俺ならこう書く!『仮面ライダーエグゼイド』
五年前、爆発的に、そして世界同時多発的に流行した感染症は、病原体や感染経路が不明のまま一週間で終息した。その一週間で死亡した感染者は五千万人以上にのぼるといわれている。
その後の研究で、この感染症の病原体はコンピュータ・ウィルスが変異したものだとわかった。
そのコンピュータ・ウィルスはPCやゲーム機やスマートフォンなどから人に感染し、人体ネットワークの中で増殖、発症する。
病原体がコンピュータ・ウィルスのため現代医学のいかなる医療アプローチも通用しない。かつ、人体に侵入したコンピュータ・ウィルスを排除する術を人類はまだ持っていなかった。
この史上最凶の敵を人類は──バグスターウィルス──と名付けた。そのキャリア(発症せずにウィルスを体内に所持している者)は三億人とも三十億人ともいわれている。
現在。あるゲームイベントの会場。
『マイティー・アクションX』トーナメント大会の決勝戦であるにも関わらず、観客たちは静まり返っていた。
『マイティー・アクションX』は横スクロールのアクションゲームで、プレイヤー二人が得点とタイムで競い合う。
以前から「天才」の異名を持っていたゲーマー、通称「M」が順当に決勝まで勝ち上がった。
観客たちはMがノーミスで難易度の高いプレイをしつづけていることに見惚れていた。
Mはラスボス「ソルティ」も無傷で倒した。そして圧倒的な大差をつけて優勝を決めた。
観客はいまだ静寂。だいぶ時間が経過して拍手がひとつふたつ、パラパラと起きた。そしてそれはテレビのボリュームを上げるように徐々に増えていき、最後には大歓声となって会場の中に渦巻いた。
Mはゆっくりと席を立ち、観客を睥睨すると、両手を上げて歓声に応えた。
聖都大学付属病院。
宝生永夢は駆け出しの研修医であり、先月この病院の小児科に配属されたばかりだった。しかし連日の失敗続きで外来看護師たちの間で「こんなダメダメ研修医いまだかつて見たことない」と酷評されていた。ついさっきも診察に来た悪ガキに罵倒され、永夢は半泣き状態でデスクに突っ伏している。
ベテランの看護師長も頼りない永夢に呆れていた。
「宝生先生、そんなんじゃ困りますよ。次の患者さんが待ってるんですから」
「……」
看護師長が深い溜息をついたとき、永夢のデスクの上にある内線電話が鳴った。着信音が緊急用のものだった。永夢はガバッと体を起こすと受話器を取った。
「はい……はい……わかりました。すぐ行きます」
永夢は受話器を置くと、
「師長すみません。ちょっと席を外します。あとお願いします」
「お願いしますって。そんな乱暴な! 院長に報告しますよ!」
「急患なんです! それに院長からは許可もらってますので!」
と言って診察室を出ていった。
この聖都大学付属病院の地下には一部の者しかその存在を知らない施設があった。
電脳救命センター。通称「CR」。
永夢がCRに入ると、少年が一人ベッドで横になっていた。ひどく苦しそうだ。
CR専属の看護師、仮野明日那が、
「この子、うちの病院に診察に来た患者なんだけど、診察後に病院の玄関で突然意識を失ったそうよ。バグスターウィルスの感染反応が出たわ」
永夢が少年の顔をのぞくと「圭吾くん!」と言った。ついさっき永夢を罵倒した悪ガキだった。
「知ってるの?」
「僕の患者です」
「え! なんでそのときに気づかなかったの!」
「すみません。診察拒否されたんです……」
「はあ、情けない」
「すみません」
「いまさらしょうがないわ。手遅れになる前に患部の特定を。これはドクターであるあなたの仕事よ、永夢」
「はい!」
永夢は少年の着ていたTシャツをたくし上げ腹部を出した。
「この子、腹痛を訴えて病院に来たらしいんですけど、僕が診たときには腹痛はおさまっていて……」
永夢は両手指を添えて腹部の各箇所を押していく。左下腹部を押したとき少年がひどく痛がった。
「これは、虫垂炎。患部は盲腸だと思われます!」
明日那はCRを統括するコンピュータに、
「盲腸にガシャコンレーザー照射」
と命令した。
天井からロボットアームが伸びてくる。
「もしバグスターウィルス感染症の病巣が盲腸なら、ガシャコンレーザーを照射すればゲートが開くはずよ」
ロボットアームは少年の左下腹部の上で制止し、先端から下腹部に向けてレーザーを照射した。次の瞬間、レーザーの光は四方に反射しCRの治療室全体に幾何学模様を描いた。
「ビンゴよ、永夢!」
永夢は大きく頷くとゲーマドライバーを腰に巻いた。
「永夢。今日のガシャットはこれよ」
手渡されたガシャットには『マイティー・アクションX』のロゴが。
永夢の顔つきが変わった。いままでの自信なさげな表情は消え、余裕の笑みを浮かべた。
「得意中の得意だぜ!」
「さあ! ここからは天才ゲーマーMの出番よ!」
「OK! 圭吾の運命は俺が変える!」
永夢はガシャットを持った腕を前に突き出すと、ぐるっと転回させた。そして、
「変身!」
と叫ぶとガシャットを腰に巻いたゲーマドライバーに挿した。
永夢の体が光に包まれる。と同時に、明日那が「ゲート」と読んだ幾何学模様が、永夢の体も巻き込んで、少年の下腹部へ吸い込まれて消えた。
明日那が取り残されたような格好で少年の脇に佇んでいた。少年は穏やかに寝息を立てている。
「電脳空間へのダイブ成功」とコンピュータが音声で告げた。
「頼んだわよ、仮面ライダーエグゼイド」
時間を若干戻し、永夢の視点から見てみる。
永夢が、
「変身!」
と叫びガシャットをゲーマドライバーに挿した瞬間、CRの治療室がドット変換していくように別の空間へと変わっていった。それと同調して永夢自身の姿も仮面ライダーエグゼイドへと変換されていく。
そこは永夢にとってよく知っている場所、『マイティー・アクションX』のフィールドが広がっていた。本来、横スクロールの2D描画であるはずの『マイティー・~』のフィールドだが、それが3D描画され、かつVRゲームのように自分視点で360°展開されているような風景だった。
しかし、これはVRではない。永夢が自分の体ごと電脳空間にダイブした、正真正銘のゲームの中だった。
しばらくして実際のゲーム同様、ザコキャラたちが姿をあらわした。ザコキャラたちは永夢に襲いかかってきた。
「よっしゃ! 行くぜ!」
永夢は助走をつけ空中へジャンプすると、華麗に伸身宙返りを決め、敵のド真ん中に着地した。群がるザコキャラたち。永夢は、まるでカンフー映画の拳士のように次々襲いかかる攻撃を紙一重でかわし、カウンターで拳や蹴りを叩き込んでいった。
打撃を決めるたびに敵は消滅していく。が、倒しても倒しても次から次へと敵は溢れ出てくる。
永夢は一旦、敵の群れから離脱し、空中に浮かぶブロックを蹴りで破壊した。すると『スピードUP』のコインが出現した。永夢がそのコインをゲットすると動作スピードが二倍になった。
永夢は再び敵の群れの中に突入すると、目にも止まらない速さで敵を全滅させた。
「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」
永夢は危なげなくフィールドの奥へと進み、ラスボスのエリアに来た。いままでにゲットしたアイテムは『スピードUP』コイン2枚、『ライフ上限UP』コイン1枚、『キメ技』コイン1枚だった。
「ワハハハ、よくここまで来たな。しかしここまでだ! 死んでもらうぞ、エグゼイド!」
ボスキャラ「ソルティ」があらわれた。ソルティは左腕に装着した「ソルティ・ナックル」を振り回して永夢に襲いかかってきた。
「お前がバグスターウィルスの本体。お前を倒せば圭吾は元の体に戻る!」
永夢は迎え撃つ。が、いままでの敵のようにはいかない。いきなりソルティ・ナックルを2発食らってしまい、ライフゲージが半減してしまった。
「あぶなかった。『ライフ上限UP』コインをゲットしてなかったら終わってた。でも俺にはこれがあるぜ!」
永夢は自分の胸にあるコントローラーにコマンドを打ち込む。
十字キーを上、上、下、下、左、右、左、右と押し、Bボタン、Aボタンと押した後にスタートボタンを押した。
永夢の右足にエネルギーが集まっていき、鮮やかな光を放ちはじめる。
「キメ技! クリティカルストライク!!」
助走をつけ、ソルティに向かって飛び蹴りを放つ。それが閃光となりソルティの体を貫いた。ソルティは大爆発とともに消滅した。
「ゲームクリアだぜ!」
永夢がガッツポーズをキメる。
「見事だ、エグゼイド」
永夢が振り返るとそこに自分と同じ姿の仮面ライダーが立っていた。色だけが異なり全身が黒だった。
「誰だ!」
「そんなことはどうでもいい。それよりお前はリアルワールドの住人のはず。どうやって我々の世界に入ってきた」
「リアルワールド?」
「我々はまだウィルスサイズの極小のものしかリアルワールドで実体化させることはできない。しかしゲームワールドの住人でただ一人、人間サイズの実体化を成功させた者がいる。そいつは自らを実体化させリアルワールドへ逃亡した。そいつの名はポッピーピポパポ」
「!」
「もしやお前、やつを知っているのか?」
「……」
「お前がゲームワールドに入れることと、ポッピーピポパポはつながっているのか?」
そのとき、警報が鳴った。それはまるで世界全体に鳴り響いているかのような音だった。
「強制射出を行います。衝撃に備えてください。強制射出を行います。衝撃に……」
機械的な声が警告を繰り返す。
ドンッと、地面の底から突き上げられる衝撃。つづけてグラグラと地面が揺れはじめた。揺れはどんどん大きくなり、地面だけでなく空も揺れているように感じた。
永夢は立っているのやっとだった。
やがて永夢の体は発光し、そして光の粒となって、徐々に消えていった。
黒い仮面ライダーは、
「待て!」
と永夢の体を掴もうと手を伸ばしたが、すでに永夢は霧消した後だった。
揺れは益々大きくなり、『マイティー・アクションX』のフィールドが崩壊していく。黒い仮面ライダーは微動だにせず、崩壊の瓦礫の中に埋もれていった。
永夢が目を開けると、そこはCRの治療室だった。
「明日那さん! あいつは?!」
「仮面ライダーゲンム」
「ゲンム?」
「あいつは危険よ。まだ永夢と戦わせるわけにはいかない」
「でも!」
「うう……」
ベッドで横になっていた少年が目を覚ました。
「はっ! 圭吾くん!」
「バグスターウィルス駆除完了。バグスターウィルスは検出されません」コンピュータ音声が告げる。
「圭吾くん。もう大丈夫だよ。悪い病気は僕がやっつけたから」
少年は永夢の顔を見ると、
「僕、夢を見てたみたい。『マイティー・アクションX』の中にいる夢」
と言った。
永夢と明日那は顔を見合わせて笑った。
「圭吾くん、それは夢じゃないかもよ」
「え?」
「なんてね。ははは」
あとがき
これはオリジナルの『仮面ライダーエグゼイド』を批判するものではありません。むしろ私はエグゼイドのファンです。とくにあのデザインとか好きです。
ただ、「次の仮面ライダーは『医療』と『ゲーム』がテーマ」だと情報があったとき、僕は勝手ながらTVドラマ『ナースのお仕事』(古い!)みたいな「病院を舞台にしたドタバタコメディードラマ」と、映画『トロン』(これも古い!)のような「電脳空間でのバトル」が融合した特撮ヒーロー物を期待したのでした。
1話2話を観賞して正直なところ、上記の設定があまり整理されてないような印象を受けました。そこで自分が夢想した設定で愚作を書いてみました。
ま、予算とかいろいろあるのでしょうけども、今後オリジナルも設定が活かされて益々面白くなっていくものと期待しています。
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