幸氏が2018年に発表した「ハズバンダリートレーニングを用いた研究の可能性」です。また、大牟田市動物園の河野さんにも色々と教わる機会があったので、教わった内容も合わせて紹介しています。

ハズバンダリトレーニングを直訳すると「飼養訓練」と訳せるでしょうか。その目的は、飼育動物の健康管理を行うために、動物にとって最低限のストレスで様々な健康診断を行うことです。
副次的な効果として、飼育動物の研究や獣舎の出入りの円滑化、エンリッチメントの提供、来園者への教育的役割、種の保存の貢献といったものを当該論文で挙げています。

トレーニングの様子は一動物園ファンとしてもとても興味深いですし、何より飼育員さんにとっても魅せるパフォーマンスになりますので「娯楽」的要素も高くなるでしょう。しかし、トレーニングの本来の目的は飼育動物の「健康管理」です。エンリッチメントと同様に飼育動物のために実施される筈ものが、来園者の「娯楽」のためだけに実施されるようになると、それはただの動物を用いたショーに他ならないと思います。

参考にした論文では「行動分析学に基づき科学的にハズバンダリートレーニングを実施する」と書かれています。

行動分析学とは、文字通りヒトや動物の行動を分析する学問で、心理学のジャンルにあります。行動分析学の基本理論の一つに「オペラント条件付け」があります。オペラント条件付けとは、大雑把に説明すると、ある刺激(例えば餌を見せる)と行動(例えば口を開けてもらう)を関連づけ、刺激を与えればその行動を引き出せるように学習してもらうことです。この例では口内チェックという健康診断を餌を見せることで引き出しているので、ハズバンダリートレーニングの一種となります。

飼育員が望む行動を飼育動物に実施してもらうために協力してもらう。そのご褒美として餌を用意すると捉えるのが良いと思います。また、一連の行動のうち、どの行動がご褒美の対象となるかを飼育動物に学習をしてもらうために、笛、クリッカー、指示棒、飼育員さん自身の声や指などを利用して、目的とする行動をとったタイミングを飼育動物に伝えます。このタイミングを知らせるための道具や動作を、強化子といいます。もちろん、ご褒美となる餌も強化子の一つとなります。笛、クリッカー、指示棒を強化子として用いる園館が多いのは、複数の飼育員さんが携わっても、同じ指示を飼育動物に伝えることができるためです。

ハズバンダリトレーニングを用いると健康診断のための様々な取り組みを、飼育動物が受けるストレスを最小して実施することができます。取り組みの例として、体重測定、採血、採尿、血圧測定、爪切り、ブラッシング、マッサージ、削蹄、エコー検査、レントゲン撮影などなど。例外として、麻酔注射だけは、ハズバンダリトレーニングを利用することができません。なぜならば、麻酔をかける前は、誤嚥(食べ物が逆流して肺や気管に入ること。肺炎の原因や最悪窒息の危険があります)を避けるために、絶食を行います。ご褒美として餌を与えることが不可能なため、ハズバンダリトレーニングにはならないのです。
また、参考にした論文にも記されていますが、「爪切り」は、本来野生下に生息する動物には必要がないものです。飼育動物に「爪切り」が必要となるのは、その飼育動物が野生下で本来行っている行動ができていないことの現れでもあるので、「爪切り」ができるようにトレーニングを実施するのではなく、野生下と同様の行動ができるように展示施設を改善することが、園館のとるべき行動だと思います。ただ、野生下と違い、飼育下では、動物が長命化しやすく、行動が覚束なくなった高齢動物のケアのために「爪切り」が必要となることもままあるでしょう。

とべ動物園の機関紙「とべZOO 2018 Vol-30 No.4」にもハズバンダリトレーニングの説明と、トレーニングの様子が分かりやすく記されていました。私の説明がどれほど拙いかよくわかります。
https://www.tobezoo.com/zoofriends/book/30-4/vol30-4small/vol30-4small.pdf

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