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【日本の生涯学習】 肩書きや評価に捉われず、関心ごとをみんなで学ぶ 『シブヤ大学』学長さんにインタビュー


こんにちは!Learning Partner Program(LPP)としてIFASで活動している佐藤です。昨年デンマークのフォルケホイスコーレに留学したことをきっかけにIFASに出会い、今年からLPPとして活動をはじめました。

帰国後「日本にフォルケホイスコーレのような大人の学びの場はあるのだろうか」という疑問を抱いて調べていると、「NPO法人シブヤ大学」という対話型・体験型授業を実施しているというフォルケホイスコーレに似た要素を持つ学びの場を作っている団体を見つけました。

ぜひ直接お話を聞いて、フォルケホイスコーレや大人の学び場に興味を持つ人たちに伝えたい!と思い、今回NPO法人シブヤ大学の学長・大澤悠季さんにインタビューさせていただく機会をいただきました。

ホームページより、シブヤ大学について⏬

シブヤ大学は、渋谷区の様々な場所で、無料で学べる生涯学習プログラムを提供しています。
「学びはもっとゆるくていい」「まじめなことも話したい」「同じ空間で誰かとともに学びあう」「みんなでつくる」「誰もが無料で参加できる」「まちじゅうが学びの場に変わる」という6つのキーワードを大切に活動しています。

https://www.shibuya-univ.net

この記事では、インタビュー形式で「シブヤ大学」についてはもちろん、学長の大澤さんの活動への思いや考えにも触れていきます。
ぜひフォルケホイスコーレをはじめ大人の学びに関心がある方に、読んでいただけたら嬉しいです。





学長・大澤悠季さんがシブヤ大学に辿り着いた2つの理由。


佐藤:インタビューご協力いただきありがとうございます。どうぞよろしくお願いします!
シブヤ大学に関わり始めた経緯をお聞きしてもよろしいですか?

大澤:はい!シブヤ大学の立ち上げ自体は2006年ですが、私自身はシブヤ大学の事務局スタッフとしてご縁があって2019年に入りました。2020年春に運営体制のリニューアルと世代交代を行い、私が2代目学長になりました。

シブヤ大学のような学びの場に興味を持ったきっかけは2つあります。
まずは東日本大震災です。3.11の地震が起きた年に大学の観光学部に入学しましたが、当時日本は観光なんてできない状況でした。だから、ただ楽しむ観光ではなくて、いわゆるラーニングツーリズム / スタディツーリズムといった地域の人々との交流を含む学びに興味が湧いてきました。
一方で日本の大学にいた頃は、震災後ということもあり友達と真面目に社会や政治の話をしたいのに、意外と引かれてしまったりと難しさを感じていたんです。でもイギリスに留学してみたら、同年代の子達が社会的なテーマの話をオープンにカジュアルに会話している光景に出会い、羨ましいなと思ったんです。日本でもそんな光景を増やせないかなと思いながら帰国しました。

2つ目は沖縄での高校魅力化プロジェクトへの参画です。地域コーディネーターとして沖縄で3年間働いている中で、地域の大人と高校生が一緒に学ぶ場の企画をしました。そこで、高校生以上に大人が生き生きと学んでいる姿を見て、地域には大人が楽しく学ぶ場が少ないことに気づいたんです。
それまでは教育っていうと子どものためというイメージが強かったけれど、大人の学びの場も同じくらい必要とされているのかもしれない。大人が純粋な好奇心や探究心を大事にできる社会になれば、子どもたちにとってもいい影響があると思い、大人が学べる場所に関わりたいという気持ちが芽生えました。
「社会的なこともカジュアルに話せる社会にしたい」「大人がいくつになっても楽しく学べる場を作りたい」という2つの軸がシブヤ大学では実現できそう!と思い、シブヤ大学に関わり始めました。

リアルな場で学びと対話を。自由で開かれた学びの場。

佐藤:シブヤ大学で大切にしている考えやコンセプトはありますか?

大澤:リニューアルをする際にまず大事にしたのが「自分たちが行きたいと思えるかどうか」です。
同世代のスタッフと話す中で、現代はSNSがあるからこそリアルな場で、社会的なことやパーソナルなことを自分の言葉で話していいんだと感じられるような、安心して話せる場所が欲しいという声がありました。
普段なかなか話せないけど本当は話したいことや、本当は考えたいけど1人だとちょっと考えにくいことを、誰かと一緒に考えられる場所としてのシブヤ大学」が大きな軸でした。
また、設立以来変わらず大切にしているのは、本当の意味で誰にでも開かれた場であるために無料で開講していることです。無料だからこそ、学ぼう!という前向きな気持ちを持った多様な人たちがごちゃ混ぜで参加していて、支援する側とされる側というような明確な区別がなくみんながフラットになる点も個人的に好きなところです。


佐藤:シブヤ大学の特徴や講座のこだわりはありますか?

大澤:
そうですね。講座の作り方が特殊かもしれません。通常は、受講者と先生がいて、先生が講座の企画をすることが多いと思うんです。
でもシブヤ大学では、授業コーディネーターという、受講者と先生の間に立って企画をするボランティアスタッフがいて、市民の関心や問題意識をもとに企画をしてるので、市民目線の等身大の企画が並んでいます。授業コーディネーターである企画者自身もその講座を受けたいと思うか?という参加者視点を大事な軸にしています。

あとは、シブヤ大学の授業は良くも悪くもあまり細かく先まで計画を立てていません。例えば、昨年ウクライナとロシアの戦争があり、居ても立ってもいられないって久しぶりにシブヤ大学に来たスタッフがいましたが、その人を中心に勉強会が始まって、4ヶ月後にはウクライナに関連する講座を開くことができました。
今年はお正月に能登で震災がありましたが、2月に予定していた東北の震災関連の授業の内容を急遽変えて能登の支援に通づるような授業をやったり。
こんなふうにスピード感を持って授業を実施できるところはシブヤ大学ならではだと思います!


街の色んな人が関わって生まれる学び場づくり。

佐藤:シブヤ大学は、多くのボランティアスタッフが関わっているとHPで拝見したのですが、どのくらいのスタッフがどのような関わり方をしていますか?

大澤:ボランティアスタッフは500人前後いるのですが、アクティブで動いてるのは年間50名前後。色々な人がいて、2006年の開校当時から関わっているベテランから、先月初めて来た人、毎月ルーティンとして必ず来てる人、数年ぶりに子育てが一段落したから来たっていう人も。関わり方の濃度もバラバラで、沢山の人が関わってシブヤ大学は運営されています!

内容としては授業の企画、毎月実施する講座の運営・設営、受付、記録。
ボランティアスタッフは、講座の企画において、「自分が学びたいことを講座にすること」を大事にしています。自分が教えられるものや広めたいものよりも、「自分がこれを今知りたい」「こういう時間が欲しい」を企画にしてもらう。
方向性を決めて、どんなタイトルがいいだろう?場所はどこがいいだろう?構成は?…という感じで企画しています。


佐藤:お話を聞いて気になったのですが、シブヤ大学は教える側と学ぶ側がフラットに学び合うような雰囲気になっているのですか?

大澤:そうですね!先生を務める方も多様です。大学の研究者の方もいれば、子どもや八百屋さんのおじちゃんが先生を務めたこともあります。教える立場ながら、先生自身も積極的に学ぼう!という姿勢の人が多いですね。
そして、講座を企画しているボランティアスタッフ(=授業コーディネーター)の存在が先生と生徒の間にいることが、先生と参加者をつなぐ役割となり、フラットに学び合う雰囲気が生まれているのかなとも思います。
ちなみに、市民が主体的に関わるところや、先生自身も共に学ぶスタイルがフォルケホイスコーレと似ている気がしています。私もフォルケホイスコーレを元々知っていたのですが、コロナ禍にシブヤ大学でIFASに先生になってもらいたいという講座が出てきて、IFAS代表の矢野さんに連絡してみたんです。そこでシブヤ大学とフォルケホイスコーレの共通点の多さや親和性の高さに気づきました!


自分らしくいられるフラットな大人の居場所。

佐藤:シブヤ大学にはどんな方がどのような理由で参加していますか?

大澤:
働いている世代が多くて、三、四十代、そして会社員が一番多いかな。男女比は女性が6割ぐらい。 参加する最初のきっかけは、自分の関心のあるテーマの授業が偶然シブヤ大学でやっていたというのが多分一番多いです。
職場でもない、友達でもない、初対面だからこそ話せる感じ、フラットに場を作ってる感じが居心地がいいと言って、参加を続けてくれる人は多いですね。




佐藤:参加者からはどのような反響がありますか?

大澤:
シブヤ大学に来てる人の話を聞くと、ここでなら話してもいいかなと思ってポロっと言ってみたら、それに対して温かい言葉をもらって、すごく勇気が湧いたという参加者がいました。
他には、仕事をしてるとだんだん「弊社は」といった大きな主語で話す機会が増える中で、シブヤ大学に行くと「〇〇さんどう思いますか」って聞かれる。だから「自分の頭で考えて、自分の言葉で話さないと」って気づける。そうやって自分で考えて話す訓練のために定期的に来てます、という人もいました。自分に戻れる場が普段少ないからすごく楽しいっていう声はかなり聞くことが多いですね。
他者とともに学ぶみたいなことは大事だなと思っています。自分では思いつかないようなことを言ってる人がいて気づきがあるだけじゃなくて、自分のふとした発言を聞いて隣の人が気づきがあったと言ってくれるとかね。お互いに相互作用が生まれる気がしているので、そういった会話の時間を大切にしています。

先月、シブヤ大学での体験や印象に残っているエピソードを参加者から集めるワークショップをやりました。 そこでは、「たまたま参加した授業が転職のきっかけになった」「キャリアで悩んでいたときシブヤ大学に参加したら、背中を押されて今の仕事をもう少し頑張ろうって思った」という声がありました。
現状の何かを変えたいと思ったタイミングで来る人が多く、そのきっかけになっていると思うと嬉しいです。興味深いのは、あえて興味がない講座に積極的に参加してみたら、どんどん世界が広がって面白くてはまっちゃったという人も多いことです!

自分をよりよく知るきっかけとして。

佐藤:大澤さんはシブヤ大学での活動を通して、社会に対してどのような課題意識を持たれていますか?

大澤:まずシブヤ大学は特定の社会課題に対して、その解決のために活動している団体ではなく、より楽しく、みんなが自分らしく生きていけるように、という活動だと思うのです。
そんな中で、日本財団の18歳意識調査で、「自分の行動で、国や社会を変えられると思うか?」という問いの回答が6カ国中最下位が続いている状況には問題意識を持っています。 自己効力感の低さや成功体験の少なさもあるかもしれませんが、自分たちに政治、社会、学校のルールなどを変えられる力があるんだって思える若者が少ないということは、私個人としても、シブヤ大学としても変えていきたいという思いがありますね。
その根底には、社会を変えること以前に、そもそも自分が自分の価値観がよくわからない、自分が何を大事にしたいのか、どんなことが好きで、何を考えているのかがわからないという状況があるのかもしれないとも思っています。
キャリアも家族のあり方もどんどん自由になってきていますし、自分なりの正解を求めていい時代になってると思うんです。でもだからこその苦しみもありますよね。
時代が自由になっている反面、私達の価値観がアップデートされないままになっている。だからやっぱり、自分が大事にしたいものを分かっていて、その価値観に基づいて自分で選んだぞっていう感覚がないと、自分たちで社会を変えられる!という考えにいかない気がしています。
そこで私がシブヤ大学としてアプローチしたいのは、”自分が大事にしたいことをゆっくり、心ゆくまで考えられる。多様な人たちと出会う中で、自分をよりよく知ることができる場を提供すること”ですね。
「学び」って本来の自分に戻れる仕掛けとして効果的じゃないですか。シブヤ大学での学びは職業に直結するようなものでもないし、資格取得のためのものでもないかもしれないけど、「そういえば自分はこれが好きだったな」と純粋な好奇心やわくわくするものを思い出すきっかけになればなと思います。




シブヤ大学学長の大澤さんのインタビューは以上になります。
インタビューにご協力して下さった大澤さん、本当にありがとうございました!
国内の生涯学習の場やシブヤ大学に関心を持つ人に届いていたら嬉しいです🌱
シブヤ大学は、毎月数回、主に土曜日に開講しています。
ホームページやSNSからぜひご覧ください👀

🏫シブヤ大学の情報はこちらから
■HP:https://www.shibuya-univ.net

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